EP10「ちがくない?(1)」
「Welcome to our restaurant!
Please come with me.」
その日1組目のお客さんにむかって、満点の笑顔でミーナは頭を下げた。
明るすぎる声に、客の二人は呆気に取られた。
「Here is your menu book.」
両手でメニューを渡す。
「I’ll come back when you decide your menu.」
客は顔を見合わせた。
続くお客さんにも同じように丁寧に接しているミーナ。
時間はちょうど昼時で、お客さんがどんどん入ってくる。
“Hi, Emma! Original Soup for me.”
“OK!”
常連さんと思われる女性とエマの軽いやり取りを横目に、ミーナはテーブル席へと料理を運ぶ。
「お待たせいたしました。
Please enjoy your stay here!」
ミーナが1組のお客さんを相手にしている一方で、アーサーがカウンターにできた料理を置く。
“ミーナ!この料理を1番のテーブルに!”
「OK. I’ll do it now!」
運んでは「お待たせいたしました」と丁寧に接客し、スプーンやフォークもナプキンの上に綺麗に並べる。
“ミーナ、こっちのテーブル片付けて!”
「Yes, I’ll do it soon.」
その時また店の扉が開きお客さんが入ってきた。
でも店内を見渡して、出て行ってしまった。
まだ片付いているテーブルはない。
座れる席がない。
「あっ…」
ミーナは気づいたけど、エマもアーサーも厨房にいて、相談できなかった。
それにまだ片付いてないテーブルに座らせるわけにはいかないと思って、見送ってしまった。
今日はいつもより忙しい。
そんな気がしていたら、シャルルが声をかけてきた。
「ねぇ、君はパーティーの主催者かなんかなの?」
「えっ?」
聞き返そうとしたけど、エマさんに言われた。
「ミーナ、中で皿洗ってくれるかい?」
--------------------------------------------------------------------------------
お店が閉まった後、エマさんに呼ばれた。
「ミーナ、うちの客にはあんな接客はいらないよ。」
「あんな接客…?」
「あぁ、まるでお貴族様のパーティーみたいな振る舞いだっただろ?」
「えっと…私の国であれが普通で…あれがお客さまへの敬意なんです!」
「うちの街にはいらないよ!」
笑うエマにミーナは強く言った。
「でも!せっかく来てくださったお客さまに、気持ちよく滞在してもらいたいじゃないですか!」
エマはいつになく真剣に、でも優しい声でミーナに言った。
「理想を持つのはいいことさ。
でもね、
目の前の客が何を求めてるのかを見るのも、大事な敬意なんじゃないかい?
うちにくるお客さんはパーティーに来たいわけじゃない。
どういう客がいるのか、もっと「人」をみてごらん。」
エマさんの言ってることは難しかった。
言葉を聞き取ることはできたけど、意味を理解することができなかった。
「ミーナはもっとこの国のこと、この街のことを知らないといけないね。
明日は街にいってごらん。
ここの人たちがどんな言葉を使って、どんな生活をしているのか、それを知ることも大切なフィールドワークだ。」
--------------------------------------------------------------------------------
翌朝、ミーナは街に来ていた。
一晩考えてもエマの言っていることは理解できなかった。
いや、自分が間違っているとは思えなかった。
エマとアーサーの料理は美味しい。
その味に比べて、お店はなんだか勿体無い感じがした。
おしゃれな外観だったら客が増えるのに。
ミーナは初日にそう思った。
でも外観を変えることはできない。
だから、自分ができる接客から変えてみようと思った。
それなのに…エマにダメだしされて、落ち込んだ。
納得いかなくて少しだけ腹が立った。
だから自分が間違ってないと確認するために街に来た。
目当ては気になっていた「パン屋」。
レンガ作りのお店で、ガラスのディスプレイから店内が見えた。
初めて見た時は昼過ぎで、もうパンははなくて閉まっていた。
だから朝に来てみた。
「オシャレなお店だから、きっと接客だっていい感じなはず!」
お店には入らず、ショーウィンドウから店内を眺める。
フランスパンみたいな長いパンが何本かカゴに入っている。
その横には楕円形が積まれていく。
ミーナは奥ものぞいてみた。
「クロワッサンあった!」
でもそれだけだった。
日本みたいに菓子パンや総菜パンはない。
「いつも食べるパン」しか並んでない。
入る人もたちも、さっと選んで、大きな「一個」だけを買っていく。
ミーナはその様子をしばらく眺めてから呟いた。
「パンは毎日炊くお米なんだ。
……お米食べたいな。」
隣で同じように街を眺めていたシャルルが顔を上げる。
「こめ?」
「……シャルルってお餅みたいなフォルムしてるよね。」
パン屋が期待外れだったミーナの口調には、少しトゲがあった。
その後もいくつかのお店を見て回ったけど、ミーナみたいな接客している人はいなかった。
いや、いた。
“Hi, young lady!”
「…私?」
“Yes!
Please come and look at my finest accessories.”
満点の笑顔ととっても丁寧な雰囲気で声をかけてきた男。
「…うさんくさいね。」
シャルルがため息をついて、通り過ぎた。
ミーナは前を歩くシャルルを追いながら、街の「人たち」をよく見た。
気さくに声をかけ合う人たち。
店員でも、片手をあげて挨拶をした。
冗談を言って大声で笑っている店員と客もいる。
「…生活なんだね。」
「何が?」
シャルルが少しだけミーナを見上げる。
「お店が。
特別な場所じゃなくて…普通に生活する場所なんだ。」
「そうだね。少なくともパーティーを開催する場所じゃない。」
シャルルの言葉にミーナは少しムッとしたけど、「そうだね」と苦笑した。
「さっきのアクセサリー屋の人、変だったね?
詐欺師みたいだった!」
「昨日のミーナも負けてなかったよ!」
「えっ、ウソー?!」
2人は笑いながら街の中心へと進む。




