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チート召喚魔導士は、だいたいどこかで詰みかける。  作者: 月野みみ
第1章 はじまりの”言葉”

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EP 12「ちがくない?(3)」

ミーナの魔力量測定を手伝ってくれた男性は、しばらく割れた魔道具を見つめていた。

やがて静かに言った。


「……大丈夫です。」


「え?」


「壊れたのは、あなたのせいではありません。」


男性はミーナを見た。

その目には、先ほどとは違う光があった。


「座りましょうか。」


言われるまま、ミーナは祭壇の前の椅子に座る。

男性も向かいに座った。

少しの沈黙。

そして静かに言った。


「あのような魔道具の反応は、今までありませんでした…

あなたは——」


言葉を選ぶように、少し間を置く。


「言の座の神々に選ばれた子かもしれませんね。」


ミーナは目を丸くした。


「神に……選ばれた……?

 なんで?」


男性は小さく頷いた。


「理由は、まだ分かりません。」

でも、きっと意味があるのでしょう。」


ミーナは言葉が続かなかった。

しばらく黙り込んでいたけど、ポツリと話しはじめる。


「…魔道具って…便利そうじゃないですか…

でも私、呪文を練習してるんです…」


男性は黙って真剣に聞いている。


「…意味あるのかなって…

私のいた世界は、魔法がなかったんです。

でも、便利でした。

こっちの世界も魔道具があって便利です。

じゃぁ、私は…?

なんのために呪文魔法を練習するんですか?

誰も使っていないのに、意味あるんですか?!

神に選ばれたからなんですか?!」


気持ちを伝え始めたら語気が強くなるミーナに、男性は優しく笑った。


「それは——


自分で見つけるものですよ。」


ミーナは口を尖らせた。


「……教えてくれないんですか?」


こんなに悩んで、それを言葉にしたのに答をもらえなくて不貞腐れた。

その表情を見て、男性は小さく笑った。


「少し待っていてください。」


そう言って立ち上がり、奥へ行く。

戻ってきた時、手にはコップがあった。

水が入っている。

男性は手をかざす。


“spring”


水が小さな噴水のように跳ね上がった。


“splash”


今度は水しぶきが上がる。


水が、踊る。

ミーナは思わず見入った。

ただの水なのに、男性が

”spray”

"ripple"

と続けて唱えると、どんどん姿が変わっていく。


気づけば、ミーナは笑っていた。


「すごいです!」


男性はミーナを見て言う。


「今楽しかったですか?」


「はい!」


男性は頷いた。


「言葉は力です。」


コップの水面が静かに揺れる。


「私の言葉は、今あなたを笑わせ、元気づける力になった。」


ミーナは小さく頷いた。


「きっと」


男性は続けた。


「あなたの言葉にも、何かの力がある。」


静かな教会に、言葉が落ちる。


「その意味を、これから考えてみてください。」


「…考える意味ってありますか?

無駄じゃないですか?」


「あります。」


答を差し出さなかったのに、「意味はある」ときっぱりと男性は答えた。


ミーナはコップの水に視線を落とす。

さっきまで踊っていた水は、今は静かに揺れている。


言葉は力。


その言葉が胸の中で、ゆっくり沈んでいく。


「……」


考えることで何か見つかるのか分からない。

でもさっきの水は、楽しかった。

自分でもやってみたいと思った。

ミーナは小さく息を吐いた。


「……考えてみます…。」


男性はにこりと笑い、席を立った。


「教会内を見学しませんか?」


「いいんですか?」


「せっかく来たのですから。」


ミーナは男性について立ち上がるが、シャルルはイスで丸くなった。


「シャルルは?」


「さっき見たから僕はいい。」


「自由だな」と思いつつ、ミーナは男性の後に続く。


「この教会は言の座の四神を祀っています。」


「東は表現の神、テオ・エスピラです。」


「…赤いですね。どんな顔しているんですか?」


「顔ですか?」


「はい。男性とか女性とか…」


「分かりません。言の座の神々に姿はありません。

いえ、見たことがある人がいないだけかもしれません。」


「そうなんだ…なんか男性っぽい気がするけど…」


「あなたにはそう感じるのですね。

入口の上の薄緑がテオ・テリオン。

伝達の神です。

そして西側がテオ・クロネル。

記録の神で、本来はもっと輝く黄色で表されます。」


「さっきは金色みたいにキラキラしてましたね。」


「最後、祭壇の奥のステンドグラスが思考の神テオ・ノエシスです。」


「暗い色…」


「暗いですか?

私は濃く深い色に感じます。

きっとあなたの考えを助けてくださる存在ですよ。」


男性が続ける。


「この国の人々は、日々の言葉の中で神と共に生きています。」


「日々の言葉……」


ミーナは少し考える。


レストラン。

エマ。

お客さん。

自分の接客。

今朝の街の人たちのやり取り。


「……」


今日のことを思い出していると、男性の笑う声。


「おや、猫のお友だちはモザイクタイルに興味があるようですね。」


男性の近寄る先を見れば、シャルルが床を見ながらウロウロしていた。


「何してるの、シャルル?」


「ん?この模様…」


「模様が何?」


ミーナの言葉をひろったのは男性。


「この模様は言の座の神々を示した四芒星しぼうせいです。」


「星ですか?」


「はい、角がそれぞれの神を表しています。」


「星なのに、角が5つじゃないんだ!

ちょっと変な形!」


ミーナと男性が話す足元で、シャルルは四芒星の模様をたどって歩き回る。


まるで何かを探しているように、注意深く形をたどっていた。



男性にお礼を言って、教会を出ると、空が少し曇っている。


「雨降りそうだね。」


「そうだね。

濡れる前に帰ろう。」


「シャルルが濡れたら、私が呪文で乾かしてあげる!」


「そもそも濡れたくない。」


二人はエマのレストランへ急いだ。



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翌日。

ミーナが元気よく客を迎える。


「こんにちは!

外は雨ですね。

シチューで温まりますよ。」


それだけ言いながら、メニューを渡す。


次に入ってきたお客さんは、急いでいる様子だった。


「このスープセットはすぐに出ますよ。」


ミーナは人をみて声をかけてみることにした。

その人にとっての「ベスト」ではないかもしれないし、

全く見当違いのことを言ってるかもしれない。

でも、ミーナは言葉をかけることで「ようこそ」の気持ちを伝えたかった。


それが「ミーナ」がこの街のこのレストランで働くということだった。

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