第14話「久しぶりの激戦!想いの種は突然に……」
ズドドドォオアン!!!!
「…………ッ!ガハッ!!」
「ハアッハアッ、ゲホッ! って! おいおいお兄さん!あんたタフすぎんだろ!そもそもがあんた1人で俺らとやりあえるとか、マジバケモンかよ!」
「いや…………、案外……そう、でも無いぞ」
現在今鶴は、相手と比べて比較的ダメージを負っている。たった今も殴り飛ばされ、壁に激突した所だ。しかし、何発かの打ち合いにより、分かった事があるのも確かだ。
敵はいわゆる『合技』というものを使ってきている。要するに、『2つのカードの技を組み合わせて、違った特徴の技を作り出す技術』の事だ。
殴りかかっていている方は、おそらく強化系『赤』のカードを使って、自分の力を上げている。
後ろの方で何かを唱えている奴は、精神系『白』のカードで、俺に直接干渉、大方俺の力を下げるといった技を使っているのだろう。
なるほど、なんつー完璧な組み合わせだか。
自分を強くして、相手を弱くする。勝利以外を否定する、圧倒的なまでの必勝パターン。思わず苦笑いしてしまう。
それでも、押され気味とはいえ打ち合えているのはひとえに『追撃者』のみの力ではなく、その扱いに慣れ、成長した今鶴の力によるものも大きい。
だがまぁ、このままでは勝利する可能性は極めて低い。何故だろうか? 答えは簡単。ここに来る前の今鶴の行動を顧みてほしい。何をやっていたであろうか?
しっかりと睡眠をとり、技の元となる『魂のエネルギー』をたっぷりと蓄え、万全な状態でこの場に臨んだだろうか?
答えは『否』だ!
ただのストレス発散をするが為にこれでもかというほど技を使用した挙句、馬鹿らしいにも対策を立てようともせずにふざけていたら、最終決戦の場にヘロヘロの状態で呼び出された。以上だ!
それでも特に焦りもせずにのほほんとしていたのは、ただ「あいつらもどうせ同じようなもんだろ?」と勝手に相手を憶測でみ余っていただけの事。阿保としか言いようが無い。
だが!今 鶴は「過ぎた事は仕方が無い!」と勝手に自分を弁護し、「そんな事を悔いているぐらいなら、少しでも体力回復をしている方が良い!と、自分の失敗を棚に上げ、いかにももっともな言葉で言いまとめると。「少しでも体力回復」のため、取り敢えず…………。
「よお! お前ら〜。俺は『スター・クレァーン』(クレァーンとは、英語で鶴……だったはず。今勝手に作った偽名である。)年齢15歳。好きな食べ物はカップラーメン。生き甲斐は『アニメ』。いや、生き様かな?ちなみに彼女募集中。髪ボッサボサのやれやれ系主人公狙ってるんで、どうぞよろしく!」
唐突に自己紹介。『時間稼ぎ』を始める。
いきなり訳のわからない事を言い出した今鶴に、2人は揃って頭の上に『?』のマークを浮かべた。
「お〜い。なんだよなんだよ! 戦う前には取り敢えず名前を名乗って、ついでに自己紹介するってのが常識だろうがよぉ〜。ん〜」
そんな常識あってたまるか!と、いつの間に集まったのかドームの観覧席に満員の客がおり、口には出さないが皆心の中でそう叫んでいた。
しかし…………
「えっ! そうなの? 悪い知らなかったわ! えーっと、俺は『ミルティア・レオン』年齢同じく15歳。明るく活発!カード『追加』の所有者です。『レオ』と呼んでくれ!」
素直なのか。ただの馬鹿なのか。カード名までレオは丁寧に?自己紹介をした。
そして……
「あ、あの。その……。私『ローレシア・マリン』、とも、申します。15歳です。その……ひっ人見知りで、あまり…………運動とか、得意じゃ無いです……。うぅ…………。マ、『マリ』と呼んでください……」
今鶴はつい見惚れてしまった。深くフードをかぶっていたため女性とはわからず、ふわっとウェーブのかかった銀色の髪と、琥珀色の澄み切った瞳に釘付けになってしまい、心なしか頰が軽く赤くなった。
今鶴の視線に気がついたのか、恥ずかしそうに顔を真っ赤にし視線を下に向けモジモジとしている姿に今鶴の精神が半ばノックアウトしかける。
「んじゃぁ改めて、勝負と行きますか。スターさん? スターくん?」
「好きに呼んでくれ」
「んじゃクレさんで」
こうしている間にも、今鶴の体は急激に回復していた。元々の自己治癒能力を狂わすように急激に活発化させたりしていくうちに、軽い操作ならば、『ブースト』をかけずとも行えるようになり、エネルギーを消費させずに効率よく回復することに成功していたのである。
「行きます!」と言い残し、瞬時に飛びかかるレオは、とても嬉しそうな顔をしていた。何故だか今鶴にはわからない。今までレオとマリのコンビは強すぎたがために本気で戦える相手と未だ戦えずにいた。それがたった今行われているのだから、嬉しく無いわけが無い。そんな「楽しそう」に戦うレオにつられ、今鶴も次第にこの戦いがすごく楽しく思えてきた。
そして、不敵に笑う2人が再び拳を交えようとした瞬間……
天井を突き破り、無数の、それも天井を丸ごと包囲するような大量の弾丸が降り注いだ。
「「「!」」」
今鶴・レオは同時に反応し、身体を強化し防御体制をとったが、ただ1人どうしても反応出来ない者がいた。降り注ぐ弾丸の雨は、『3人』を捉えている。
身体能力に自信が無いといった。『マリ』だ。
弾丸は上手いことに観客に向かず、完全に3人のみに標準を定めていた。
「相棒ォォォ!」
レオが悲痛の叫びをあげ、最高速度でマリの方へ駆け寄ろうとするが、一足遅かった。
レオが本気で突っ込んでも、もう手遅れだった。
マリは上を向いたまま、震えながら目尻に涙を浮かべ動けないでいた。
「自分は死んでしまうのか?」「何で?」「嫌だ!」「でももうどうしようと無い」そんな言葉がマリの頭の中で渦巻いていた。
目の前に多数の弾丸が接近し、
マリはギュッと目を閉じて最後に大声で念じた
「…………助けて!」
ズザァァァァァァア!!!!
ドドドドドドドドドドッッッッッッ!!!!
弾丸が地面を叩きつける音と………『何かが滑り込む音』は同時だった。
「………?」
マリはある疑惑にゆっくりと涙を滴らせ目を開けた…………そこには、想像した痛みや恐怖はなく。ただ安心できる、温かみに包まれていたからだ。
「…………へっ?」
何が何だか理解が追いつかずに、出てしまった間の抜けた声に、応答した声は安堵に包まれていた。
「大丈夫? ……良かった」
そこには、自分の相棒と実に楽しそうに戦っていた少年がいた。
そう、今鶴は『一足早かった』のだ。
「彼女が危ない!」
その言葉を思った時、電撃が走ったかのように思考をかなぐり捨て、行動に移していた。マリに無数の弾丸が被弾する直前に、ギリギリでお姫様抱っこの要領で抱きとめマリを守ったのだ。
「……えっ? あの…………」
そのままスッとマリを優しく地面に座らせると、素早く上を向き果てし無い殺気を上空にはなった。
風穴だらけとなった天井から、1人の男が降りてきた。
身体中、いや、その者の周り一体に大量をはるかに凌駕した数の武器が浮遊していた。
「…………」
何も言わずに。殺りそこねたか、というような顔する全身空間武装人間に、今鶴が口を開く
「テメェ……何のつもりで俺たちを攻撃した………」
「…………殺すためだ」
たっぷりと間を空けてそう答え、マリをギロリと睨んだ。マリはヒッと肩を震わせるが、何故かすぐに落ち着いた。何故か?それはすぐに理解できた。
「…………大丈夫。安心しなって。守ってやるさ」
そう、クレァーンと名乗る少年に言われた言葉に、何故か鼓動がドクンッと跳ねた。
何故か頰が熱っぽくなり、体が仄かに不思議な暖かさに包まれた。
それが何なのか。それをマリが自覚するのは、少し先のお話…………




