善人☆スクールライフ☆☆☆彡 後編
早めに家を出ちまった。オヤジと顔を合わせるのが恥ずかしいって思春期の中学生みたいだな……
まあいいや。コンビニで立ち読みでもして行くか。
「ぁ……あの! 純さんおはようございます」
「お、おお。妹ちゃん後ろにいたんだな。おはようさん。随分早いな」
「クラス全員での大縄跳びがあって、それの練習で……純さんもですか?」
「あー懐かしいな。そんなのがあったわ。あれは1年生限定の競技だから違うんだ。まっなんだ、早く目が覚めちまってな。家にいても仕方なかったし」
「なるほどです……よければ一緒に学校へ行きませんか? お姉ちゃんも喜ぶと思います」
「へっ? 紗倉川もいるのか? っていつの間に来たんだよ!」
「失礼ね。忘れ物をしたから取りに行ってたのよ。それと涼奈、私は彼と一緒に学校へ行ったからといって喜ばないわ」
「お前ら姉妹は俺を驚かすことが好きだったりするのか……? まあいい。紗倉川は俺と学校に行きたいんだろ? ん? 仕方ねえから一緒に行ってやるよ」
「憎たらしいわね……違うと言ってるでしょ? でも、別々に行く理由もないし、一緒に行きましょうか」
紗倉川姉妹がどうかはわからねえが、俺は結構嬉しかったりするんだけどな。
照れくさいから言わねえけど。
「懐かしいですね……こうやって3人で登校するの」
「小学生の時以来か? 確かに懐かしいな」
「中学生の途中で、あなたが恥ずかしがって一緒に登校しなくなったものね。朝起こしに来てくれなくなって不便だったわ」
「男にはそういう時期があるんだよ!」
俺は目覚まし時計かよ。つうか朝起こしに行かなくなったのはお前の寝相のせいだぞ……
「それにしても徒歩通学はめんどくせえな。自転車ぐらい使わせてくれもいいのによ」
「それには同意ね。駐輪場のスペースが狭いから仕方ないとは思うけれど」
「徒歩30分圏内に学校がある人はダメなんだよね?」
「ええ。あと少し遠ければ自転車通学でも問題なかったの」
「俺や紗倉川は帰宅部だし、まだいいけどよ。妹ちゃんはテニス部だろ? 道具を持って歩くのは大変そうだな」
「結構重たいので少し……でも歩くのが好きなのでそこまで大変じゃないです」
「そうか。ならまだましなのか」
「今の話の振り方から、荷物を持ってあげるのかと思ったら違うのね。別に持ってあげたら? とは言ってないわよ」
「め、面倒な奴だな。妹ちゃんが疲れてるならともかく、そうじゃなきゃ持たねえよ。俺はそこまで優しくねえ」
「なんとなく考えは理解できるのだけれど、モテない男の発言であることは間違いないわね」
「うっせえ! 別にモテたかねーよ」
「私は純さんのそういう考えいいなって思います」
「流石は妹ちゃんだな。紗倉川と妹ちゃんの違いはこういうところにだな……」
ん?あの婆さんは……また信号が渡りきれるか怪しいな。
「わりぃ、ちょっと外すぞ」
「おいおい、婆さん。前にも言っただろ? 荷物を減らせってな」
「すまないねえ。来週孫たちが来るからつい買い込んでしまって」
「気持ちは理解するけどよ。もう3回目になるが、次は荷物を減らせよな。事故にあったらそれこそ孫に会わせる顔がねえぞ」
「何度も助けてくれてありがとう。次こそは必ず買う量を減らすよ」
「それを聞くのも3回目だけどな……じゃあな。俺は学校に行く途中だから、気をつけて帰れよ」
「今度会ったら恩返しさせてもらうからねえ。学校頑張るんだよ」
「気が向いたから手を貸してるだけだ。気にすんな。ぼちぼち頑張るよ」
「待たせちまって悪かったな」
「待つのは構わないわ。けど、ここ一週間で恐ろしい変わりようね。褒められるべきことなのだけれど……」
「なら素直に褒めとけ。そういうこと言われるとまた元に戻るかも知れねえぞ」
「そうね、あなたは偉いわ。見ず知らずのおばさんを助けるなんて、なかなか出来ないことよ」
「純さんかっこよかったです。なんだが昔の純さんに戻ったみたいで……」
「実際に褒められるとなんだかむず痒いな……まっ早く学校に行こうぜ。妹ちゃんが遅刻したら悪いしな」
「そうね……私達はゆっくり行っても問題ないけど」
「お姉ちゃん酷いよ!」
相変わらず仲がいい姉妹だな。
それよりも今は俺自身のことだな。昔の俺……いい人であろうとした俺。そして薬の力でいい人になっている今の俺。
薬が切れたあとの俺は……今考えても仕方ねえか。昨日なるようになるって思ったばかりだしよ。
「はあはあ……山田! 俺は学年何位だ!?」
「お疲れ様! ちょっと待ってね…………2位だよ! 20人もいるのに凄い!」
「よ、よしこれで可能性が出てきたな。もう1人は?」
「まだ随分後ろみたい。うう、上北君あんまり運動得意じゃないからね……」
「なんで配点が高い長距離走に選ばれたんだよ……まあビリじゃなきゃ問題ねえか」
まさか体育祭ごときに褒美が出るとはな。
ずっと昔からの伝統らしいが、全然聞いたことがなかったぜ。
「川岸は、去年食堂のタダ券と体育の成績に色がつくのは知ってたか?」
「先輩からの噂話でな。事実だとわかったのは優勝したクラスの体育の成績が全員4以上だったからだ」
「俺は全然知らなかったぞ」
「ふっ、それはお前に友達がいないからだな」
「もう~なんで健人はそんな言い方するの!」
「事実は事実だ。それにしても、まさか俺達B組が優勝を狙えるポジションにいるとはな……」
「純くんが長距離走で頑張ったからだよ! これも事実でしょ?」
「くっ、まあな。だが、優勝候補のA組やF組から怪我人が出てしまったからこそ、俺達が優勝を狙えるのもまた事実だ」
「健人は素直じゃないなあ」
「今上北って奴がゴールしたみたいだな……学年16位か。思ったより頑張ったな」
「だね! これで僕達が学年対抗リレーで1位になれば優勝だよ!」
「付け加えるならF組が3位以下ならな。おい、森! 体力は大丈夫なのか」
「正直キツイが、走るのは最後だしな。問題ねえ」
「そうか、ならいい。まあ少しでも休んでおけ」
「お、おう」
「うんうん! 純くんはエースなんだから今のうちにしっかり休んでね」
「おう、休ませてもらうよ。っと今のうちに小便してくるわ」
「遅れずに戻って来いよ」
「わーってるよ」
なんだか気を使われると焦るな。
前紗倉川が言ってた、まともならそれ相応の接し方なるっていうのはこういうことなのかもな。
それにクラスメイトから下の名前で呼ばれるのは高校に入って以来初めてか……
悪い気分じゃねえ。
「ふう、スッキリした。ボチボチ行くかね」
「森」
「うん? 大山先生か。誰かと思ったぜ」
「長距離走見ていたぞ。よく頑張ったな」
「2位だったけどな」
「順位の話じゃない。真剣に走っていたことに対してだ」
「ああ、まあそれは気が向いたからだよ」
「恥ずかしがる必要はない。練習も真面目に参加していたのを知っているからな」
「別に恥ずかしがってねーよ!」
「お前と出会ってもう3年目か……今の森を見れて俺は嬉しいよ」
「まあ、なんだ。大山先生には感謝してる。中学の時暴れてた俺を体張って止めてくれたしよ……あの時の俺はアンタぐらいしか大人を信用できなかった」
「そう言ってくれると教師冥利に尽きるな」
「それに、この高校を勧めてくれたこともな。アンタが担任じゃなきゃ今頃高校を辞めてただろうよ……湿っぽい話は似合わねえな。そろそろリレーが始まるから俺はもう行くよ」
「そうか……応援しているぞ森。先生としても、俺個人としてもな」
「へっおっさんにばっか期待されちまうな。まっ期待には応えてやるよ!」
「おーい森くん! こっちだよ~」
「森北か! 今そっちに行く」
スタート地点に近いからって、人多すぎんだろ。歩きにくいな。
「遅いぞ、森。最終確認をすると言っただろ」
「悪かったよ、最近つまり気味なんだ」
「汚いわね……走る順番はどうするの? 川岸君」
「は、はい! えーっと最初に紗倉川さん、2番目に森北さん、3番目に山田、4番目に自分、5番目に森です」
「ま、真ん中なら遅くても目立たないよね?」
「わからねえぞ。森北が1位や2位で走っていたら、次の走者も注目されるしな。どんどん順位を抜かされていった日には目も当てられねえな」
「ええー! それは嫌だなあ……」
「1番目立たないのは川岸だな。山田は俺たちの中で1番遅いから、抜かされることはあっても抜くことはねえだろ? つまり山田をスケープゴートにする気だ。小賢しいやつだぜ」
「そんな考えで僕を真ん中にしたの!? 健人酷いよ!」
「違う! F組のランナーの速さを見て決めたんだ。それに森も酷いことを言っているぞ!」
「“も”ってことは自分も似たようなことを考えてたんだな。ひえ~なんて野郎だ」
「森ぃ!」
「仲がいいのは構わないけれど、そろそろ始まるわよ?」
「くっ……さ、紗倉川さんの前で……覚えとけよ」
「耳元でボソボソ言うな! 気持ち悪いわ!」
「ほらほら、彩の邪魔になるから皆行こう?」
「へいへい、紗倉川ぼちぼち頑張れよ」
「気の抜ける応援ね。あなたを笑うためにも頑張らせてもらうわ」
「ったく」
「2年生クラス対抗リレーに参加する生徒は所定の位置に付いてください」
アナウンスか。早く行かねえとな。
「お前らここまで練習したんだから、優勝以外ありえねえからな!」
「お前に言われるまでもないな……目指すは優勝だけだ」
「僕も力いっぱい頑張るよ!」
「うんうん! ここまで来たんだから優勝するしかないよ! クラスの皆も期待してたしね~」
「今のあなたを見ていたら、頑張らないわけにはいかないわね」
「おしっ! じゃあまた後でな」
ここでいいのか? 随分皆と距離があるな。
柄にもなく緊張してきたぜ……
「おい! 森!」
「あん? なんだよ。お前誰だ?」
「覚えてねえのか!? 月曜日散々タコ殴りにしただろうが!」
「あーー…………あっ! アニキか! 覚えてる、覚えてる」
「ぜってえ忘れてただろうが! それにアニキって名前じゃねえ。大木太 創って名前があんだよ」
「名字はピッタリなんだが、創って、いや、うーん、まあ将来に期待ってやつか。つうか一緒の高校だったんだな」
「おめえに期待される将来なんてねえ。俺もつい最近知ったんだけどな。早速リベンジできるんだから、へっへっへっ、ツイてるな」
「お前の図体からして、速そうには見えねえな。ちなみに何組だ?」
「ああん? そんな舐めたこと言って大丈夫なのかぁ~? 森くぅん。 F組だよ。お前らのライバルってことだ。最高のシチュエーションだよなぁ。大勢の前でお前を倒せるんだからよ!」
「キモ! なんだその喋り方! 見掛け倒し3兄弟からホモ3兄弟に改名すんぞ」
「俺を舐めやがって! 俺達にはもっとカッコイイ名前が――」
「あっどうでもいいんで。それにF組なら情け容赦なく潰すだけだ」
確かF組は運動が得意なやつが多いって言ってたな。
その中でリレーのラストを任せられたのか。
ならコイツは見かけによらず早いのか?
「ほお? 潰す? 陸上部のエースである俺様をか! いくらお前が喧嘩で強くてもなぁ、走りでは俺に勝てねえよ!」
「エース!? そもそもお前不良ぶってる癖によく部活に入ってんな」
「練習には出ねえけどな。大会ではバリバリなんだよお! 部活に入った理由は、そのかーちゃ―――カバンの底より深いんだよ」
「カバンの底って浅くないか?」
「細けえことをツッコムんじゃねえ!」
「へいへい。まっ陸上部のエースだろうが、負けるつもりはねえよ」
「へっ、それでこそ俺のライバルだ」
いつの間にお前のライバルになったんだよ。
この前ボコボコにされたのに、よく言うぜ。
「位置について! よーいスタート!」
「げっ! もう始まっちまった。軽く準備運動しようと思ってたのによ」
「嵌ったな! これが俺様の作戦よ! 話をして、お前に準備する時間を与えないためのな! ちなみに俺はもう準備バッチリだ」
「セコっ! セコ過ぎんだろ! まあいい……さっき走ったから足は出来てるしな」
これ以上こいつと話す必要はねえな。
紗倉川はどんな感じだ……
「A組の谷くん速い! 2番走者にもうすぐバドンを渡します。A組も条件は厳しいですが、まだ優勝の可能性があるため諦めません!」
流石に何人か怪我人が出たとはいえ、配点の高いリレーには使えるやつを置くか。
まあA組はどうでもいい。問題はF組だ。
「谷君の後ろを走っているのは、B組の紗倉川さんです! 1番走者は10人中7人が男性の中大健闘です!」
おお、流石は紗倉川だ。あいつ帰宅部の癖に運動全般できるな。
何か部活に入りゃいいのによ。
「A組、B組と優勝の可能性がある組が、1位、2位です。優勝候補筆頭のF組は……なんと現在8位! いったいどうした!?」
「ぷぷっ8位? 聞き間違えちまったかな。大木太くぅん、F組は今何位?」
「うっうっせえ! それにその喋り方気に食わねえ!」
お前の喋り方を真似たんだけどな。
なんにしろF組がその順位にいるなら安心だ。
「谷くんに続き、紗倉川さんもバトンを次の走者に託す! 走者が変わり、この後の展開はどう変わるのか見ものです」
森北頑張ってくれ! お前が順位を落とすとこの後落ちるだけになる!
「F組の和田くん、順位を少し上げ、6位で次の走者にバトンを託します」
「8位のままならどうしてやろうかと思ったが、6位なら喝は免除だな」
「喝って何をする気なんだよ。まっ6位ならF組を警戒する必要はねえな」
「けっ油断してられるのも今のうちだぞ。森ぃ~」
こいつ時々野太いチワワみたいな声を出すけど、こええよ。
「おおっと! B組の森北さんが、A組の川下さんに肉迫する! ……抜いた~~!ここで1位はB組に変わりました!」
「よしっ! 森北いいぞ。股もよく開けてる」
「おい、股って女になにしたんだよぉ、森ぃ」
「あん? 別に何もしてねえよ。それよりF組は……もう4位かよ。噂に聞いてただけあるな」
「当たりめえだ! 俺様がいるF組なんだから、B組なんてすぐアレにしてやるよ」
「アレってなんだよ。アレって」
実際マズイぞ。このあとは山田に川岸だからな……
川岸はともかく、山田は間違いなく順位を落とす。
「ふう……」
「B組の森北さん、A組の川下さんに少し差を付け3番目の走者にバトンを託します!」
山田、頼む。3位以内で川岸にバトンを渡してくれ。
お前なら出来るはずだ。
「おいおい、なんだあのぽっちゃりは。もうA組のやつに抜かれてるじゃねーか。森よお、なんであんな奴がリレーに選ばれたんだ?」
「……他人よりも少し優しいからだ。もしあいつのことを馬鹿にしたら腹に一撃入れるからな」
「ば、バカになんてしねえよ。なんであいつが選ばれたのかな~って思っただけだ!」
「なら、いい」
「現在2位のB組山田君、その後ろには獲物を狙うライオンのようなF組天上君! カッコイイ!」
おいいい! なに実況は私情を述べてんだよ!
そんな情報知るか!
「あいつは俺様の次にカッコイイからな。仕方ねえ」
「大木太……お前幸せだな」
「A組の飯田君、2位以下に差をつけて4番目の走者にバトンを託します。さあ、試合は終盤戦! このままA組が1位になるのか!?」
「Aの野郎共強ええな。F組には劣るとはいえ優勝候補だけはある。まあラストで俺様が華麗に抜き去るけどよぉ」
「F組のやつ、A組を抜いてもう1位になってるぞ」
「はっ? A組のやつ遅え! 俺の完璧な計画が崩れたじゃねえか!」
せいぜいやる気を失ってくれ。
山田は……?
「B組の山田君とH組の桃井さん接戦です! ……山田君必死の走りでなんとか3位で次の走者にバトンを託します! まだまだB組にもチャンスがあるので見ものです」
山田! よくやった!
お前が1番努力したんだから、当然だよな。
あとは川岸お前次第だ……お前ならきっと……
「B組の川岸君、前を走る女子2人には負けていられないと距離を縮めていきます!」
よし、かなり順調だ。
このまま抜いちまえ!
「へへっ森ぃ~悪いが先に行かせてもらうぜ」
「勝手に行け。俺はお前を絶対に抜くからな」
「抜かすぜ。おっ、来たな。お先に!」
「ここでF組の名部さんが最後の走者にバトンを託す! F組最後の走者は、陸上部のエース大木太君! これはこのままゴールインか!」
あいつの自称じゃなかったんだな、エースってのはよ。
まっそれぐらいの方が抜きがいがあるってもんか。
「アニキー! 頑張ってください!!」
「そうだ。そうだ。」
あの2人も同じ学校か。
だからあの時先輩って言ってたのか。つうか俺のこと前から知ってたんだな。
「A組の高橋さん、なんとかF組の川岸くんの猛追を逃れ、バトンを最後の走者に渡します。A組最後の走者はバスケ部の山下君です!」
「ハアハア、すまん! 抜けなかった。あとは頼んだ、森!」
「充分だ、後は俺に任せろ!」
「B組の川岸くん、最後の走者にバトンを託します! F組最後の走者は最近改心したと噂の森くんです!」
そんな噂が広がってたのかよ!
まあ、間違ってるとも言えねえか。
「純! 頑張れ!」
俺は右手を上げてオヤジに応える。
ったく高校生にもなって恥ずかしいぜ。やってやるよ!
「速い! F組の森くん、A組の山下君をもう追い越そうとしています」
「なっ! 不良ごときに俺が……」
「今の俺は“元”不良だ!」
周りのざわめきが耳に届く。
この感覚たまらねえ!
「陸上部のエースだろうが、関係ねえ! この勝負だけは俺が最速だ!」
あと少し、あと少しで抜け――――
「いてえよぉ、いてえよぉぉ」
「なんということでしょう!? 1位の大木太君、まさかの転倒! これは両方の意味で痛い!」
はあ!? よりによってなんでこの場面で転ぶんだよ!
いや、好都合か……? あいつが3位以下になるのは間違いない。そして、俺は間違いなく1位になれる。
そしたらB組の優勝じゃねえか。
「…………っ!」
俺の足が自然と止まる。
本当にいいのか? これで。
痛がって、困ってる人がいるんだぞ?
あいつは不良だ。悪い人間だ。だから、いいんだ。
そんなのは関係ない。困っているんだから、助けるべきだ。
ここで俺が助けに行ったらクラスの連中は悲しみ、俺を罵るかもしれない。
あいつは俺が助けなくても誰かが助ける。なら俺が助ける必要はない。
早く行こう。ゴールへ。それが“善い人間がするであろう行動”だ。
………………
…………
……
「皆すまねえ。 俺は優勝を捨てた、大馬鹿野郎だ!」
「本当にな。今まで散々クラスメイトに迷惑をかけてきて、今回もかよ。どうしようもねえな……って言いたいところだけど、それとこれとは別だな」
「うーん森君は大馬鹿野郎だと思うし、今までの行為には謝った方がいいと思うけど、今回のことは私としては責める気はないかな」
「そうだねえ、ここ一週間森くんが真面目だったのは知ってるし、そもそも長距離走で2位を取れてなければ優勝なんて夢のまた夢だったし」
「ってな具合だ。今クラスにいないクラスメイトも似たような反応をすると思うぜ」
「皆……本当にありがとう。それと今までのことすまなかった。もうクラスであんなことはしねえ」
「うんうん、今までのセリフ保存しておいたから、もしまた悪さをするようなら学校中に流すからねえ~」
「おいっ! ま、まあわかった。俺が懲りてなかったらそうしてくれ」
「じゃあ今日の19時に肉肉堂で打ち上げあるから来いよ」
「えっ、おう」
「森くんまたあとでね~」
「ああ、また後で……」
打ち上げか……どうするかな。
それよりも、先にクラスメイト全員に謝らないとな。
ふう、これで全員謝れたか。
名前を覚えてないせいで話しかけにくかった。
それにしても思ったより皆怒らなかったな。今日のことより今までのことに対しての方がよっぽど怒ってたな……
それだけ、酷いことをしてきたってことか。
帰るろう……打ち上げに顔を出せる勇気がねえ。
「おい、森。どこへ行く。 肉肉堂はそっちじゃないぞ。」
「川岸……?校門前で何を……」
「川岸君だけじゃないよ! もう森君遅いよ」
「森北も……山田に紗倉川までなんでこんなところにいるんだ?」
「皆あなたを待ってたのよ」
「健人が純くんを1人にしたら、絶対に家に帰る。だから校門前で待つって。健人はなんだかんだいって、純くんのこと……」
「違う! クラスの委員長として打ち上げの欠席者を出したくなかっただけだ。心配など……」
「皆……すまねえ。それとありがとう。……オラァ! 早く肉肉堂に行くぞ! 肉が俺達を待ってるぞ」
「勝負してみる?」
「森北じゃあ勝負にならねえよ」
「山田君と」
「ええっ! 僕!? お肉好きだけどそんなに食べないよぉ」
「山田か。これは今夜名勝負が誕生しちまうかもな」
「あなた達遅いわよ。また謝りたいの?」
「ぐっそれは避けたいな。すぐ行くから待っててくれ!」
恵まれてるな俺は……周りにこんないい奴らがいてよ。
俺もそれに負けないぐらいの人間になりてえな。
「あ~食った。食った。もう入らねえ」
「あなたは明らかに食べ過ぎよ。他の人と張り合って食べるから」
「男には避けて通れねえ道があんだよ」
「くだらない……それにしてもあなたと2人で帰るなんていつぶりかしら」
「中学の時以来じゃねえか? 俺がグレて学校をサボりがちになった頃より前だからな」
「少し前のあなたなら自分のことをグレたなんて言わなかったわよ。それだけ、あなたが変わったということかしら」
「そうだな……俺がグレた理由も解決したしな。リレーのメンバーやクラスメイトの優しさに感化されたのかもな」
「その辺は、不良が少しいい事をすると凄いことをやったような影響も含まれてそうな気がするけど……今はそんなことどうでもいいわね。これからはちゃんと学校に毎日来なさい」
「そうだな……そうしようと思ってる。今の俺なら問題ないだろうしな」
「ええ、今のあなたなら何も問題ないわ。昔からの幼馴染が言うのだから、間違いないわ」
「ははっ、そりゃ安心できる」
「また目覚まし代わりになってもらわないと困るもの」
「それが目的だったのか!?」
「ふふ、なにはともあれこれからはちゃんとしなさいよ? 純」
「……へいへい、紗倉川さんよ」
「あら、照れてるの? 昔みたいに彩って――」
「うっせえ! 照れてねえよ」
俺がグレて不良になっちまった時も、見捨てず、そばにいてくれたんだよな。
それが、そんな簡単にできることじゃねーってことぐらい俺でもわかってんだろ?だから――
「ありがとう。これからもよろしく頼むよ、彩」
「どういたしまして。こちらこそよろしく、純」
月明かりに照らされてる、あいつは普段より綺麗に見えた。
「ういっす博士。1週間ぶりだな」
「来たの、純。1週間試してみてどうだったかのう?」
「データとかである程度分かんじゃねーの?」
「こういうものは直接口から聞くのが1番なんじゃよ」
「感謝してるよ爺さんには。今まで見て見ぬふりをしてきたものと向き合えたしな。薬の力ってのはだせえけどな」
「風邪を引けば薬を飲むじゃろ? それと同じじゃ。恥ずかしがることは何もないと思うがのお。成果があったようでワシとしてもよかった」
「結局この薬はどうやって善人のような行動を取らせていたんだ? 凄い効き目だったぞ。無意識に人を助けるような言葉を言ってたしよ」
「ゼンニンニナレールはズバリ! 個人の持つ善人のイメージを自分の体でもおこなうようにさせてるんじゃ!」
「んん? どういことだ?」
「つまり想像上の人物の行動をするようになるんじゃよ」
「よくわからねえけど、人によって全然効き目が違うってことか」
「そうじゃ。極端に言えば、善人が暴力を振るう人間だと考えていれば、暴力を振るい始めるからのお」
「めちゃくちゃ危険じゃねーか!」
「そういった場合に備えてリストバンドに色々仕込んであったんじゃが、問題なかったの」
「おいおい、研究者がそんなんでいいのかよ」
「結果オーライじゃ。これからどんどん改良していくわけじゃしな」
「はあ……おら、レボートにリストバンドだ」
「うむ、確かに。ほれ、約束の100万じゃ。実験に協力してありがとうの」
「こちらこそありがとよ。100万かー! テンション上がるぜ」
「あっ言い忘れたことがあったの」
「なんだ?」
「昨日と今日の薬はただのビタミン剤じゃから」
「はっ? …………つまり日曜日善人っぽい行動をしたのは……」
「君自身の行動じゃ。じゃって薬の効果がない日も調べんと意味がないからの」
「マジかよ……」
婆さんを助けたのも、体育祭での行動も全部……
「俺自身の意思か」
「言わない方がよかったかの?」
「いや……言ってくれなきゃ殴ってたぜ。そうか、俺自身の意思で、俺自身の行動か……! ありがとよ。こんなに嬉しいとはな……」
「ほほほ、何かあったんじゃな。あとでレポートを見せてもらおうかの」
「ははは、なんか恥ずかしいけどな。次の実験に役立ててくれ大門寺博士」
「おっ爺さんは卒業かの」
「まっ今日くらいはな。なあ、もしよければ飯でも食べに行かねーか? 金もあるしな」
「おおお、ワシテレビで見た事があるぞ! これがデレじゃな!」
「ちげーよ! 感謝の意味も込めてだな……で、何が食べたい?」
「ステーキが食べたいのお」
「おいおい、大丈夫なのか? まっ余ったら食べてやるよ。じゃあとっとと行こうぜ」
俺は変われたんだろうか? ――今は変われたと信じよう。
これからが重要なんだろうな。周りに迷惑をかけた分、頑張らせてもらおう。
友達も出来たしな……毎日が充実した日になりそうだ。
まっ帰ったらオヤジの説教がまず待ってるだろうけどよ。
「おい、博士なんだその注射器は」
「採血じゃ。最初に血を採って、最後は採らないなんてことはないじゃろ?」
「こんなオチかよ!! あっ……」
おしまい
なんとか完結できて良かったです・゜・(ノД`)・゜・
初めての連載作でしたが、小説を書く事の難しさを痛感しました。
次回の作品に反省を活かせたらと思います。
紗倉川姉妹をもっとしっかり書きたかった!
ここまで読んでくれてありがとうございました。




