EP2「ヤバい!(2)」
石畳の広場。
アクアブルーの瞳が、じっとこちらを見ている。
「……」
ミーナは一度、周りを見回した。
知らない街。
知らない人たち。
そして、しゃべる猫。
(……帰りたい…)
でも――
何も分からない。
束の間の沈黙の後、ミーナがまた喋りだす。
「ここ…どこ?」
それから、猫を見て首をかしげた。
「ってか、なんで猫が英語でしゃべるの?
いや、しゃべる猫??」
猫は一度まばたきをした。
そして――
「……少しぐらい落ち着けないの?」
日本語だった。
しかも、はっきりと。
「え?」
ミーナが固まる。
猫も少し驚いた顔をする。
「……ああ。なるほど。これで通じるんだね。」
「え、なにそれ怖い!」
猫は優雅に尻尾を揺らした。
「君の言葉を、少し借りたんだ。
自己紹介がまだだったね。僕はシャルル。」
「借りた!? 何それどういう意味!?」
シャルルは小さく息をつく。
「説明はしてあげるけど、
とりあえず声大きすぎ。
みんな見てるよ?」
「えっ?」
ミーナがシャルルから視線を上げると、遠巻きに人がいる。
ひそひそ。
“Is she talking to a cat?”
“What language is she using?”
“And… her outfit… where is she from?”
ミーナはハッとする。
「えっ?!今の人たちも英語……?」
「英語だね。」
「えっ…でも私、こんなに英語聞けたっけ…?
どうして?」
遠くからまた声が聞こえる。
“Is she lost?”
“She looks a young girl.”
“Look at that strange clothes…”
「待って待って、今の“lost”って迷子だよね?
“young girl”もきこえた。
え、なんで単語はわかるのに、
全部は分からなくてモヤっとするの!?」
シャルルは肩をすくめる。
「だいたい伝われば十分じゃない?」
「十分じゃないよ!分からないのは不安!!」
知らない世界で、知らないことが増える不安。
世界から取り残された気持ちのミーナとは対照的に、シャルルは呆れたように言う。
「…まぁ、どっかのうっかり神の仕業だろうね。」
「えっ?うっかりってなに?」
「何でもない。とりあえず歩こう。目立つ。」
一瞬だけ空を見上げたシャルルは歩き出す。
ミーナはどうしていいか分からない。
“Hey! Call someone.”
“This is strange.”
“She might be dangerous!!”
街の人の大きな声が聞こえる。
"strange"って聞こえた。
"she"とか"dangerous"って聞こえた。
きっと自分のことだとミーナは思った。
「おかしいのはこの世界じゃないの?!」
ミーナは叫んで走り出す。
少し前を歩く猫を追いかけた。
今、言葉が通じるのはシャルルだけ。
「待ってよ!」
シャルルは少しだけ立ち止まってミーナの姿を確認すると、また歩き出した。
「君、少しは英語話せるし聞き取れるんでしょ?
この世界に馴染んできたら、もっと分かるようになるから。
”コミュニケーション”のことは心配しなくていい。
そのうち君が理解できる形に変換されるよ。
僕と君の間だけは、日本語で共有してるみたいにね。」
「……」
「それよりも…」
「それよりも?」
前を歩く猫は少しだけ後ろを振り返って聞いた。
「英語はね、この世界じゃ“言葉”じゃない。
魔法の言葉だ。」
「魔法の言葉…」
「そう。言葉は力だ。
魔力をのせて願えば――起動する。」
シャルルが立ち止まり、ミーナをじっと見る。
「 ところで…きみ、呪文魔法発動したことある?
…わけないよね?」




