EP14「バエる!(2)」
レストランを出ると、通りはすっかり祭りの顔になっていた。
石畳のメイン通りの両側には屋台がずらりと並び、
その奥には教会の塔が見える。
花飾りの下では、楽団の演奏に合わせて人々が踊っていた。
子どもたちはボール投げの屋台に群がり、
的に当たるたびに歓声が上がる。
焼き菓子の甘い匂いと、串焼きの煙が混ざり合い、
通りいっぱいに流れていた。
「うわぁ……!」
ミーナは思わず声を上げた。
「すごい人!」
シャルルが尻尾をゆっくり揺らす。
「迷子にならないでね。」
焼き菓子の屋台。
串焼きの屋台。
ゲームや記念グッズの屋台。
人の流れはゆっくりだけど途切れない。
「屋台って、こういう感じなんだね!」
ミーナはきょろきょろと辺りを見回す。
「ミーナの世界にもあるんじゃないの?」
「あるよ!でもこんなにたくさんは並ばない!」
子どもたちが笑いながら走り抜けていく。
通りの奥では楽器の音が鳴っている。
「ねぇシャルル、あれ見て!」
ミーナが指差した先には、小さな屋台があった。
色とりどりの杖が並んでいる。
「杖?」
「おもちゃだね。」
屋台の前に立つと、店主が笑顔で声をかけてきた。
「いらっしゃい!建国祭記念の魔法の杖だよ!」
机の上には四種類の杖が並んでいる。
赤。
緑。
金。
青。
どれも先端に小さな魔石が埋め込まれていた。
「きれい……」
ミーナは思わず赤い杖を手に取る。
「これ、本当に魔法出るんですか?」
店主がうなずく。
「お客さん、観光客かい?
ロスペリアの街ではね、二日目の夜、教会前に集まって一斉に光を打ち上げるんだ。
小さな花火だけどね。」
「みんなで?」
「ああ。建国の日を祝うための合図さ。」
ミーナは目を輝かせた。
「楽しそう!」
シャルルが杖を覗き込む。
「“spark”の魔石だね。」
「スパーク?」
「火花。小さい光が出る魔石。」
ミーナは四本の杖を見比べる。
「どれにしようかな?」
シャルルが言う。
「赤じゃない?エスピラ様の色だよ。」
ミーナは首をかしげる。
「えー、でも金色のほうが魔法っぽくない?」
「いや、エスピラ様でしょ。」
「見た目の話してるの!」
二人でしばらくにらみ合う。
店主がくすっと笑った。
「祭りなんだ。好きなのを選びな。」
ミーナは少し考えてから、目を閉じて唱えた。
「どーれーにーしーよーおーかーなー」
ミーナの不思議な歌に、シャルルも店主も目を丸くする。
「……それ魔法なの?」
「違うよ!」
「てーんーのーかーみーさーまーのーいーうーとーおーりッ!」
そして手にしたのは、
「これにします!」
赤の杖だった。
店主が受け取る。
「毎度あり…」
呆然としているシャルルと店主を横目に、
ミーナは杖を受け取ると、満足そうにくるくる回した。
「わぁ、軽い!」
そのときだった。
通りの向こうで叫び声が上がる。
「泥棒だ!」
人がざわつく。
小さな男の子が泣きながら叫んでいた。
「お金とられた!」
黒い服の男が人混みをかき分けて走っていた。
「逃げてる!」
ミーナは反射的に動いた。
「待って!」
人の間をすり抜ける。
犯人は噴水のある広場の方へ走っていく。
「追いつけない……!」
ミーナは杖を握る。
どうしよう。
追いつけない。
そのとき、噴水が目に入った。
水。
ミーナは息を吸う。
“splash!”
噴水の水が弾けた。
水しぶきが犯人にかかる。
「うわっ!」
男がバランスを崩して転ぶ。
その隙に周囲の大人たちが取り押さえた。
「捕まえたぞ!」
ざわめきが広がる。
「今のって?」
「呪文魔法…?」
周囲の人たちがミーナを見る。
ミーナは少し照れくさそうに笑った。
「えへへ……」
その様子を、人混みの少し後ろから見ている男がいた。
黒いローブ。
フードの奥から、静かな視線がミーナを捉えている。
「……呪文魔法。」
男は小さく呟いた。
そしてゆっくり笑う。
「面白い。」
隣にいた仲間に低く言った。
「見たか?」
「ええ。」
男は小さく笑った。
「まだいたとはな…“言葉”を使う者が。」
人混みの向こう。
ミーナはまだ噴水の前に立っていた。
その背中を、男はじっと見つめていた。




