EP4「ワンチャン?(2)」
ミーナがこの世界に来てから3日。
湖の小屋で、ミーナはシャルルと魔法の練習を続けていた。
"light"
机の上に、ぽうっと灯る光。
"light"
「いいじゃん。次は少し強い光で。」
"light"
部屋全体を照らす光。
「安定してきたね。
じゃあ次、“clean”――」
"light"
「……ミーナ、clea-」
"light"
「おい、ミーナ!」
「…なに?」
「…顔が死んでる。」
「だってもう丸3日!!
こっち来てからずっとこれ!!」
ミーナは机に突っ伏した。
「さすがに飽きた!!」
シャルルは机の上に飛び乗る。
「飽きた?」
「だってさぁ……」
ミーナは指先の光を見る。
「思ったより、地味だし。」
シャルルは机に座る。
「地味。」
「もっとこう、バーン!とかドーン!とかさ!」
「それは生活魔法に求めるものじゃないよ。」
「そうだけど…」
シャルルはしばらく黙る。
それから、不意に立ち上がった。
「街に行こう。」
「え?」
「魔法が多いのは、街のほうだ。」
それだけ言って、扉へ向かう。
ミーナは少しだけ考えて、立ち上がった。
「……行く!」
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湖の小屋から下る坂道の先に、街が広がっていた。
レンガ造りの建物。
木の窓枠。
ところどころに金属の装飾。
通りの角で、二人の男が話している。
「この前の星、見たか?」
「ああ、"星降る夜"だろ?」
「すごかったなぁ」
「幸運のサインだって噂だぜ」
ミーナは聞こえていないのか、通り過ぎる。
シャルルは、少しだけ足を止めた。
「……」
ミーナが振り返る。
「なに?」
シャルルは小さく首を振った。
「いや、なんでもない。」
そしてまた歩き出す。
「ほら、ミーナ。
この街灯、魔道具だぞ。」
シャルルが指したのは、通り沿いに並ぶ背の高い柱。
昼だから灯りはついていない。
「ふーん……」
「“ふーん”?!」
「だって街灯でしょ?」
「魔石内蔵型だぞ。
自動点灯式かもしれない。」
「へー……でも、電気みたいなもんでしょ?」
シャルルの耳がぴくりと動く。
「電気…?」
「え、ほら、スイッチ押したらつくやつ。」
「……それはつまり、同じ仕組みということか?」
「たぶん。」
シャルルは少し黙った。
周りを見回す。
「……あ、あっちは水を出す魔道具だ!」
通りの角まで小走りで駆け寄る。
石壁に埋め込まれた金属の口。
下には桶が置かれている。
「ひねると水が出るぞ。
魔力感知式だ。」
ミーナは近づいて、ひねる。
水が出た。
「水道か……」
シャルルが固まる。
「……水道?」
「うん。
うちもこうやって水出る。」
「君の世界、魔法なかったんじゃないのか?」
「なかったけど、便利だったよ?」
シャルルの尻尾が、わずかに揺れる。
「……」
ミーナは街を見回す。
街灯と水道。
自動開閉の扉。
荷物を運ぶ小さな道具。
「なんか……」
「なんだ?」
「思ったより普通。」
沈黙。
シャルルがゆっくり振り向く。
「……」
「なんか、もっとさぁ……こう……」
ミーナは両手を広げる。
「ドカーン!とか、ババーン!とか。」
「街の中だぞ。」
「えー。」
「毎日ドカーンなんて生活してないだろ。」
ミーナは口をとがらせる。
「魔法じゃないじゃん。」
「だから、この魔石に魔法が刻まれているんだ。
ここの魔道具は全部魔法で動いている。」
「…思ってたのと違う。
魔法の世界って聞いたのに。」
シャルルは少しだけ目を細めた。
「君の世界も、君にとっては普通だったんだろ?」
「……」
「魔法は特別じゃない。
使われてるときは、ただの道具だ。」
ミーナはもう一度、水の出る魔道具を見る。
確かに便利。
でも、驚きはない。
「……ヤバ。」
「なにが?」
「つまんな……いや、なんでもない。」
シャルルの目が、ほんの少しだけ笑った。
「じゃあ、探すか。」
「何を?」
「君が“ヤバい”って言い切るやつ。」
ミーナは少しだけ顔を上げる。
「あるの?」
「あるだろ。」
シャルルがニヤリと笑う。
ミーナは、もう一度街を見る。
「ワンチャン、ものすごいのがあるかもだしね!!」




