表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート召喚魔導士は、だいたいどこかで詰みかける。  作者: 月野みみ
第1章 はじまりの”言葉”

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/26

EP15「バエる!(3)」


ひったくり犯が連れていかれたあと、祭りはすぐに元のにぎやかさを取り戻した。


音楽。

笑い声。

屋台の呼び込み。


ミーナとシャルルも祭りに戻り、人の流れの中を歩いていた。

そのとき、後ろから声がかかった。


「あの……すみません。」


ミーナが振り返る。

そこに立っていたのは女性だった。


「さっきの……見ていました。」


「え?」


「呪文魔法、使えるんですか?」


ミーナは少し戸惑う。


「えっと……まぁ、少しだけ……」


女性は一歩近づき、ミーナの手を握った。


「助けてほしいんです!」


シャルルの尻尾がぴたりと止まる。


「……怪しいよ。」


小声で言う。


「ついていくの?」


ミーナは女性を見る。


「どうしました?」


女性は困った顔をした。


「……私の子どもが困っていて。

お願いします!あの子を助けてください!」


ミーナの表情が変わる。


「子ども?」


シャルルがため息をつく。


「ミーナ。」


ミーナは少しだけ迷ったが、うなずいた。


「行きます。」


女性はほっとした顔で歩き出す。


「ありがとうございます。

一緒に来てください。」


祭りの通りから一本外れた路地へ入る。

音楽が遠ざかる。

人の声も少なくなる。


路地の奥に、黒いローブの男が立っていた。

ミーナが足を止める。


女性が静かに言った。


「連れてきました。」


ミーナはシャルルを見る。

シャルルは目を細めていた。


男がゆっくり口を開く。


「呪文魔法を使えるそうだな。」


ミーナは答えない。

男は続けた。


「その力は、テオ・オルダイスに仕える者にこそふさわしい。」


「テオ・オルダイス?」


ミーナは聞いたことない言葉に首をかしげる。

男は静かに言う。


「言葉とは本来、命令だ。」


男の声が低くなる。


「短く、強く、確実に世界を動かす言葉。

それが真の言葉の力だ。

テオ・オルダイスは、その力を人に与えた神だ。」


男はさらに続けた。


「今の世界は間違っている。

言葉に感情などいらない。

命令だけでいい。

短く、強く、世界を動かす言葉。


それこそが、テオ・オルダイスの教えだ。」


男の声がさらに低くなる。


「テオ・オルダイスこそが真の建国の神。」


そのとき、シャルルが低く言った。


「いいか、ミーナ。

言の座にはテオ・オルダイスという神はいない。」


ミーナはシャルルを見て、思わず言った。


「……テオ・オルダイスは神じゃないの?」


空気が凍った。

女性の表情が歪む。

男の目が鋭くなる。


「……なんだと?」


男の声が落ちる。


「今、何と言った?」


ミーナははっとして口を押さえる。

シャルルは静かに言った。


「そうだよ、ミーナ。

もうテオ・オルダイスは言の座の神じゃない。」


男の顔から笑みが消える。


「……なるほど。」


ゆっくりと手を伸ばす。


“gust!”


突風が吹く。

ミーナの体が後ろに押された。


「わっ!」


女が壁に手を向ける。


“shatter!”


壁に衝撃が走る。

上のレンガが崩れた。


「危ない!」


ミーナは横に転がって避ける。

レンガが地面に落ちて砕けた。


ミーナは慌てて叫ぶ。


「シャルル!私生活魔法しか知らない!」


「どうにかするしかない!」


「どうにかって!?」


シャルルが叫ぶ。


「ほら、バーンとかドーンとか!」


「そんな雑な!?」


二人は路地の中を逃げ回る。

男が手を突き出した。


“push!”


見えない力がミーナを押す。


「うわっ!」


バランスを崩す。

ミーナはレンガにつまずいて転んだ。

その上で壁がまた揺れる。


“shatter!”


レンガが落ちてくる。


「危ない!」


シャルルが飛び出そうとする。

ミーナはシャルルを見た。

レンガが落ちる。


「だめ!」


反射的に叫んだ。


"STOP!"


シャルルの動きが止まる。


一瞬の静止。


シャルルが歯を食いしばる。


「……クソッ!

“MOVE!”」


自分に呪文をかけ直し、ミーナに駆け寄る。

ミーナはギリギリでレンガを避けて立ち上がった。


そのとき。


男がシャルルに向かって手を向ける。


“push!”


その言葉がミーナの耳に残る。


push……押す。


ミーナは思わず叫んだ。


"push!"


空気が弾ける。

二つの力がぶつかり、パチンと音を立てた。

ミーナが目を丸くする。


「……出た。」


そのとき、手に握っているものに気づいた。

赤い杖。


「……そうだ。」


ミーナが呟く。


「これ!」


杖の先を向ける。


"spark!"


魔石が光る。

火花が弾けた。

信者たちの視界が一瞬白くなる。


「くっ……!」


ミーナは勢いのまま叫んだ。


「なんかほら!罰ゲームのビリビリしたやつ!!」


シャルルが叫ぶ。


「それ呪文じゃない!」


ミーナが叫ぶ。


「electricity!」


杖の魔石が激しく光った。


シャルルが杖を見る。


「……sparkの魔石が共鳴してる。」


火花が走る。


空気が震える。


バチッ!!


信者たちの体が跳ねた。


「ぐっ……!」


ミーナ自身も驚いていた。


「……出た。」


男たちは顔を見合わせる。

舌打ちする。


「……覚えておけ。」


次の瞬間、路地の奥へ逃げていった。


静寂が戻る。


ミーナは杖を見つめた。


「……これ。」


シャルルが呟く。


「子ども用の玩具なんだけどね。」


ミーナは真剣な顔で言った。


「いい買い物した。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ