第36話「VS『無敵』その3」
「うっわ〜。マジですかぁ。なんですかその見るからに人の手に余る危険物ぅ」
「あんたの右手ほどじゃないかな」
「あはは! 言い訳できないですねぇ!!」
「くっ!」
いくら魔剣を飛ばそうと右手で消されて左手で弾かれる。ただ闇雲に剣を打ち出すだけじゃダメだ! 厳選するんだ。右手で処理される場所に右手で処理できない魔剣を。左手で処理するところに左手で処理できない魔剣を。
「行け! 『浮遊剣・フライト』!!」
「『デリー……』あれれ?」
空気に乗って飛翔する剣を10本打ち出す。
空気に乗って浮遊する剣なら、消滅させるために腕を振った時に発生する風で起動を曲げて
「消滅から逃れる! 他にも、空気に乗るから起動が予測できず、狙った場所に必ず当たるホーミング付きだ!」
フォンフォンと空気を切る音が三鷹の辺りを支配し、速度は増し続け、いずれ見えなくなる。
「次だ! 『不壁剣・クラッシャー』!」
あらゆる武器をすり抜けて対象にぶち当たるスキル持ちの剣をこちらも10本。剣特有のスキルだったため魔剣になってもスキルを失わなかった珍しい剣だ。
右からは攻撃が当たらずいつ来るのかわからない音速の剣。
左からはあらゆる武器、今回の場合『盾』をすり抜ける破壊の剣。
「避けれるもんなら避けてみろ!」
「『奥義』・『消滅空間』」
三鷹の奥義コール。
三鷹を中心に黒い大きな球体が広がり、その球体に触れた俺の剣が全てちりとなって消滅する。
「う、ぇ! マジかよ!」
「触れないなら僕の周りにあるもん全部消しちゃえばいいんですよぉ! 面倒くさい」
「クソッタレがぁ! 『爆砕剣・バーニング』!」
何かに触れた瞬間爆発する剣を保有するだけ全部。
ぶっちゃけたところ。さっきのは普通に防がれるの思ってた。だから本数を少しに調整したんだもの。
本命は、こっからだ!
「すぐに消してっ……て! それアリですかぁ!」
「アリなんだよ!」
シザースハンズを振られる前に、爆砕剣が『無敵』にギリギリ近づいた瞬間を狙って、そこらへんで拾った石を投擲。
カチィンッ……カッ!!
「吹きとべ!」
範囲はないが一個だけなら、強化されてる俺の方が早い。それに一個当てられたら、後は誘爆ってな。
「うわわっ! ヤバッ……」
バゴォォォォォォォォォォォォォォオオン!!!!!
「……っ〜〜! ……」
これだけ近くにいると、爆発の衝撃くらいは普通に来るんだよねぇー! きっつー!!
衝撃に逆らわず後ろに吹き飛んだ俺は、所々でがんがんしながら辛くも停止。
剣を構えていつでも対応できる体制をとる。……はずだったのだか
「いやー流石にビビりましたよぉ〜。ちょっと遅かったら右手吹っ飛んでたかも」
いきなり土けむり取っ払って目の前に出現されたら話は別だ。予想外すぎる!
もしかして、爆発とその衝撃、全部消滅させたってのか! どんなタイミングだよおい! 神業すぎるだろ!
「これで終わりですぅ。『奥義』・『壁縛』!」
左手を俺に向け、青色のブロックが幾つか飛び出す。
ヤッベ……これ、俺マジでオワタかも……
そう直感的に悟り、スローモーションに寄ってくる左手を呆然と眺め
「お、『奥義』・『減少現象』!!」
その高すぎる叫びに意識が一気に浮上する。
左手から放たれたブロックが俺の体にぶつかり、ぽよんっという音を残してプルプルと震え弾けた。
好機!
さっきまで流れていた冷や汗が弾け飛び、一気に口元が三日月状に裂けギリっと鳴る。
「『フォース・ギア』ぁぁあ!!」
ボッと黒い火花が飛び一瞬の出来事に整理が追いついていない『無敵』の顔面へと左手を持っていく。
「あ! 『奥義……」
「遅い!」
音も無く炸裂した拳が振り抜かれ、『無敵』は血を吹き出しながら後方へ転がる。
「さ、流石に終わったよな……き、気絶、してる、よね?」
「いたたた。痛いじゃないですかも〜」
「ヤダこれも〜!」
何で平然とほっぺたさすってんのよ! 威力は弱めたけど、普通だったら脳みそが口から飛び出すぞ?
「その前に。いやー助かったマリ。ナイスタイミング!」
「どうでもいいですけど起こし方がちょっとアレじゃないですかねぇ!」
さっき地面にがんがんしてた時、気絶してたマリに頭突きしてしてしまったのだ。わざとではない。決して助けがないときつかったとかそういうわけではない。断じてわざとではないのだ。
マリに惜しみのないグットサインを送る。
「って! ちょちょちょ! そ、そそそその剣! ダメですよクレァさん! だ、大丈夫なんですか!」
「あ。そういやちょっとづつ侵食されてる。あんま大丈夫じゃないかも。ごくごく」
「呑気に水分補給してる場合じゃないですよ! 何なんですかその水!」
「それが大丈夫なんだなぁ。俺特性精神安定水」
精神を支配されるなんつーコアな経験をした後だからわかったが、あれヤバすぎる。
というわけで帰りにカードショップで精神安定剤を買い込んで、その後水と配合し『ブースドン』をかけまくって色々な意味で手遅れになった水を作ったのだ。俺だって人間だ。反省もすれば後悔もする。
これでしばらくは大丈夫っと……ってあれ? ちょっと本数が、足りない? まぁ気のせいか。
「あと5分踏ん張るぞ……指輪の準備もしとかねぇと……」
隣で回復を終えた加賀瑠璃に小声で語りかける。
下手したらこのままあいつの攻撃をマリに無効化してもらって、俺たちが攻撃すりゃぁなんとかなるんじゃないだろうか。
「ちょ〜っとピンチかもですねぇ……しょうがない、使うか……」
ぴっと服の中から、黒い写真を取り出す三鷹。
あ、そっか。あいつもう一つカードが使えるんだ。くっそ! これ以上何が来るってんだ!
「『セット』」
「なんだかわからんが止めるぞ! あの写真、絶対ぇろくでもないもんだ!」
「わかった!」
同時に飛び出すが一足遅く。
その言葉は紡がれ、その瞬間膨れ上がった途轍もない爆風に動きを止められる。
「『リフレクション』」
三鷹の口から犬歯が長く伸び顎まで届き。
右目の眼球が白くその周りが赤く染まる。
そして、ズズズズ……ズズ……と音を上げながら左の側頭部から、天高く聳え立つ凶々しい形状をした漆黒の角が生えた。
「……陰陽の力……解放」
地の底から響くような静かな声で呟いた『無敵』に。
「ぅ、嘘だろ……」
とほぼ反射的に口を開いていた。
悪魔のような姿に変貌した三鷹に、加賀瑠璃・マリ両者ともに言葉を失い。
俺は、絶望にも近い感情に全身を支配され、トラウマがフラッシュバック、泣きそうになりかすれる声で呟いた。
「不完全な、もう一枚の陰陽のカード……『閻魔』」




