第27話 「口論勝負!?勝ったけど負けた!?」
「っぐぅ、ぐうおあああぁああああ!!!!」
部屋に絶叫がこだまする。
「よぉ〜スター。待ってたよ。たく、こいつしぶとくてなぁ」
「ライ……」
何だ? 何かがおかしい。
「その顔を見るとお前らもどうやら終わったんだな。ん?アズは大丈夫か? どうした、毒にでもやられたか?」
「いや、ちょっと疲れて寝てるだけだ」
「そうか。ほらスター。こっちに出口がある。早く来いよ」
「あ、ああ」
何だ? 加賀瑠璃って、こんなに饒舌な感じだったけ?
そう思いながらも、サッと足を出し加賀瑠璃の近くに歩み寄る。
そして、今鶴のその疑問はある青年の押し殺した、それこそ今鶴にしか聞こえないように放たれた言葉によりはっきりとした。
「ぐうぅおぅ。ぐうぅ、今、今鶴、騙され、うぐおうぁ」
その時カッと今鶴の目が見開かれ、今鶴は両手にブーストをかけ、すぐ隣にいるほどの距離の加賀瑠璃に殴りかかった。腹・右ストレート、右頬・左フック、顔面・右ストレート、胸・左ストレート、顎・右アッパー、心臓・左ストレートーーーーーー―――!!
「うおっ! おぉい!! 何だってんだよスター!!!」
「お前はライじゃねえ!!」
「なっ……ふざけんな! じゃあ誰だってんだ!!!」
今鶴の急所を狙い続ける怒涛のラッシュをことごとく避けながら、加賀瑠璃は今鶴に言葉をぶつける。
その言葉に今鶴ははっきりと断言するのだった。
「お前! サムレヴィーンだろ!!」
バツンッ!!
そんな音が弾け、加賀瑠璃は今鶴のラッシュから逃れ、遠くの階段の最上部まで空中で3回転し辿り着いた。
「ふぅ……何故お気づきになられたのですか? クレァ様」
けっ!? 化けの皮が剥がれたか!!
「それをお前に教える義理があります?」
「はっはっはっ。確かにその通りです。予測も付いておりますがね。しかし、これは一本取られましたな。こうなればこの体ももう用済み」
ふしゅぅぅぅぅぅ……
どこか空気の抜けるような音と共に、加賀瑠璃の体を煙が包んだ。
そして、煙が晴れ現れたのは紛れもなく『サムレヴィーン』だ。
いつの間にか地面で絶叫をあげていたサムレヴィーンは、加賀瑠璃の姿になっていた。
何故、今鶴が加賀瑠璃が偽物であると見破れたのか。それは、加賀瑠璃の必死に絞り出した言葉。『今鶴』と、自分の名を呼んだということである。
今回初めて会った相手が、俺の名前を知っている確率はかなり低い。そのため、地面に転がっているのは加賀瑠璃であり、自分の目の前にいるのは偽物であると断言できたのだ。
「いやはや。クレァ様には敵いません。まぁ、戦闘においてではなく、騙し合いといった部分ですが」
「ああ、そうかい! おい、ライ! 大丈夫か! ほら、回復睡眠薬だ。これを飲め! 寝てる間に回復してくれるから、苦しまないで済む」
何か危ない薬を飲ますようなセリフだが、今はそんなことを気にしてはいられない。
加賀瑠璃はスッと今鶴の差し出す缶に口をつけ、静かに寝息を立て始めた。
「はっはっはっ! 感謝いたしますクレァ様。ライ様いえ、加賀瑠璃様には死んでもらっては困ります故」
「おい。お前今『加賀瑠璃』っつたな。前からこいつのことを知ってる系か?」
「ええそうですね。ですから苦しい偽名を使ってもらわなくとも結構ですよ?」
いちいち俺たちを馬鹿にしやがってぇぇえ!やっぱこいつ嫌い!絶対ェぶん殴る!!
「おお、おお。そう殺気を立てないでくださいクレァ様。まぁ、どうです? 今から貴方にちょっとした余興として面白いものをお見せ致しますよ?」
「はぁ?」
「私と加賀瑠璃様の、クックック。戦いというより、それよりも」
ぶつぶつと何かを呟いているサムレヴィーンに、今鶴が余計イラッとくる。
「おい! お前マジで何が言いたい!!!」
「時期にお分かりになりますよ。行きます! 『奥義』・『記憶再生』!!!」
「奥義! くっ!?」
奥義という言葉に、いつでも対処できるよう準備しておいた腕が輝き始め防御体制をとる。
しかし、そんなものは何の関係もきたさ無いかのように、何の影響ももたらさず、両手を広げているサムレヴィーンがその部屋全体に発した光が、何の容赦もなく今鶴たちを包んだ。




