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番外編:ルーの主張5


 ジュリアスは可愛い。すごく可愛い。

 でもみんなジュリアスばっかり。たまにはあたしのことも相手してほしいよ。

 とぼとぼ廊下を歩いて目的の場所に到着。

 すると久しぶりに先客がいて、嬉しさのあまり駆け寄った。


『エリオット! エリオット!』

「やあ、ルー。久しぶりだね」


 エリオットは優しく声をかけてくれて、手を差し出してくれた。

 だから甘えてピョンッと飛びつく。

 撫でて、撫でて!

 にゃおんと鳴いて、エリオットの大きな手に頭をこすりつける。

 ああ、気持ちいい。これこれ、これが好きなの。


「ローズ様もだいぶ回復なされたそうだし、ルーも安心しただろう? 良かったね」

『うん! 少しずつベッドからも出られる時間が長くなってるんだよ。この前は、あたしにジュリアスを紹介してくれたの!』


 あの時は嬉しかったな。ローズは変わらずあたしを可愛がってくれる。

 でもあまりベッドから出られないのに、ジュリアスと過ごす時間をあたしがとっちゃったら悪いから遠慮してるの。

 だからマリタやエムたちがあたしの相手をするべきなのに、みんなジュリアスに夢中なんだもの。

 でもいいんだ。もうすぐジュリアスは大きくなって、そうしたらあたしがいっぱい遊んであげるから。

 それにしても、エリオットはなんだかいつもとちょっと雰囲気が違う。疲れてはいるみたいだけど、なんていうか……。


『エリオット、何かいいことがあったの?』


 あたしがにゃあと鳴くと、エリオットは一度手を止めたけどまた撫でてくれる。

 言葉は通じないけど、エリオットは勘がいいから。


「今回の出来事では、本当にどうなることかと心配もしたけれど、喜びも大きかったね。ローズ様は順調に回復なされているそうだし、殿下も日に日に大きくなっていらっしゃる。でも何よりも驚いたのは、陛下だよね。お力を持っていらっしゃるだろうことは気付いていたけど、あんなに強いとは僕も思わなかったよ。それほどお隠しになられていたお力を、今回ローズ様のために使われたんだ。まあ、それが意味することに陛下ご自身が気付かれていないのは残念だけどね。本当に頑固だよ」


 はあっとため息を吐いたエリオットに、あたしも同意。

 やっぱりここはあたしの出番よね!

 でもエリオットは力むあたしをなだめるようにぽんぽんと背中を軽く叩いた。


「正直なところ、陛下はもう二度と……誰かに心を動かされることなどないんじゃないかと思っていたから、僕はとても嬉しいんだよ。それに……」

『それに?』

「……もっと早くに申し出ていれば良かった。誰にも反対させないほどの力をつけてからなんて、呑気なことを考えなければ良かった。せめてあの時、領地に戻っていなければ……なんて、後悔しても仕方ないからね。もう不毛な考えは捨てて、いい加減に前を向かないと」


 今度はくすりと笑って、エリオットは立ち上がった。

 その顔は本当に明るくて、あたしまで嬉しくなってくる。


「さあ、もう行かないと」

『待って、あたしも行く!』


 エリオットを追いかけて隣に並んで歩く。

 なんだかよくわからないけど、エリオットが元気になって良かった。

 ちょっとだけ落ち込んでたあたしも今はウソみたいにうきうきしてる。

 それから怖い人間の前でエリオットと別れて、ルバートの部屋の扉をカリカリ。


『ルバート! 開けて!』


 中から開けてくれたのはやっぱりロビンで、ルバートは机の上を睨んだまま。

 もう、本当にルバートは頑固なんだよね。またあたしのことを無視するつもりだ。


『さっき、エリオットと部屋の前で別れたの』

「……ロビン、エリオットが戻ったようだから、さっきの書類をもう一度届けに行ってくれ」


 ほら、やっぱり。あたしの言葉はちゃんとわかってるんだから。

 ロビンが出ていくと、あたしはルバートの机の上にトンッと飛び乗った。


『ねえ、ねえ。ルバートはローズのことをどう思ってるの? ローズはあんなに可愛いジュリアスを生んでくれたのに、なんでもっと会いに行かないの? きっと寂しい思いをしてるよ。ローズは前の結婚でもつらい思いをしたんだから、もっと優しくしてあげないと。ねえ、聞いてる? あたし、ローズにはいっぱい笑ってほしいの。だから仕事は忙しいかもしれないけど、何とかしようよ。ねえ、何で無視するの? あたしの言葉、ちゃんとわかってるんでしょ? もう誤魔化されないんだからね!』

「……うるさい」

『え? 何て言ったの?』


 ルバートはぼそりと小さな声で言うから、よく聞こえなかったよ。

 だからもっと近づこうと前に進んだら、足元でくしゃって音がした。

 あ、ごめんなさい。紙がちょっとシワになっちゃった。

 しゅんと反省してそっと後ろに下がる。するとルバートは椅子にもたれて大きく息を吐いた。


「言いたいことはわかる。だが私は今、忙しいんだ。だから質問は一つにしてくれ」

『え? 一つだけ? そんなあ……』

「早く。時間がない」

『ええ? えっと、えっと……なんで、もっとローズに会いに行かないの!?』


 急かされると焦って、何を訊けばいいのかわかんなくなっちゃうよ。

 でもまずまずのことを訊けたよね? 忙しいからなんて言ったら、暴れてやるんだから。

 だからあたしは聞き逃さないように、ぴんと耳を立てた。


「……彼女に会うのを拒まれるのは堪える」

『え?』


 ルバートがぼそりと言った答えは、あたしが思ってたのとあまりに違うから、ビックリして固まっちゃったよ。

 そんなことあるわけないのに、どうしてそうなっちゃうの?

 ルバートはあたしがシワを寄せちゃった紙に器用に署名してる。

 どういうことか詳しく訊こうとしたら、扉が開いてロビンが入って来た。


「陛下、先ほどご署名をお願い致しました書類はもうよろしいでしょうか? 皆様すでに、会議室にお集まりになっていらっしゃいます」

「わかった。すぐに行く」

『え? 待って、待って! ルバート! ローズは拒んだりしないよ! ルバートは女心がちっともわかってないんだよ!』


 必死にルバートを追っかけて訴えたけど、途中でロビンに捕まっちゃった。

 放してよ! 放してくれないと、ロビンはとっても意地悪だってジェンに言っちゃうんだから!

 ジタバタしたけど放してはもらえなくて、ルバートは会議室に入って行っちゃった。

 もう! 他にも訊きたいこといっぱいあったのに!


 それからなかなかルバートには会えなくて、ローズといる時には邪魔したくなくて、訊きたいことが訊けないまま。

 うーん。

 だけどとっても暑い日に、涼しい場所を探してお散歩してたら、廊下の壁にいっぱい並んだ絵を見てるルバートを発見!

 珍しく一人だ。

 そういえばロビンはジェンと風通しの良い庭園の東屋で手を繋いで見つめ合ってたんだよね。

 邪魔をしたら悪いから、あそこは涼しいけど譲ってあげたんだ。あたしって優しいよね。


『ルバート!』


 にゃあと鳴いて駆け寄ったら、ルバートは気づいて屈んでくれた。

 撫でて、撫でて、抱っこして!

 久しぶりに抱っこして撫でてもらったから、気持ち良くて喉が鳴っちゃう。


『ルバート、若いね!』

「ああ」


 ルバートが見てたのは、ルバートが〝おうさま″になったばかりの頃の絵なんだって。

 今よりも若いのに、今よりも怖い顔してる。

 あたしはこのルバートより、隣の絵のルバートの方が好きだな。

 ちょっと表情は硬いけど、隣にいるローズがすごく幸せそうで、ルバートも満足してる感じ。

 二人一緒なんてとっても素敵。


『でも、なんで他の人間みたいに、ローズには一人だけの絵がないの?』

「――この絵には、ロザーリエの隣にいつも私がいる。だから、誰も欲しがらないだろう?」

『う、うん……?』


 今のが答え? うーん、よくわかんない。どういうこと?

 ルバートを見上げれば、困ったような顔をして笑ってた。

 うん。やっぱりよくわかんないよ。

 ちんぷんかんぷんのあたしをルバートは抱っこして、そのままローズの部屋まで連れて帰ってくれた。

 涼しい場所に行きたかったんだけどな。

 でも、ルバートに会えてローズはとっても喜んでるから、あたしも嬉しくて満足だよ。




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