EP7「いけてる?(1)」
「ごちそうさまでした。」
ミーナは両手を合わせて、深く頭を下げた。
シャルルも横で「にゃおん」と機嫌よく鳴いた。
お腹も満たされて、体も心も温まった。
「よし!」
勢いよく立ち上がると、エマに声をかける。
「I can do dishes now!」
ミーナが元気よく言った。
でも、内心ちょっと緊張している。
“What’s your name?”
「Mina! This is Charles.
ミーナとシャルルです!
Nice to meet you.」
“Mina and Charles.
I’m Emma, and he is my husband, Arthur.”
「エマさんとアーサーさん。
よろしくお願いします!」
カウンターから厨房の奥を覗くと、男性が鍋を振っていた。
“Hi!”
ミーナの元気な声に反応して、アーサーは笑顔を返した。
2人とも優しそうでミーナは安心する。
案内されて厨房に入ると、水道には積まれた皿。
湯気。
水が流れる音。
包丁のリズム。
厨房には3人しかいないのに、にぎやかな音がする。
“First, can you start with the dishes?
We’ve got a pile of them.”
「OK!」
お皿洗いなら、家の手伝いで何度もやったことがあった。
慣れてるから、お皿を割る心配もない。
ミーナはさっそくスポンジを手を取り、洗剤を探した。
が、洗剤らしきものが見当たらない。
「……あれ?」
お皿の表面はシチューがこびりついている。
水を出す。
蛇口は1つだけ。
お湯は出なさそうだ。
「うーん……よし、気合だな!」
お皿を1枚とって水にくぐらせる。
スポンジでお皿の表面をゴシゴシ洗う。
手ごわい。
「これが異世界のアルバイトってことね!!」
もう一度気合を入れなおしたとき、シャルルがシンクの横の台に乗ってきた。
「…呪文つかいなよ。」
心底あきれた声で言われて、ミーナはハッとした。
「そっか!!」
「3日間なにしてたんだか…」
「魔法の練習してましたけど?」
溜息をついてシャルルは台に座る。
ミーナは小さく息を吸う。
洗った後のお皿をイメージして唱える。
“wash!”
指先に光が走る。
お皿の表面が、ふっと明るくなる。
ミーナは裏返す。
ぴかぴか。
「できた!シャルル見た?」
「そりゃ、できるでしょ。」
もう一枚。
“wash!”
今度は少し早い。
汚れが音もなく消える。
楽しくなったミーナは2枚手に取る。
“wash!”
少しだけ汚れが残ってしまっている。
ミーナは少し考えて、もう一度、イメージしなおす。
手に持ったお皿がきれいになるところを。
お皿の泡を水で流すあの瞬間を。
“wash!”
さっきよりも大きい光が広がる。
手に持った2枚のお皿が光る。
裏返す。
「うん!完璧!!」
きれいになっていた。
「シャルル、次は3枚いくよ!」
「呪文の練習になってるじゃん。
最後は全部の皿にかけるのが目標だね。」
二人で盛り上がっていると、後ろからエマが声を変えてくる。
“ Mina! Is that a spell?”
ミーナが振り返る。
「はい?」
“ Can you use a spell?”
ミーナはうなずく。
「spellって呪文だよね?
Yes, I can.」
エマは皿を手に取り、光にかざす。
"Wow..."
エマは皿の表も裏も確かめた。
もう一度、ミーナを見る。
それ以上は言わない。
でも、さっきまでの笑顔とは少し違う目をしていた。
シャルルの尻尾が楽しげに揺れた。




