第43話「オタクの心は揺るがない」
「『セット』!」
「『リフレクション』!」
『時空』のカード写真を発動させた三鷹の右腕が白く光り、二枚のリングが浮かんでいた。
「前々から思ってたけど、お前が能力使うと体に影響するよな。黒くなったりブロックになったり。全部そうなの?」
「大概はそうですよぉ〜。能力の性能がそのまま形になるっていう能力の制限なのですぅ。あ、でも閻魔は別でぇ、僕じゃなくとも鬼神化しますよぉ」
「例えば俺の『追撃者』の能力だと?」
「さぁ〜、ちょっと筋肉が膨張した赤い腕になるんじゃありません?と・こ・ろ・でぇ。僕もちょっと気になってるんですけどぉ」
「うん? なに?」
「ああ、いえいえ〜、時間も勿体無いので出発してからにしましょぉ〜」と続け、右腕を前方に掲げる。
すると光のリングが二枚空間に飛び出し、そのにぐねぐねとした異様な空間が出現する。
そこに遠慮なく三鷹が突っ込むので、俺たちも急いで後を追った。
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「おぉ……」
俺は感動していた。
「お、おぉぉぉ……」
涙が溢れ、とめどなく俺の頬を伝った。
「おぉぉぉぉっ……おぉぉぉぉっ」
あぁ、いと素晴らしはファンタズゥイ〜!
俺は今、人類の夢の上に立っている。
タ・イ・ム=マ・シ・ン! フォオオオオオオオオオオオオオ!
「おい『無敵』! 貴様スターになにをした!」
「ぼ、僕に言われてもわかりませんよぉ〜!」
「そんな訳があるか! このカードの能力だろう!」
俺は流れる涙を拭うことなく、悟った笑みで目を閉じ
今にも『無敵』の胸倉を掴みそうなライの腕を押しとどめ、首を振る。
この奇跡に、争いなどもはや不要。
ウィーアーザワールド、ウィーアーザチルドレン
いいんだ……もう、いいんだ……
「あわわわわわわっ! あわわわわわわっ! ク、クレァさんが、こ、壊れたぁぁあ!!」
「お、落ち着いてくださいマリ! マスターが壊れているのは生まれつきです」
俺は焦る二人の少女を優しく抱き寄せ、「大丈夫……」と呟いた。
二人にとっては大丈夫なところなど逆にどこにもなかった。
なにが大丈夫なのだ。大丈夫じゃない状態を大丈夫と本気で信じている時点で、それは大丈夫ではないのだ。
二人はだいぶ混乱していた。
愛しい人に抱き寄せられただけでどうでもよくなったのだが
そしてクレアは、ゆっくりと三鷹に近寄り、その両手を包み込み、感激で打ち震える口を必死で噛みしめながら、言葉を紡いだ
「あ、ああ、あああ、あり、ありありあり、あり、が、ありあ、あああ、ありありありありありあり、アリーベデルチ! じゃなくてぇっ!」
「うわぁぁあ! な、なんなんですかぁ! か、勘弁してくださぁぁぁい!」
「ありがとう……本当に、ばびばどぅうぅぅぅう……あ、ありがと、あ、ああはぁぁぁぁああああん!! 」
今まで感じたこともない謎の恐怖に失神し、かっくんと首を曲げエクトプラズマを吐き出す三鷹の胸で、壊れたラジカセのように感謝の言葉を泣きながら繰り返し
終いにゃ男泣きに辺りを騒然とさせた。
時を超える異空間に、うわぁぁぁぁあああああん!!! という壮大な男のロマンを追い求めた一人の人間の咆哮がこだましていた。
それほどまでに、今鶴にとって重要かつ最要かつ最優先の出来事だったのだ。
毎週金曜某猫型ロボットが送る、【 タイムマシン 】の存在は。
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「うぅ〜ん! あぁ! パーフェクト……」
どうやらこちらに来てから、涙が溜まっていたようだ。
全てを包み隠さず放出仕切った今の俺には、世界が輝いて見えるよ。
「しっかし……まさかリアルドザエもんを体験できるとはなぁ。って、どったのよお前ら」
なんというか……うん、言葉に表すと、「意気消沈」?
「おいおい、今から夢と希望あふれる冒険の旅の始まりだってのに、なにだれてんだよお前ら。ちゃんとしろよ。寝不足か?」
「お前のせいだろうが」
「くぺっ」
いきなり首をつかまれ持ち上げられ、変な声を残し言葉を発することができなくなった。
「なにが夢と希望あふれる冒険だ! 俺の過去に行って、俺が覚醒するだけだろう! 正気になれ!!」
「げ、ゴホッ、グフンッグフンッ! (お、おう、わかったわかった) ゲフゲフッ! ゴッ、ガガギゴッ! (わかったから! ちょ、待っ、ぐえぇぇえ)」
揺らすな揺らすな。
上下に振るな。
死んじゃう〜。苦しいでござるぅ〜〜
「ちょ、ライさん落ち着いて! クレァさん死んじゃいます! 死んじゃいますから!」
「お、おおう。す、すまない」
パッと離された手によって、俺は地面に叩きつけられた。
しかし、今の俺にはそれに対し反論をする余裕などなく
「げ、ゲッホ! ―――ッ―――!! オッホォ! ゲエッホッ! ゲッホゴッホッ オェッ」
「クレァさん! しっかり! 吐きたいなら我慢しないほうがいいですよ」
「いやいやいや。僕の能力空間内でそれは勘弁願いたいんですけどぉ……」
「よし、わかった。おぇぇぇぇぇぇぇええ」
「人の話聞いてましたぁ!!」
長方形の外に広がる底の見えない暗闇に遠慮なくぶちまける。
そう、浮いているのだ。
ちょっと現代から外れた機械ちっくなハンドルが付いた、長方形に浮かぶ物体。
リアルでマジな、あのタイムマシーンなのだ。
「さて、それじゃ出発と行きますか」
「よくもまぁ平然と……まぁいいですけどぉ。出発進行!」
背景が後ろに流れ出す。
いや、俺たちの乗っている長方形が動いているのか。
または両方か。
「で、そういやなんか、聞きたいことあったんじゃなかったっけ」
「ああ、そうでしたぁ。ライさんの過去の話聞いて、覚醒云々はわかったんですよぉ〜」
「うむうむ。それで?」
「それでぇ、僕との戦いで使ったじゃないですかぁ」
この話の流れだと、使ったのはライってことになるが。
なんかやったっけこいつ。
「覚醒前の不完全状態『裏奥義』」
「………………あぁっ!?」
思い出した!
今考えても、なにやってんだこいつ!
あれは
「あれは、覚醒していない状態の肉体じゃまず耐えられない。それだけ神殺しの力は強大なのですぅ。それを使って、なぜ今あなたは平然としていられるのですかぁ? ライさぁん」
「……」
三鷹は疑っているのだろうか。
もうすでにライは覚醒していて、それを俺たちに黙っていると。
そう思っているのだろうか。
でも確かに、それを使って何事もなく肉体が耐えているのだから、それはつまり……
い、いやいや、ライは、加賀瑠璃は仲間だ。
仲間を信じてやれず何が仲間か。
そうだよな。加賀瑠璃
「……これだ」
黙って腕を組んでいたライが、観念したかのように懐からとある瓶を取り出す。
「それはぁ?」
「スター特性の精神安定水、だったか?」
「はぁぁぁああ!!」
つい驚愕の叫び声を上げてしまう。
「な、なんでお前が持ってんだよ!」
「スターがカバンを開いたときにちょっとな」
ど、どうりであのとき数が少ないなぁ〜って思ったんだよ!
お前がネコババしてたのか!
「別にいいだろう」
「いいわけないだろ! そもそも、俺がそれを作った用途は、あくまでティルブリンガーの支配を軽減させるもので、お前の『裏奥義』に効果があるかなんてわかんなかったんだから!」
そうだ。だからこそ俺はライにそれを渡さなかったのだ。
確かに効果的には、『能力の副作用を軽減させる』というものだが、『裏奥義』の副作用まで抑えられるかと聞かれれば、五分以下といってよかった。
「だが現に、俺は平気だ。まぁ完全に消せるわけではないわけだから、それなりに反動もあったが」
「最初ほどではなかった」と薄い笑みを作って下を向いた。
「マジかよ」
「それなら覚醒しなくてもそのまま水飲み続ければいいんじゃないですかぁ」
「そういうわけにもいかんでしょうよ」
「でもまだだいぶ時間かかりますよ」
「どれくらい?」
「あと三日くらいですかね」
「長いな!」
精々三時間くらいだと思ってた。
だってタイムマシーンのお約束じゃん。
なんか裏切られた感があるな。
ま、別にえーんですけどね。
「んじゃトランプでもするか」
「ババ抜きだな」
「え! 僕ルール知らないんですけど!」
そんな感じに和気藹々と新しい仲間との親睦を深めながら
三日間がたった。
少し時は遡り
今鶴「ふっふっふ。指輪の能力を使えば、できるんじゃないか?」
今鶴「そう! タイムマシンを呼び出すことが!」
今鶴「そうとなれば早速! 繋げ『ドリーム☆サイエンス』の世界へ!」
今鶴「現れろ! タ〜イムマッスゥイ〜ン!」
―――プスン……
今鶴「あ、あれ。なんで?」
今鶴「なになに……指輪の規定容量以上です。呼び出すことができません……って」
今鶴「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
ちゃんちゃん




