杖をついた少年
「…あの、すみません」
信号待ちでスマートフォンをいじっている私に向かって、誰かが声をかけてきた。
声のした方を振り返ると、片手に杖を持った少年が私を見ていた。
少年は私の顔を見ると安心した表情で、
「よかった、探してたんです」
と言った。
「私を?なんで?」
私が聞くと、少年は真剣な表情で、
「これからあなたをナンパしてくる人がいますが、相手にしないでください」
と言った。
…何を言ってるんだ?
私が全く理解できないでいると、少年は
「僕の命にかかわることなんです」
と続けた。
…ますます意味が解らない。
かと言って無視するわけにもいかない話なので、理由を聞く。
少年が言うには、
・自分は未来から来た「私の息子」
・これからナンパしてくる男と私が将来結婚して、自分が生まれる
・父親はすぐに暴力をふるい、私と自分が危険な状態になっている
とのことで、
「その結果がこれです」
年季の入った杖を軽く上げてみせて、
「なので、あなたとあの男との関係を作らせないために来ました」
そう結んだ。
仮にそうだとして。
「もし私とその男が結婚しなかったら、あなたは生まれてこないんじゃないの」
素朴な疑問をぶつけてみる。
すると少年は、
「それはないです。僕が生まれるのは変わりませんが、少し違う人生を歩むはずです」
そう答えた。
どうにも今ひとつ理解が追い付かないでいると、
「おねーさん、一人?」
突然横から声をかけられた。
私と少年が声のした方を振り向くと、一瞬にして少年の顔が強張った。
その様子を見て、やっと理解が追い付いた。
…あぁなるほど、この優男が…
そんなことを考えていると、
「…あの、今僕がこの人と話をしてるんですけど…」
少し怯えているような口調で少年が男に言った。
すると男は、
「うるせえ!」
大声で怒鳴って少年を突き飛ばし、少年はバランスを崩して転んでしまった。
それを見て私は、
「何してんのよ!」
なぜか反射的に、男の頬を思い切り引っぱたいていた。
その場から離れてしばらく歩いてから、
「大丈夫だった?ケガしてない?」
私が聞くと少年はにっこり笑って、
「おかあさん、ありが
最後まで言葉を言い切ることなく、その姿が一瞬で消えた。
そして年季の入った杖だけが転がっていた。
…あの子はどうなったんだろう?
まさか私のせいで生まれてこなくて、存在が消えちゃったとか…?
急な出来事に最悪のことを考えていたら、
「ママ」
そう言いながら、足元に転がっている杖を拾い上げる少年がいた。




