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千物語  作者: 松田 かおる


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8/8

Forget ME Not

愛する貴方へ


突然のお手紙、ごめんなさい。

どうしても貴方に伝えないといけないことがあって、手紙を書かせてもらいました。

実は私、今度「遠いところ」に行くことになって、貴方とお別れしなければいけなくなってしまいました。


突然のことでびっくりしていると思います。

でも、黙ってお別れするわけにもいかないと思い、このような形をとらせていただきます。


貴方と初めて出会ったのは、二年前のちょうど今くらいの頃でしたね。

道で転んでしまった私に手を差し伸べてくれた貴方を初めて見たときから私は貴方を好きになってしまい、貴方との日々が始まりました。

今でもその時のことをはっきりと思い出せます。


あれから私の心にはずっと貴方がいて、とても幸せな日々を過ごしてきました。

貴方が仕事で辛そうな時、何もしてあげられない無力感に苛まれた日。

いいことがあった時に見せる貴方の笑顔で、私もあなたと幸せを分かち合える気持ちになれました。


思い起こせば…


(中略)


でも、そんな幸せな日々が突然終わりを迎えることになるとは、思ってもいませんでした。

世の中というのは、なんて非情なのでしょう。

こんなにあっさり終わりを迎えてしまうなんて…

私も身を引き裂かれる思いです。

でも、これが運命なのかもしれないですね。

あの日貴方と出会ったことも。

そしてこうして貴方と別れることも…


本当は直接このことを貴方に話したかった。

けど直接貴方に会うと別れが一層辛くなるので、手紙でお知らせさせてもらいました。


もう貴方に会えなくなるけど、私はいつまでも貴方のことを愛しています。

ですのでどうか、どうか私のことを、いつまでも忘れないでいてください。


それでは、さようなら。


愛する貴方へ




「…何これ?」

横から手紙を見た女が言った。

かなり分厚い手紙を読んでいた男は、

「…全く見当がつかない」

と、「まるで意味がわからない」といった表情と口調で答えた。

女は、

「でも、ずいぶんと細かいことまでたくさん書いてるじゃない。まさかあなた…」

ほんの少し疑いを含んだ目で、男を見る。

男は

「いや、本当に心当たりなんてないって。大体差出人の名前も書いてない手紙なんて…」

と、困惑しきった口調で返した。

「だったらなんか怖いね」

女が言うと、

「そうだよなあ、気味悪いし捨てちゃおうか」

男はそう答えて、分厚い手紙をゴミ箱に放り込んだ。




二人がそんなやり取りをしている部屋の外を、一台のパトカーが静かに通り過ぎて行った。

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