第二幕:衝突と誤解
村の集会所。中央には水路模型。ちさとが模型を操作しながら説明している。たきなは壁にもたれ、ひとりはノートを抱えて黙っている。
ちさと
ここの分岐、非効率だよ。ここをこう削ると、全体の流速が上がる。40秒短縮!
たきな
……それで?
ちさと
え、便利でしょ? 水が早く届けば、それだけ安心できるじゃん。
たきな
その分岐点の下で、子どもたちは水音を聴いて育ったの。あなた、それも最適化するの?
ちさと
それって、設計上の必要性ある?
ひとり
(ぽつりと)“音がある水は、生きてる水だ”って、おじいちゃんが言ってた。
ちさと
……それ、定量化できないな。
たきな
定量化できないから、削っていいわけじゃない。
ちさと
……非合理だね。でも、なんか、ちょっと気になってきたかも。
ひとり
私、“わかんないけど好き”を、残したいの。
だって、全部わかっちゃったら、好きって……終わっちゃうから。
ちさと
それ、非連続関数みたいだね。“好き”って。
たきな
あなた、ここに来て、少し“誤差”を許せるようになった?
ちさと
うん……「誤差つき最適化案β」ってことでどう?
ひとり
(ギターを鳴らす)そのコード、まだ名前ないけど……好き。




