ある夜の出来事
「お疲れさまー」
「…んー、お疲れー」
そう言うと、なみなみと酒が注がれた大ぶりな湯飲み茶碗をごちっとぶつけて、二人の男が乾杯をした。
そして二人は、黙って一気に酒を飲み干した。
「ふー、ひと仕事終わった後の酒はうまいねぇ」
片方の男はそう言うが、もう一人の男の方は、
「…そうだな」
と、どこか煮え切らない反応を返した。
「どうしたよ、『青さん』?」
『青さん』と言われた男はそれに応えず、空になった茶碗に新しく酒を注いで、また一気に飲み干す。
「…」
『青さん』に声をかけたもう一人の男は、それを黙って見つめたままでいた。
「…痛いんだよ、『赤さん』」
しばらくの沈黙の後、『青さん』がぽそっと口を開いた。
「痛い?あんなくらいで?」
『赤さん』が意外そうな表情で返す。
「…いや、あれそのものじゃなくてさ、心が痛いんだよ」
『青さん』が静かにつぶやく。
「…」
「つぶらな瞳の子がさ、あんなすごい顔をしてオレに向かってくるんだよ」
『青さん』が続けると、
「…仕方ないだろ、務めなんだから」
どこか割り切ったような口調で『赤さん』は答えた。
「まぁ、そうなんだけど…」
「『青さん』子供が好きだもんな、確かに辛いかもなー」
そしてまた黙々と酒を飲み、つまみをつまんでいく。
ピンポーン♪
しばらくして、玄関のインターホンが軽やかな音を奏でた。
「俺が出るよ」
『赤さん』がそう言って、インターホンに向かう。
しばらくやり取りをした後、一人の老人が部屋に入ってきた。
「…爺さん」
『青さん』が口を開く。
『爺さん』と言われた老人は、
「今年もありがとうございました」
そう言いながら包みを差し出した。
中には特上のお寿司と、高そうな日本酒が入っていた。
老人も加わった酒宴が静かに続く。
「悪く思わんで下さい。みんな、あんた達の気持ちは解ってますから」
老人がぽつりと口を開き、
「あんた達が、この村を災厄から守ってくれてるってことも」
そう続けた。
「まぁ、こっちもお務めだしね」
『赤さん』はそう返したが、『青さん』は黙ったままだった。
「そうだ、これを預かってきてたんだ」
老人はそう言うと、一通の手紙を『青さん』に差し出した。
『青さん』が手紙を受け取って目を通すと、そこには
「いたくして ごめんなさい」
とだけ書いてあった。
『青さん』が目頭を押さえると、すかさず『赤さん』が
「『青さんの目にも涙』か?」
と茶化す。
「ワサビだよ」
『青さん』はそう言って、なみだ巻を口の中に放り込んだ。




