第34話「VS『無敵』」
「おいスター」
「え? オイスター?」
「ふざけてないでちゃんと聞け。本当にこの乗り物でエデンにつけるのか? あそこは……」
「空中に浮かぶ都市だ。ってか?」
言葉を先に言われ口を紡ぐライ。
「ま、心配しなさんな。この車は科学の超発展した未来のアニメから持ってきてんだ」
かががんっ! と急に強い衝撃が車内に広がり、
寝ていたマリが飛び上がり頭をぶつけ、ライがなんだ! と警戒し、ふぅ、そろそろかと俺がつぶやく。
「何がそろそろなんだ?」
「未来の車は、空を飛ぶのが常識だろうがっ!!!!!」
体をピンと張り、いや、逆に反り、右手を顔の下部分に巻き、左の掌を大きく開き顔に覆い被せ、背後から バァァァァアン! という効果音が出るようなポーズをとる。
まさしく気分はバッ○・トゥー・○・フュー○ャー。
空へととんでもないスピードで突撃し、次第にばちばちと放電を始める。
一瞬車体がタメを作るようにクンッと動かすと。
車の目の前に黒い穴が出現し、そこに遠慮なく突っ込む。
「へにゃぁ」
マリが気絶した
「これは……凄いな……一体何がどうなっているんだ?」
疑問を投げかけながらも加賀瑠璃は目を輝かしている。
やはり男の子である。
ロマン大事。これ、世界の定理!
「『爆・カー』新モデル・TD0K・5.4バージョン。外装の武装をほぼ全て犠牲にして満を持して発売された『爆・カー』を超える新時代タイプ。
その性能は、零距離 走 。とんでもない電気量を喰う代わりに、行きたい場所と今いる場所の空間をつなげるワープホールを作り出し、ほぼ瞬間移動にも等しい移動が可能!」
何を言ってるのかさっぱりです。という顔をされた。
「ほれ。着いたやん?」
「マジか……」
マジだマジ。
そん代わり指輪の容量がでかすぎるからホイホイ持ってこれないんだけどね。
容量を100としたら70くらい持って行きやがる。ついでにノーマルの爆・カーは40くらいね。
「あーコミケ行きてぇ」
「こみけとはなんだ」
「こっちの話。ちくせぅ、同人が……」
ふと頭に浮かんだら、妙に悔しく感じてきた。
こう考えてみるとアニオタになって以来コミケに顔出さないのは初めてだ。
「やれやれ。こっちはこっちで堪能してるからいいけどさ。
な? ライ。信じられないと思うだろうけど、エデン、復活してるんだよね」
「あぁ、ここを見てると、美里のことを思い出す」
「そうか……。生き返らせるためにも、俺の目標のためにも、これから行う三鷹との交渉は、頑張んないとな」
「ああ」
三鷹についての説明はもう済んでいる。
俺の知っていることは全て話した。
番外編で出てきた、
『現この世界最強の男』
とあるレベル10のカードを所有している。
そのカードがあり得ないほどのチート。
そいつの協力があれば、今は無き『時空』のカードの力も使える上、神との戦いでも勝率はグンと上がる。
そいつの印象を一言でまとめると
『地味』
メガネをかけていて、服装もカッコいいわけでもなくカッコ悪いわけでもなく、世界最強のくせに威張るわけでも偉ぶるわけでも無い。
性格は極めて温厚。少し内気な少年。
ここまで地味で地味で地味すぎるがゆえにキャラが立ちすぎていて逆に好感度が高いというよくわからないキャラである。
「おい。あいつか?」
「どれどれ? あ、そうそう。あの人だ」
木で作られた安易な家の前でぼーっと空を眺めている一人の少年。
このどこにでもいそうなモブのような少年がなんと世界最強なのだから面白いものだ。
「おーい。すみませーん。三鷹さんですよねー。ちょっとお話しよろしいでしょうかー!」
細められた目がこちらに向く。
なんとも力の無い視線だこと。
「はいぃ。なんでしょぉ」
まだ10代なんだからそんなのろのろとしゃべるなよ。
「どうも申しわけありません。なんの連絡もなしにいきなり押しかけてしまって」
「いえいえぇ。大丈夫ですよぉ。なんの御用ですかぁ?」
「では。ゴホンッ! 単刀直入に言います。
貴方の世界最強の力をどうか私たちに貸していただきたい。
その『無敵』の二つ名を持つ貴方の力を」
一気に眠たそうだった目に鋭さが宿る。
「成る程ぉ。またその話ですかぁ。ならいつも通りきてくださいよぉ。お相手致しますよぉ。そういう話はぁ。僕と一時間以上戦えたらにしてくださいねぇ」
また? いつも通り?
「あぁ、いや、俺たちは……」
「問答無用ですぅ。ではいざ尋常にはじめですぅ」
バッと掲げられた三鷹の手には金のレベル10のカードが収まっていた。
「カードセットォ。 『撮影』ぁ」
「うおい! ヤベェ! ライ! 取り敢えず戦うぞ! なんか勝たないといかんらしい!
カードセット! 『追撃者』!」
「わかった! カードセット! 『命』」
「あれぇ? 今日はいつもと違うと思ったら、お二人ともレベル10の方々じゃ無いですかぁ。
これは気を引き締めないとですねぇ」
三鷹は「一時間以上戦えたら」と言った。
なら別に倒さなくてもいいのか?
そうなると、時間稼ぎで
いや!
「ライ! 初っ端から全開だ! こいつに後手は自殺行為だからな!
この前練習したアレやるぞ!」
「了解!」
「うぉぉお! 『奥義』・『フォース・ギア』!」
「『奥義』・『刀剣王槍・ゲイブルグ』!」
トップギアで体から黒い炎を燃やす俺と、出現させた10本の巨大な槍を空中に浮遊させるライ。
「いっくぞぉ! 『ブースドン』!」
物質を強化する能力を10本の槍にかける。
見た目上の変化は無いが、神話レベルの武器にまでグレードアップしてるみたいだ。
まぁ元がいいからな。
ライとアイコンタクトでタイミングを計り、叫ぶ
「「『合義』・『真・刀剣神槍・ゲイボルグ』!!」」
技を掛け合わせるのが「合技」なら
奥義を掛け合わせるのは「合義」
と言っても、かなり簡単なもの。
強化した槍を、強化した俺の手で、ぶん殴る!
殴る殴る殴る殴る殴る!!
ボボボボボボボン!!
という音がして、連発でマッハを突き抜けたスピードの槍が相手を襲う。
単純なだけに結構強いやつだったりする。
最後の二本はあえて鷲掴みにして少しタメをつけてから、ぶっ放す。
やっぱり鷲掴みで投げたほうがスピード出るわ。
後から投げてるのに気づけば最初に吹っ飛ばしたやつを追い越しているっていうフェイントにもなるんだよな。
気づかないで終わるときもあるけど。
だが
「うわぁ。速いですねぇ。僕こんなスピードの攻撃初めて見ましたぁ」
余裕綽々というご様子の『無敵』様はゆっくりと(極限状態のためそう見えているだけで、本来の速度はマッハを超えてます)両手で『カメラ』のポーズをとる。
親指と人差し指を使って、右腕は上、左上は下で、簡単なカメラのポーズをとると
その指から作られた四角の真ん中に、ターゲットマークのようなものが出現する。
「はいぃ。ちーずぅ」
パシャっ
ズドドドドドドドドドドォン!!!
軽くなったシャッター音を切り裂くように、派手に土煙を上げながら槍の大砲が直撃する。
土煙が晴れると、そこは隕石が降ったかのようにクレーターが何十個も出来ていた。
「いやーいい威力してるよ。これで覚醒前だってんだから。シャレにならんね我ながら」
「やったか?」
あーあ。フラグ立てちゃったよもーー
『こんなんでやられてたら』、世界最強なんて言われないって。
「わぁー。凄いですねぇ。これは僕、本気にならないとマズイですねぇ」
後ろからのんきな声が聞こえてくる。
わーお。さすがファンタジー。
フラグ回収はお手の物ってね。
はぁ……
「どうやって避けたのか参考までに教えてもらえませんかね? 結構いい線言ってる合義だと思ってたんですけど」
「んー? あぁー今のは僕のカメラが写したポイントに瞬間移動する力だから、速度は関係無いんだよねぇー。でもこれを使わないで避けようとしたら、本気でも右か左の指どれか一本犠牲にしなきゃいけないかなぁ。
とっても強いから、大丈夫じゃないぃ?」
御感想どうも。
「『無敵』さんのお墨付きとは嬉しいねぇ。んじゃ次は時間をすっ飛ばして瞬間移動して相手に突き刺さる槍でも作ってみようかな」
「わぁー。それは凄いやぁ。捕まえるのに苦労しそうだねぇ」
「……はははっ」
やべぇ。正直なめてたかも。
「技名唱えてませんでしたよね? どうやって瞬間移動を?」
「それは教えな〜い。はい、話はこれまでぇ。
…………本気出すから」
迸る殺気が一気にあたり全体を支配する。
のんびりとした口調が消え、何枚もの写真がバラッと『無敵』の周りを円を描くように服から飛び出す。
そのうちの2枚を手に取り、右腕でぐしゃりと潰す。
「『セット』!」
技名コールで写真が消滅し、飛び出していた写真が服の中に戻る。
「ライ。これが『無敵』の力だ」
「重要なことは三つ、だったか?」
冷や汗が止まらない。
足が震える。
ライに目を向けると、じっとりと汗をかいていた。
「そう。一つはあいつのカメラゾーン、あの縦7センチ横16センチの四角の中に絶対に入るな。
一つは、もしも入ってしまっても焦らず、写真を撮られる前に離脱しろ。写真を撮られたら終わりだ。
最後に、絶対に、あいつを怒らすな」
「『リフレクション』』!」
ブワッと風が舞い、『無敵』の右手が黒いシザーハンズになり、左手はレゴブロックのような緑色の立方体が何百個何千個とくっついて覆われていた。
「さて、ボクを本気にさせたお兄さん方。
残り時間は50分。楽しもうぜぇ。存分になぁ!!」
右手の漆黒のシザーハンズを荒々しく俺たちに向かって振り下ろす
その途端星と星がぶつかり合ったような轟音と衝撃が俺たちを襲う。
「ぐっ!……スター! 『無敵』が使っているカードはなんだ!」
「た、多分だが……というか信じたく無いんだが……あり得ないんだが……」
「どうした! 早く言え! 『無敵』より勝っているものはお前の『知識』だけなんだぞ!」
「あぁ! もう! わかったよ!
『無敵』がコピーしたのは、
一つが『消滅』。右手に顕現されてる奴だ。
もう一つは『絶壁』。こいつは左手。
言いたく無いが、二つとも一時期世界最強と呼ばれていた奴が所有していたカードだ!!」




