紹介状
魔法は、もはや奇跡ではない。誰かが言った。
検証・分類・体系化。人の子が自然の法則を操るようになってから幾百年、魔法は神の御業ではなく、技術と化した。その存在は常識となり、誰もが自在に世界を操るという夢を見ることができるようになった。魔法は、不可思議の手を離れた。
アダン・アルベールは魔法研究の第一人者であった。彼の手により、目により、魔法はそれまでとは一線を画すほど分解され、分析された。先人たちが歩んだ道が獣道であったならば、彼が行く道は街道になった。彼の手によって、魔法は奇跡そのものから、学び、修めることで身に着けるものとなった。
数多くの才能が、彼の無二なる才能にあこがれ、追随した。
そして今、魔法使いたちは岐路に立たされている。アダン・アルベール街道一本道がとぎれた先、その先に新しい道が敷かれるのを待ち望んでいる。
魔法はもはや奇跡ではない。道を拓くのは新たな才能である。
発展を、新風を、刷新を。世界は才能を求めている。
魔法とは、何か。博学高名な諸君らには、きっと何かしら答えがあることだろう。もしくは、いまだ答えを探しているものもあるだろう。またあるいは、答えなどない問いだと議論を退けるものもあることであろう。
私から、君たちにプレゼントを用意した。プレゼントと言っても、手放しに喜ぶことのできるものではないことを先に断っておきたい。たとえるならば、爆弾とそう言ってもいいかもしれない。導火線の先で見られるものが破壊なのか美しい花なのか、存分に見極め考えてほしい。
私たちが追い求める魔法とは、何か。その問いに向き合う上で、ひとつの道筋となることだろう。
胸を打たれとりこになるものがいたかもしれない。あるいは心をかきむしられ拒絶した者もあるだろう。いずれにせよ、斬新で、古典的で、前衛的で、懐古的な体験をお届けすることを約束する。
彼をどう考えるか、その過程を、結末を見届けることができないことが唯一の心残りだ。
どうか、さきゆく世界に祝福があらんことを。
遺書の一枚として
アダン・メトル・アルベール
追伸:これは転写物である。元本はプレゼントに同梱してあるので、追って手元に届くことだろう。