EP8「いけてる?(2)」
“Mina, this dish for table 3, please.”
「OK!」
アーサーさんがお皿をおいたお盆を取り上げる。
スープの湯気が前髪に当たる。
家でご飯を運ぶのとは違う緊張感がある。
その後ろを、シャルルが当然のようについてきた。
“Hey, is that cat allowed here?”
低い声。
テーブルに座る男が眉をひそめる。
ミーナの足が止まる。
「……キャット…シャルルのこと?」
シャルルを見ても、何も言わない。
“Are you listening to me?!”
まだ英語は理解できない。
でもシャルルのことで怒っているのは分かる。
「Yes… he is OK.」
“Animal hair will be scattered all around here, right? ”
「アニマルヘアー…シャルルの毛のこと?
He is OK.」
それ以外言えることが思いつかなくて繰り返す。
“What about sanitation here?
Are we supposed to eat animal hair?”
ミーナの対応に不満な男性客はヒートアップする。
自分ができることを必死で考えたミーナは思わず言ってしまった。
“wash!”
きっと猫の毛が飛び散ることを気にしたんだって思ったから、
綺麗にすればいいと考えた結果だった。
ミーナの足元から光が広がる。
床が光る。
テーブルの下が光る。
男とシャルルの周りだけが、
ピッカピカになった。
「ちょっと、ミーナ…」
シャルルの声が聞こえたから、ミーナは足元を見た。
「なんで床掃除したのさ?」
「…あれ?」
思ってた効果がでなくて、ミーナは首をかしげた。
「washはこの場合違うよ。」
シャルルに言われて、今度は落ち着いて考える。
「…clean。
空気をキレイにしたい。」
今度は小さく抑えた声で。
”clean”
でもはっきりと、意思のこもった声で唱えた。
また光が足元から広がる。
でも今回は床だけじゃなくて、
椅子の脚、
テーブルの上、
天井の梁まで。
ゆっくり、静かに。
空気が澄む。
周囲の客が顔を上げる。
“What’s happening?”
“Look! My shirt is also cleaned!”
客がみんな自分の服を見る。
ミーナは気づかない。
自分の視界の外で、男の袖のシミが薄くなっていることに。
男が自分の腕を見る。
“What?”
エマが騒ぎを聞いて厨房から出てくる。
店内を見回す。
一瞬、静寂。
それから。
“Ha ha! Well done, Mina!”
豪快な笑い声。
エマさんの笑いにつられて、全員が笑う。
男も苦笑する。
“Well…, no complaints any more.”
そんな中、ミーナは自分の足元を見てエマに告げる。
「エマさん!
Sorry, I will do the other half later.」
その一言にまたエマが笑う。
シャルルはまたため息をついた。
でも尻尾の揺れが上機嫌なのを物語る。
「いや、そこじゃないって!」




