第15話「自称『チート』!死神の奥の手!?」
「なんのために俺たちを殺そうとしたのか。その理由を聞きたいなぁ!」
「…………お前も、カードのレベルは上げられることを知っているだろう…………」
その場で適確な回答はせず、全身を武装しており顔すら見えないため、表情で判断も出来ない。全身武装人間は、ぽつぽつと話し始めた。
「我が主は……カードのレベルを科学的に上昇させる研究を行っている…………。そのために、現段階でレベルが最高位に達しているカードを研究することが、必要不可欠だ」
「なるほどな。そのために俺を殺して、カードをぶん取ろうと、そう思った訳だ」
「................その通りだ」
「なら今じゃなくとも、俺だけの時に戦えば済む話じゃないのか?」
「今この瞬間を、俺が逃すと思うか?」
その通り、今の今鶴の体力などを平均すると『全開時の約半分』。こんな機会を逃す手は無いのだ。
「かぁー! 面倒くせえ野郎だなぁ。まぁいいや。戦ろうってんなら相手になってやる、かかって来いや」
右人差し指をクイックイッと動かし不敵な笑みを浮かべる今鶴に対し、右腕と左腕を広げ両足を揃え、スッーと浮遊していく全身武装人間は真剣そのものだった。
「賭けるもんは勿論、『お互いのカード』なんだろ。だったら、お前のカード名ぐらい名乗ったらどうだ?」
「…………カード色『青』名を『空間』。我が名は『桜田 孝』カードを賭けることを誓おう」
周りの景色が一瞬青く染まり、弾ける。『賭けの成立』完了。
あくまでこれは『お互いがその賭けを了承』した場合のみ、行える『ゲーム』だ。
賭けなど一切せずその場で殺し合いを始めれば、カードを相手から徴収できない可能性も少なからず存在する。
そのため、桜田は『ゲーム』として成立させることができれば最適だろうと思っていた。
今鶴が『ゲーム』として成立させたのは、ひとえに『怒っている』からと、もう1つ。『ゲーム』はこの世界の絶対領域。逆らうこともできなければ、それなりに制限もつく。だからこそ、『レオ』と『マリ』にとばっちりがいかないように配慮するには、こちらも最適だった。
桜田は、約20メートル程上昇し制止。ありとあらゆる遠距離火力武器が今鶴に標準を定め始める。
今鶴は、スッと腰を中段に構え、ゆっくりと息を吐きながら拳を握った。
そして、一時の静寂がその場を流れる。どちらかが動いた時、それが戦闘開始の合図だ。
レオとマリは緊張感に目を見開き、いつでも対応できるように技を酷使していた。
ズドドドドドドドドドドッッッッ!!!!
ロケットランチャー・弓・ボウガン・大砲、銃、といっても物は様々、ライフル・ハンドガン・リボルバー・自動拳銃が一斉に火を噴いた。
キュウゥイン!
小さい砂埃と軽く高い音を残して、今鶴は地を蹴り,弾丸の雨に突撃した。『視覚』『運動神経』『反射神経』という最も強化難度が高い3つに同時に『ブースト』をかけ、多数の弓全てをへし折り,ロケットを殴り飛ばし,銃から放たれた弾丸全てを避けきり、桜田に肉薄する。
桜田は焦った様子もなく火炎放射器を広い範囲に展開、防御行動に出る。
今鶴は、ゴウゴウと燃え盛る炎に何のためらいもなく拳を突き出す。その勢いは空間を歪ませ、風圧で炎を全て吹き飛ばす。
しかし、今鶴の拳は儚く空を切る。吹き飛ばされた炎の先に桜田の姿はない。炎は今鶴の攻撃を止めるためではなく、視界を潰すことに意味があった。
広範囲に展開された炎で視界を潰し、桜田は瞬時に左方向へ滑るようにスライドし、攻撃をかわしたのだ。即座に2度目の弾幕を左側から展開させる。
強化された金色に輝く足は、読んで字のごとく『空を蹴り』。再び弾幕を処理しにかかる。
これは、超大掛かりな『時間稼ぎ』である。
これを繰り返し行えば、最終的にどちらが最後までたっているかは明白だ。
自分の周りの空間を操作しているだけ(それでも莫大な範囲をだが)の桜田と違い、常に体のあらゆる部位に技をかけドーピングしていることに加え、全開とは全く異なる精神状態で戦い続けている今鶴は、魂のエネルギーの消費も莫大だ。
『魂のエネルギー』とは、『技を作り出す活力』の事。要するに、自分の体の中に存在するエネルギーを形にして、体外に取り出すようなものだ。
勿論それには限界があり、身体中からエネルギーを絞り出せば自分の体がうまく作用しなくなり、最悪死に至ることもある。
現在の今鶴はまさにその状態。
桜田が残り6割のエネルギーを持ってるとして、今鶴はたったの2割しか残っていない。
絶望の状態。このままでは、確実に敗北する。
今鶴は心の中で自問自答を始めた。
どうするか……答えは簡単!!
全ての弾丸を避け切り、今鶴は『技の使用を止めた』。
その後スッと地面に降り立つと、疲れ切りウンザリしたような顔をし、
パシュッン!
といった音をならせ、『追撃者』のカードを解除した』
諦めたのか? 観客、レオとマリの2人もそう思った。
だが、ただ1人『桜田 孝』のみが、その言葉を否定した。
自分を睨みつける少年の表情。『死神のようにネットリとへばり付くような笑み』を浮かべているその顔は、諦めなどといった感情は一切なく、勝利のみを確信しているものだった。
「いやぁ〜。ゲホッ!....なかなかやるよなぁーお前。桜田だっけ?正直言って感心したよ。お前強いわ」
「…………貴様、何を企んでいる?」
ヘロッヘロなその姿で何ができようというのか。桜田はその疑問で頭が埋め尽くされていた。
「なあ〜に。悪いが俺は、異世界人だってことだ。俺の方の言葉で言いまとめるなら『チート』だな。俺は弱いとか強いとかの概念じゃなく、『バグ』ってんのさ」
そう言うと、スッと目の前に右手の中指を持っていく。そこには、真紅に輝く『指輪』がはめられていた。
「この指輪はなぁ。その世界と世界を結んでくれる最高の道具なんだよ。まぁ俺以外は使えないみたいだがな。要するにだ、世界と世界を結ぶってことはだ、『異世界と異世界』を繋げることだってできるってことなんだよ!」
急に異世界だの何だのと喚き始めた今鶴に、皆状況が飲み込めずにいるが、能力を使わずにとんでも無い巨大な力が集まっていくことに皆目を見開いていた。
その力は徐々にまとまっていき、手のひらに銀色に輝く球体のようなものが生成された。
「繋げ!『魔王と勇者とモブの俺!?』の世界へ!」
ガチャリッ!
何か鍵が外れるような音が響き、銀色の球体が不安定に揺れ始めた。
「あらゆる力を凌駕し,絶対的な差を叩き出し,敗北の2文字を否定する,『魔剣・ティルブリンガー』!!」
バチッバチバチッ……ブウウォアァン!!!!
銀色の球体が一気に姿を変えていき、漆黒の、それでいて輝かしいほどのオーラを発する『短剣』が現れた。
皆ポカーンとした顔を晒している中、桜田のみ、その剣の恐ろしさに目を見開き、冷や汗を流した。
「俺の知るアニメの中で最も、『お前の天敵』の武器だ。俺の『チート』ってのはなぁ、あらゆる鬼畜極まりないアニメの武器共を、何でも取り寄せられるっつーとこなんだわ。ま、口で言っても多分わかんねぇし、『魔剣』の力…………
「見せてやるよ」
ブンッ!
軽く横に短剣を振った。
フォフォフォフォンッ!
それに呼応するように、今鶴の周りに多数の空間の穴が次々と形成されていく。
ズズズズズッ!!
多数の空間の穴から、『赤黒く変色した武器類類』が徐々にせり出してきた。
桜田は何を察したか、焦るように、即座に武装を展開した。
「お前の能力と、俺の『魔剣』。どっちが強いか、試してみようか」




