EP6「マジ?(2)」
ミーナはカウンターの一段高くなった仕切りの上に置かれたお皿を、じっとみてしまった。
焼けたパイの甘い香りと、煮込みのミルクの匂いが届く。
そこにさらにお皿が置かれていく。
“Emma! Table five, hurry!”
カウンターの奥からまた男の声。
“Got it!”
エマと呼ばれた女性は、軽やかに皿を持ち上げる。
動きが速い。
迷いがない。
「忙しそうだね。」
エマを追って店内を見る。
お客さんはテーブル席に7人。
3人組と、2人組と、1人が2組。
空いている席には、まだ皿が残っている。
ミーナの座るカウンターにもまだお皿が残っている。
「ねぇ、シャルル。手伝った方がいい感じかな?」
シャルルに話しかけたら、横から声がした。
“Here.”
目の前に出てきたのは、さっきのパイ包みのシチュー。
「え、いいの?」
“Go ahead, eat.”
優しく言われて、ミーナは思わずスプーンを取る。
丸いパイのドーム。
表面はこんがり焼けて、バターの香りがふわっと広がる。
「いただきます。」
ミーナがそっとパイを崩す。
サクッ。
中から白い湯気があふれた。
とろりとしたクリームシチュー。
大きな野菜と鶏肉が顔をだす。
「うわぁ……!」
シャルルが言う。
「僕にも一口!」
「うーーん、おいしーい!!
デリシャス!」
思わず英語で伝えたら、エマが笑顔になる。
“You like it?”
「 うん、めちゃくちゃlike it!」
エマが声を出して笑った。
“Milk for the cat.”
シャルルの前にも小皿が置かれる。
「にゃおーん」
「……今の、あざとくない?」
「僕、かわいいの。」
カウンターの奥、厨房からまた声が飛ぶ。
“Bread’s gone!”
エマが奥へと答えた。
“I know!”
そしてこちらを見た。
“You see? We’re short-handed.”
それだけ言ってカウンターの奥へと入っていく。
ショートハンド。
一瞬だけ意味を探る
店内を見回す。
残ったお皿。
料理を待ってるお客さん。
動き回るエマ。
「あー、人手足りてない感じかな。」
なんとなく推測して、シチューを食べ進める。
残り少なくなったころ、エマが戻ってきた。
“You’re fieldwork age, right?”
「age…, I’m fifteen.ってことだよね?」
“Placement?”
プレイスメント。
「場所?…居場所は…ない。
No placement. Not yet.」
とりあえず答える。
ミーナは正確に理解してなくても、間違ってはいないと感じてた。
その証拠に、エマは満足そうに頷いた。
“Good. Then help us.”
「help?」
“Yes. Help each other.”
「助け合い…なるほど。
But I don’t have money.」
“No money.
You can work here.”
即答。
シンプルな答えにミーナは笑ってしまう。
「……食べた分、働くってこと?」
“Exactly.”
厨房からまた声。
“We don’t have enough dishes!”
エマがため息をついて、カウンターの奥を指差す。
“Eat fast. Then dishes.”
「お皿洗えばいい?」
ミーナはスプーンを持ったまま、少し考える。
「…アルバイトってことだよね?
うん、やる。
Yes, I can do it!」
ここで何もしなかったら、何も進まない。
ミーナの答えに、エマが親指を立てる。
“Deal.”
シャルルがミルク皿から顔を上げる。
「即決だね。」
「だってもう食べちゃったし。
ワンチャンしかなくない?」
“Ready?”
エマが聞く。
ミーナは最後の一口を食べ切って、立ち上がる。
「Ready!」
少しだけ、胸が高鳴る。
「まさか異世界でバイトデビューとか…
マジで展開早すぎない?」




