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昨日まで役立たずの代役聖女でしたが、追放された隣国では大聖女やってます  作者: 桜枕


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第23話 悪いお誘い

 バルコニーから応接室へ移動する際にもセリーナは逃げられないように前後左右をロイハルドたちに囲まれた。


 まるでセリーナが来ることは決定していたかのように応接室には紅茶とお菓子が準備されており、給仕するメイドも待機していた。


「どうぞ。毒なんて入っていないよ。聖女殿を毒殺するメリットがない」


 目の前に出された紅茶に手を付けようとしないセリーナに見せつけるようにカップの優雅に傾けるロイハルド。


「それで、お話しというのは何でしょう」

「そんなに怖い顔をしないで欲しい。我もヨハンと同じで貴公の味方のつもりだ」

「ヨハン殿下の匂いとは違った臭いがします」

「におい、か。あながち間違いではないな。我はヨハンと違って国のことだけを考えている。我に言わせれば、ヨハンは優しいがゆえに甘く、弱く、脆い」


 ヨハンをけなされたセリーナの目つきが鋭くなる。それはまるで獰猛な獣のようだった。


「だが、悪いことばかりではないのだ。ヨハンのおかげで貴公は本来の能力ちからを発揮しつつある。そう自覚しているのではないか?」


 実のところ、図星だった。


 異世界に召喚され、聖獣イグニスと契約を終え、聖女認定されてからも自分はマリアベルとは違うと感じていた。


 マリアベルに出来ることは何一つ出来ない。

 同時にセリーナに出来ることは、マリアベルには出来ない。


 どちらが正しい聖女なのか、と問われれば言い伝え通りの能力ちからを持つマリアベルに軍配が上がるのは当然だった。

 しかも、セリーナは自分の能力ちからを正しく認識し、扱い切れていなかった。


 それが今はどうだ。

 イグニスが去り、マシュガロンⅢ世と契約を交わして、サチュナ王国に追放されてからというもの、以前よりも自由に能力ちからを発揮できている。

 この事実から目を背けることはできなかった。


「ときに聖女殿はジャマガン王国をどう思っているのだろうか」

「ジャマガン王国ですか?」


 急に話題が切り替わり、セリーナは困惑しながらロイハルドがどんな返答を求めているのか思考を巡らせた。


 ジャマガン王国に特別な思い入れがあるわけではない。

 だが、正直に答えて素性がバレてしまうのは避けたかった。


「母国ですから、これからも発展を続けて欲しいと思っています」

「追放されたのに? ジャマガン王国民が信仰する神――イージャヴィを恨んでいるのに?」

「それは……その……」

「貴公が神を恨むように、我はジャマガン王国を恨んでいる。あの国は恵まれすぎているがゆえに他国をあざけり、尊大な態度を取ってくるのだ。どれだけ我が国が舐められていると思う?」


 そんなことを言われてもセリーナに答えられるはずがなかった。


「我と共にジャマガン王国を潰そう」


 応接室にはロイハルドの息の掛かった者しかいないのだから、あえて声を潜める必要がないはずなのに、悪巧みするように顔を近づけて囁いた。


「な……っ!? そ、そんなこと――っ!」

「我と聖女殿なら出来るさ。なんなら、ヨハンを誘っても良い」


 セリーナが息を呑む。

 まさか、ここまでスケールの大きな話をされるとは思ってもみなかった。


「実を言うと既に初手は打ってあるのだ。大打撃とまでは言わないが、王宮内はてんやわんやと言ったところだな」

「な、何をしたと言うのですか?」

「貴公の生み出す"聖女のギフト"を高値で取り引きしている」


 ロイハルドの発言にセリーナはよろめいた。


 まさか、自分の手のひらから生み出すお菓子が秘密裏に輸出されているなんて想像の斜めを行く話だ。


 そもそも、ヨハンとの約束で1日に10個しか作っていない。

 それに配っているのは孤児院や兵士たちの宿舎、肉体労働を生業とする人たちの仕事場だけのはず。

 どうやってロイハルドが入手してジャマガン王国へ売っているのか。


 その答えはすぐに察しがついた。


「……ミリアーデ?」

「さすが聖女殿。その洞察力は目を見張るものがある」


 少し考えれば分かることだ。

 セリーナのスケジュールを組み、その日にセリーナ以外の誰がどこに"聖女のギフト"を配るのか把握している人物。

 そして、セリーナが魔物をどうやって退けたのかを間近で見ていた人物。


 該当するのはミリアーデだけだった。


「何か事情があるのですね」

「口の硬い娘だ。きっと貴公にも話してはいないだろう」

「ミリアーデを解放してください」

「それは聖女殿の返答次第だ。我の手を取れ。そして、ジャマガンを潰すと誓うのだ」


 ロイハルドはヨハンと違って握手を求める。決して人差し指を出して、約束厳守の儀式を求めることはなかった。


「では、わたしも正直にお答えしましょう」


 セリーナは意を決して、力強い瞳でロイハルドを見つめ返す。


「ジャマガン王国に思い入れはありませんので、どうなっても構いません。ですが、わたしのあずかり知らぬ所で滅亡されては困ります。自分の手でやり返さないと気が済みません」


 一瞬、目を見張ったロイハルドは無理矢理、作っているような悪人顔を貼りつけた。


「では乗り込むとしよう。同行者には信頼のおける者が良いだろう。適任を用意しておく」

「殿下がご一緒していただけるわけではないですね」

「我はこの国を離れるわけにはいかぬ。サチュナを大きくするのは我の責務だ。聖女殿は聖女殿の責務を果たしてくるといい」


 ロイハルドの言う聖女の責務が何を指しているのか分からない。

 だが、セリーナがロイハルドと握手を交わしたということは、少なくとも今は"臭わない"ということだ。


 後日、セリーナはヨハン第二王子と共に彼の護衛騎士たちに守られながら、追放されたジャマガン王国を訪問することとなった。

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