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第四幕:別れと響き
村の入口。ちさとがバックパックを背負って立っている。たきなとひとりが見送っている。
たきな
本当に行くの?
ちさと
うん。ここに長くいると、わたし、バグっちゃう。
でも、“正しさ”だけじゃない生き方、ちょっと憧れた。
ひとり
待って。これ……昨日書いた詩。メロディもないし、意味もわかんないけど……
ちさと
(受け取って、読む)
「わたしは、
答えを知らないまま、
あなたの隣にいた
その沈黙が、
世界でいちばん
やさしい演算だった」
ちさと
……“演算”って入ってるのに、数式じゃないのがいいね。
たきな
“正しい”と“やさしい”は、同じじゃない。
でもあなたが残したのは——やさしい正しさだったよ。
ちさと
そりゃ、あんたたちの感染力のせいだよ。
ひとり
それ、名前あるのかな?
ちさと
ないほうが、響くときもあるよ。
(朝日が村を照らす。ちさとが歩き出す。ギターの音は残る。誰も、もう言葉を重ねない)
(幕)