第35話「VS『無敵』その2」
「あいつは、能力者の写真を撮ることで、その能力を一枚の紙の中に閉じ込めることができる。
その能力を閉じ込めた写真を自分の体に『接続』し、『反映』することで、一時的にその能力を使用することができる。
ここで注意しなければならない点が幾つか。
まず、カード能力の重複使用が可能。十分に使いこなせるのは3枚までだが、それは逆に考えると3つの能力まで同時に使いこなすことができるということ。俺たちが、一枚しかカード能力を使えないのに、だ。
『消滅』は『黒』のレベル10。
触れたものを暗黒のブラックホールへと吹き飛ばす黒い爪がメインアーム。
『絶壁』は『茶』のレベル10。
腕に数万個とくっついた立方体一つ一つがあらゆる物質を反射するカウンター性能を持っている」
「あはは! 凄いなぁ! なんか全部知られてんじゃん! 情報屋なんてめじゃないぜ!」
「あとだ! 『無敵』は『俺たちの写真』をとろうとしてくる! 一度でも撮られてリフレクションされたらその場で終わりだ! 気をつけろ!」
そう、それがこいつが『無敵』と呼ばれる所以。
撮った相手の能力を行使し全く同じ動きをして相手の行動を無効化し、重複使用されている別の能力で攻撃する。
要するに、こっちの攻撃は全て無効化された上、相手の攻撃は一発でも受けたら死ぬという戦闘になる。
「『デリート・ラッシュ』」
「ライは右側に回り込んでデリートを止めてくれ! その隙に左の壁を俺が壊す!」
「了解!」
三鷹の技名コールに合わせて指示を出す。
『デリート・ラッシュ』はシザーハンズに筋力と風のサポートを付加させる技。
速度が上がった腕を振りまくるといった技になるため、強力な分、隙も大きくなる。
ライの回復能力があれば体の一部が『消滅』されて吹き飛ばされても、すぐに再生させることができる。
俺の場合いくらなんでもなくなった器官を生やすまではできないからなぁ。
悪いライ! 危険な方を押し付けちまって。
「でもま! こっちもこっちでなぁ!」
「『奥義』・『千槍巡・カルディア』!」
「無駄だぁ!」
文字通り千本の槍を生み出すライの奥義を、片っ端から槍をデリートさせることで対応する三鷹。
だが
「ここっだぁ! 『奥義』・『剛拳全力砲』!!」
「あっまいわぁ! 『奥義』・『守善』!!」
消滅の連打を掻い潜り、左側から強襲を掛ける。
槍を消滅させながらこちらを振り向いた三鷹は左の掌をこちらに向け奥義を唱えることで対処する。
左手を覆っているブロックが一つ、地面に突っ込むと
俺と三鷹の間を挟むように青色の巨大な壁が地面から飛び出してくる。
「くぉっ! ……か、固ぇ!」
全力で放たれたトップギアの拳が、砕けない。
完全に吸収しないまでも、しっかりと捉えている。
「うぉ。この壁にヒビを入れてまだ力が残ってんのかぁ。やるぅ! ダメ押しだ!」
ヒュヒュヒュン
軽い音を上げて地面に突っ込んでいく三つのブロックが、再び青い壁となって拳を止めにかかってくる。
「く、ぉ、ぉ、 ! がっ! っやべ!」
壁を二つまで破壊したところで拳の勢いが完全に死んでしまう。
俺の体が停止すると、残った壁がドクンッと空間に衝撃を響かせ始める。
「『カウンター・シールド』発動」
ぱちんと指が鳴った瞬間青い壁が白く発光を始め、
「『奥義』・『悪魔弾』」
壁が粉々に自爆し、その勢いを奥義で相殺しようとするもやりきれず、体が強く後方へと吹き飛ばされる。
「ぐぉあぁぁあ……って?」
「大丈夫かスター」
「お、おぉ。助かった」
「今のが」
「そう、今のがカウンターシールド。やべえな。
あれだけ積み重ねられると俺の一撃も止めれられちまう。
ライも、殴るときはちゃんと一撃で壊さないとダメだぞ?
ちょっとでも残ると壁が自爆することでその壁に蓄積されたダメージが俺たちに倍返しで帰ってくるから」
「さて、今の攻防で10分。
四回これを耐えられれば、お兄さん方の勝ちですよぉ?」
「あぁその。言い忘れてたんですけど? いいですか?」
「? なんですかぁ? 時間稼ぎは不利になるだけですよぉ」
「いやそうじゃなくて、この戦い『ゲーム』として成立されてないから、どちらにしろ強制力がないんですよ。
例えば、残り時間俺たちが耐えきれたとしても、貴方が俺たちに協力しなければならない力が働くわけでもないんです。
そういうわけなんで、『ゲーム』として成立させてくれますかね」
顎に手を置いて少し考えるような姿勢になった後、「えぇ。いいですよぉ?」と答えた。
「んじゃ、俺の要求は、俺の目標達成のため協力してもらう。もちろん全力で。ただし無茶なことは強いるつもりはない。
賭けるものはぁ……なにがいい?」
「そうですねぇ。じゃぁ写真でどうでしょう。
僕が勝ったら貴方方二人の写真を好きなだけ撮らせてもらう権利をいただきます。
何分レベル10の写真はストックがなくて。えへへ。
じゃあ僕の要求は一定期間僕の手駒となり、面倒なことを解決してもらう。最近決闘とか多くてですねぇ。用心棒が欲しいなぁと思ってたんですよぉ〜。
賭けるものは、まぁ、貴方が欲しいものなんでもでいいですよ? 例えば僕の持ってるカードとか」
空間が一瞬青く染まり、はじけた。
「よっしゃゲーム成立! おっと、5分ぐらい経っちまったけど、それはノーカンでいいよ?」
「いや、僕の不手際てっ話でもあるし、別にいいよ」
あっちゃぁ。一気に本気モードに。
まぁ5分稼げたからだよしとするか。
さて、残り時間35分。
あー正直言ってもう1秒もこいつと戦いあいたくない!
「ライ。あと25分、粘るぞ。そうすれば、残り10分はこいつで、決められる!」
指に収まっている指輪をキラリと光らせてみせる。
「後25分だな。よしわかった。ここは『裏奥義』を」
「ばっきゃろ! そんなことしたらお前が死ぬかもしれねぇじゃねぇかアホか! 温存している場合じゃねぇ。切り札出すぞ」
「三つのうち、どれだ?」
「あーバカ! 数教えてどうすんだよ! 一番最初に考えたやつだよ! そういう順番にするってちゃんと説明したろ!」
たくっ。
「へー。切り札かぁ。楽しみだなぁ」
「『奥義』・『クリアメイク・創造剣』!」
「『奥義』・『専剣超狂化状態』」
加賀瑠璃が作り出した槍を一度溶解させ、再び剣の形に作り直す。
加賀瑠璃の、武器を作り出す工程を槍から別の武器に変換させる奥義だ。
放られた真っ黒な短剣を受け取り、物質強化の技『ブースドン』をその武器が耐えられる分ありったけかけまくる。
短剣が発光し、自分の記憶の中にある『それ』へと形を変えてゆく。
加賀瑠璃の奥義の効果がまた発動し、姿形を変えてゆく。
「『合義』! ・『創造魔剣・ティルブリンガー』!!」
かつて桜田との戦いの時、指輪の力で他のアニメから取り寄せた『魔剣・ティルブリンガー』。
それを『武器を作り出す』加賀瑠璃の奥義でその短剣の抜け殻を作り、その中に『物を最大強化』させるおれの奥義で力を注ぎ込む。
その合わせ技により、指輪の力を使わず他のアニメの反則級魔剣を劣化させることなくコピーさせることが可能になった。
「よっしゃ悪くねぇ出来! ライ! お前はジュース飲んでエネルギーを補充しろ、俺はちょっくら、暴れてみらあ!!」
懐かしき感覚を味わいながらティルブリンガーを横に振る。
フォフォフォフォンと俺の周りに何百個と黒い穴が生まれ、
ズズッ、ズズズとそこから不気味にせり出してくる赤黒い魔剣達全てが、一斉に『無敵』三鷹 悠介を対象に見定めた……




