くしゃみで勇者を炙った件について
異世界転移から、今日でちょうど一週間。
あいかわらず俺はツッコミだけで生きている。
名前はイチノセ・レンジ。
元・司法浪人、現・異世界で“弁論術士”をやっている。
要するに、この世界の裁判で屁理屈をぶん投げる専門職だ。
異世界っていうと、普通は剣とか魔法で戦うイメージだろ?
だがここでは、すべての争いは「裁判」で決着をつける。
ルールは絶対。契約は神の名のもとに。言葉が武器で、屁理屈が魔法。
だから俺は、剣も魔法も使えないけど──
ツッコミだけで毎日命がけだ。
◆
「お願いだ、人間! 弁護を引き受けてくれ!」
そう言って俺の事務所の壁をぶち破って現れたのが、ドラゴンだった。
「入ってくる時にノックしろォォォ!!」
「壁にノックする概念はないッ!」
「そもそもドアがあるのに何で壁から来た!?」
「つい、くしゃみが……」
なるほどね?
物理的にも社会的にも破壊力すごいな、くしゃみ。
「で? なんで俺に弁護を頼む気になったんだ?」
「うむ。噂に聞いたぞ。屁理屈だけで無罪を勝ち取る男と」
「やめろ、その言い方だと詐欺師みたいだから!」
とにかく話を聞くに──どうやらこいつ、
“くしゃみ”の勢いで火を吹いて、たまたま通りがかった勇者を炙ったらしい。
「当たり所が悪くて、髪が──ほんの少し──チリチリに……」
「いやおまえ、勇者の命より髪の毛の心配してるのか?」
「だがあれは事故だ! 花粉のせいだ!」
「何の花粉だよ。ドラゴンに花粉症あんの!?」
◆
──というわけで、
俺は今、火を吹いたドラゴンの弁護を引き受けている。
次の裁判の争点はひとつ。
「くしゃみで火を吹くのは、果たして罪なのか?」
答えはまだわからない。
でもこの世界で無罪を勝ち取る方法はひとつしかない。
屁理屈で、ねじ伏せるんだ──!