第13話 「久しぶりの激戦!驚愕の一撃!」
アズという少女により、動揺し、涙し、安心し、その後あんな事やこんな事を迫られ絶叫が絶えない一夜を明かし、加賀瑠璃は何の気を遣ったのか別の部屋をとり、次の朝ニヤニヤとした顔で定番「昨夜はお楽しみでしたな」の炸裂コンボを叩き込まれた今鶴は
その……なんというか……壊れていた。つうか崩壊していた。顔を伏せたままホテルを出て、何も言わずに『フロンティア・ラグ』を取り出したかと思うと…………
「ヒャッハァァァ!!汚物は消毒だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と、喚き散らし今に至る。オレサマメガラッキーなどと叫んでいる姿は「お前は何処の世紀末ラ○ダーだ!」とツッコんでくださいと言わんばかりだ。
今鶴はまさしくバーサーカーとなりて、大会出場者を高速で駆逐していく。相手の反撃を喰らおうとも、自己治癒能力に『ブースト』をかける事で傷が一瞬のうちに消滅し、不死身の化物とかしていた。「お前12回くらい死んでも生き返れるんじゃ無いの?」と疑問ツッコミを叩き込まれて当然の始末である。
それでも必死の抵抗を試みる勇敢なるモブ共に「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァ!!!!」と悪魔の顔面を晒し切り捨てる今鶴は、『八つ当たり』という名のスタ○ドを背に、高笑いを上げていた。リアルでのアニオタ魂が産声をあげる。
「まだまだいくずぇー!」と叫ぶ今鶴にようやく制止がかかる
「ちょっ! マスター! 落ち着いてください!」
「んん〜? アズよ! 止めるで無い! 俺は今最っ高〜にハイッ、な気分だ! さあ! 共に走ろう! あの夕陽の彼方まで!!!!」
少々、嫌、かなりご乱心なマスターを見かね、少し怒ったように止めようとするが、この程度では、物凄くいい顔をしながらそれでいて何処か物悲しげに「あははっ僕もう疲れたよパトラッ○ュ」といった風を醸し出す素晴らしき顔面をしたバーサーカーは止まら無い。
「マスター…………。これ以上お自分を見失われるのでしたら、致し方ありません…………マスターが止まらないと申すのでしたら、私が責任を取り…………」
「『脱ぎます!』」
ブオゥァアサァァア!!!!
果てしなくデカイ砂埃が舞い、バーサーカーは瞬時に今鶴虎終と変化、高速の速さは物理的にありえない圧倒的脚力にねじ伏せられ、敬礼をした状態で制止。一瞬の静寂は「地球が死んだ!」と表すにふさわしい静けさだった。
そして今鶴は、「おい!この瞬間に置いてお前が脱ぐ必要は無いだろう?俺にどんだけの精神的ダメージを叩き込むつもりだよ!アンタわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」とどっかのパイロットのような叫びを心の中で言い残し、昨日からの蓄積ダメージがついに致死率に達したのか、いい笑顔のまま、顔面から地面へと突き刺さった。
〈〈マルキース王国・繁華街・路地裏〉〉
あれだけ大暴れしたバーサーカーは落ち着いたのち、「はて? 記憶にごぜえません。」とふざけた口調でヘラヘラする阿保に戻っていた。
「マスターが撃退したチーム数・計57チーム。大幅に人数を減らしたため、運営側から『あなたを決勝戦出場者として認めます。決勝戦の相手が決まり次第、場所等をお教えいたしますので。それまで静かにこの街を楽しんでくれたら光栄です』といったメッセージを頂きました。」
言外にありありと『大人しくしてろよ!この野郎!』と言っているのを感じ、つい逆らってみたくなるが、決勝戦は場所が指定されるという事に意識が向き脳の何処かに押しやられる。
「なぁ今鶴……」
「加賀瑠璃よ。これから俺の事は『スター』と呼んでくれ」
「なぜだ?」
「これから本名を使うのはなるべくよした方がいいと思ったからだ。確かカードで『名前』を使用又は前提として発動する能力があったはずだ。そいつらに偶然名前を知られてしまっては厄介だからな」
「それはいいんだが。何で『スター』なんだ?」
「『追撃者』からとった」
「ネーミングセンスを疑うぞ………」
「加賀瑠璃は『命』からとって、『ライ』な」
「なっ! もう決まってるのか?」
「チーム名も、『スター・ライ』にしちゃったし」
なかなかのチーム名だと自負しているとも
「まぁ何でもいいが。それより話をさせろ!」
「ああ、悪い。どうぞ」
「…………腹が減った」
「そんなん自分でなんとかしろや!」
「もう我慢の限界だ」
「はぁ。わかったよ。何処かで買い食いでも.............」
だがそこで今鶴の言葉が遮られる。『フロンティア・ラグ』から送信が来るのと、敵の気配を感じるのは同時だった。かなり近くまで迫ってきている。
「『決勝の相手チームは、チーム『不平等』。決勝戦の会場へと転送します』」
ブウゥン!
といった音と共に、大きなドームのようなところへと飛ばされた。
「ほー。飛ばしてくれるとはありがたい。移動する手間が省けるってもんだ。なぁ、ライ」
早速教えたばかりの名前を呼ぶが反応が無い。
「ライ?」
周りを見渡して気づく、『加賀瑠璃がいない』事に。
理由は簡単。腹が減りすぎている状態に持ってきてうまそうな食べ物の匂いに吊られて加賀瑠璃は瞬間的にその場から離脱し、転送範囲に捕まらなかったのである。
「え、ちょっえっ何で?」
だがそんな事は知らない今鶴は狼狽する。もう既に敵は転送されており、戦闘準備が完了している。今にも襲いかかってきそうな勢いだ。
ていうか襲いかかってきた。
「あんの馬鹿やろぉぉ」
小さく呻いて臨戦体制をとる。どうやら襲いかかってきているのは1人だけで、もう1人は後ろで何かを唱えている。補助役だろうか。
「まぁいいや。しょっぱなでぶっつぶす。『ブースト』!」
ガキィィイン!
強化した拳で蹴り上げられた足を向かえうったのだが、そこで今鶴の目は驚愕に見開かれた。
足と腕でぶつかり合った状態で動きが制止した。それはどういう事か、すなわち『威力が同等』という事だ。
驚きにより一瞬止まったまま動かない隙を狙われ、反対の足で蹴り飛ばされた。
かなりの距離後方に吹き飛ばされるものの、何とか体制を立て直したが、驚愕の顔を隠せない。
それもそのはずだろう、『追撃者』の強化能力は随一。それを越えるならば幾つもの技を重ね合わせる『奥義』を使わねばならないはずだが、そこまでの時間が短すぎる。ならばレベル10か?いや、そうだとしても、パワーなら俺が圧倒的に有利のはずだ。なぜだ?わからない。どうなっている?
頭が半ばパニック状態に陥る中、蹴り飛ばした張本人が言葉を発する。
「うえ!? マジかよ! おいおい勘弁しろよ。俺の技と相棒の技のコラボレーションと同等だとぉ。 おいおい…………燃えるじゃねえか」
軽くステップを踏みながら、愚痴るように軽口を叩くが、最後の言葉はかなりトーンが下がり、やる気マンマンでーす! と示していた。
「…………チッ」
おいおい勘弁してくれよ? 俺がいいてぇよ。
そう心の中で呟き、小さく舌打ちをする。
今までとはまた違う。とんでもないコンビだと物語るように、今鶴の頬に嫌な汗が流れた…………




