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漫画原作(未作画)

新陰流殺人刀 【シナリオ形式】

作者: 阿僧祇

■解説>

 8P想定、牧歌的なムードの、実話ベースな剣豪物です。時代は戦国時代後期。

 少し難解気味の考えオチですけれど、短くてもその場で終らず長く楽しめる話にし

たくてこうしてみました。


■粗筋>

 戦国時代後期。

 剣の名人・上泉伊勢守と門弟の疋田文五郎は、極意の話をしながらの気ままな放浪旅

の途中、浪人者が子供を人質にとってあばら家に立て篭もったところへ行き遭ってしま

う。


■人物>

伊勢:上泉伊勢守信綱。求道的だが穏やかな表情の初老の武士。新陰流剣術の創始者で、

 大勢の達人名人を門弟に持つ。流浪前は上州(群馬県)の大胡城城主で、武田信玄の

 大軍と互角に戦い、信玄を感動させた。その後、味方将士の生活と自分の自由を条件

 に降伏。各地を放浪して剣術を教えている。元ネタを知ってる人も楽しめるように、

 名前は最終ページまで出しません。


文五郎:疋田文五郎。伊勢の従者で愛弟子でもあり、流浪に付き従う若者。後に

 剣の達人となって疋田陰流という剣術流派を拓くが、この時点ではまだ修行中。


浪人者:食い詰めの取り込み者。痩せてギラギラした目の戦国浪人。


村長:むらおさ。

坊主:旅の坊さん。



[1]

T「新陰流殺人刀(しんかげりゅうさつにんとう)

  土手の斜面のような草っ原で、伊勢、刀と風呂敷包みを枕に、あおむけになり

  上機嫌で雲を見ている。

  その側に座って、水筒の竹筒を手にしている文五郎。

  タイトルの殺伐な響きと、扉絵ののんびりしたイメージが対称的。


[2]

  文五郎、水筒に栓をしつつ

文五郎「では先生…」

伊勢「うん?」

文五郎「新陰流には『殺人刀(さつにんとう)』と『活人剣(かつじんけん)』という、

 二つの極意があるのですね?」

  伊勢、雲を見たまま、

伊勢「ああ、そうだ。殺人刀は相手を『殺』す。活人剣は相手を『活』かす。」

文五郎「そのふたつの極意を、私もいつかは得られるでしょうか?」

伊勢「うーん…」

  考え込んで困ってしまう伊勢。

伊勢「文五郎の場合は…そうだなあ…」

  伊勢、体を起こす。

伊勢「気がついたときが極意を得られるとき、かな。」

文五郎(汗)「は?」


[3]

  伊勢、立ち上って刀や風呂敷包みを身につけながら、

伊勢「殺人刀も活人剣も、とっくに教えこんである。おぬしが自分の体の中にそれを

 見つけたとき、極意は得られるだろうさ。」

  文五郎、困惑。

  伊勢、土手を登り出し

伊勢「そろそろ行こう。急ぐ旅じゃあないが、怠けててもしょうがない。」

文五郎「は、はい。」

  二人、街道を歩いている。

  先に伊勢、三歩遅れて左後側に文五郎。

  (注:時代考証の問題で、右後側にはしないようお願いします、、、)

文五郎「これからどちらへ?」

伊勢「そうさなあ。肥後の丸目を訪ねるか、大和の柳生に会いに行くか……。いっそ

 風の向くままにまかせるか。」


  ざわざわ……

  前方に、一見のあばら家が見えてくる。その手前に村人達が集まっている。村長や

  坊主もいる。

伊勢「文五郎」

文五郎「はっ」

   タッ

   走って前へ出る文五郎。


[4]

□ (以下はあばら家からは見えないところ)

伊勢「取り篭み者?」

文五郎「はい。村人によれば、この先のあばら家に、子供を人質にとった浪人が立て

 篭もってるという話です。」

伊勢「やれやれ……」

  周囲でひそさひそ話し合ってる村人達。

  伊勢、天を見て嘆息。

伊勢「腹が減ったかやけになったか……」「今、戦国と人の言う…生き難い時代に生き

 てるものよ、みんな。なあ、文五郎?」

文五郎「はっ。」

文五郎「いかがいたしましょう? なんなら私が行って、一刀のもとに……」

伊勢「たわけ。子供が捕まっとるんじゃろ。」

□どかっ

  伊勢、刀を鞘ごと抜いてその場にあぐらをかいてしまう。

伊勢「しかたがない。新陰流兵法の極意、よく見ておけ。」

  ぞりっ ぞりりっ

  伊勢、小刀でいきなり髪を剃り出す。

文五郎「え!? せ、先生!」

  村人達も驚いて見ている。


[5]

  完全に頭を丸めてしまった伊勢、坊主に。

伊勢「和尚、すまんが袈裟をお借りしたい。」

  伊勢、袈裟を身につけながら

伊勢「誰か、アワ飯でも握ってきてくれ。ふたつ頼む。」

  (アワ飯…ここでは小粒の粟と普通の胚芽米を混ぜて炊いた飯、と解釈してます)

  僧形となりあばら家に近づいていく伊勢。刀はなく、両手に握り飯。

  あばら家の玄関口には抜き身を手にした浪人者が。

浪人者「待て! 何しに来た!」「説得なら無駄だぞ!」

伊勢「説得などせんよ。子供が腹をすかしてるとかわいそうだ、握り飯をもって来たん

 じゃ。」

伊勢「ほら、おぬしの分もあるぞい。」

  伊勢、握り飯を1つ、高く放り投げる。

  浪人者、握り飯に目を奪われ、受け捕ろうとして、上を見ながら前へ出る。


[6]

  タンッ!

  伊勢、一瞬で浪人者のすぐ横まで踏み込んでいて、刀を奪い取っていた。

  浪人者は握り飯を捕ったまま、目を見開いて硬直。

浪人者「なっ!」

  バッ

浪人者「ウッ!」

  もうひとつの握り飯が浪人者の顔に叩き付けられる。(目潰し)


[7]

  伊勢、片手で刀を振り上げ、

  ガツンッ!!

伊勢「ムッ!」

  刀の柄で浪人者の後頭部を叩く。浪人者、衝撃で倒れる。


□ 伊勢を取り囲んで喜んでる村人達。

  伊勢、袈裟を脱ぎながら

伊勢「命は奪っておらん。捕らえてご領主様に差し出しなされ。」

村長「ありがとうごぜえます、ありがとうごぜえます!!」


  伊勢、丸坊主のままもとの服装に戻って、

伊勢「では行こうか、文五郎。」


□ 夕暮れの街道。

  文五郎、大喜び。

文五郎「先生! たしかに見せていただきました! 相手を生かしたまま下す、新陰流・

 『活人剣』の極意!」

伊勢「……活人剣?」


[8]

  伊勢、立ち止まって驚いた顔で振り向く。

伊勢「何言ってるんだ、馬鹿。ありゃあ『殺人刀』じゃないか!」「相『手』を『殺』

 してから捕まえただろ?」

  文五郎、呆然

文五郎「は?」

文五郎(焦)「あ、あの……先生……?」

  伊勢、頭を撫でつつ溜息をついてがっかり。

伊勢「疋田文五郎、まだまだのようじゃなあ。」

  夕暮れの街道をすたすたと去って行く伊勢と、あわてて追いかける文五郎。

伊勢「でもまあ……おぬしならいずれ自力で悟るよ。精進、精進……。」

文五郎「上泉先生ぃっ…!」


                           ---劇終

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