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【8月6日電子書籍配信】辺境伯一家の幸せ家族計画【コミカライズ準備中】  作者: 氷雨そら


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34/35

幸せ家族


 柔らかい日差しが降り注ぐ庭で、ディルとウェンディはベンチに並んで座っていた。

 咲き誇る花々のかぐわしい香りが風に乗って流れてくる。

 子どもたちの元気な笑い声が響き渡る。


「ほら、二人まとめて掛かってきなさい!」

「「――うう、降参だよ」」


 どんな武器でも使いこなし戦略に秀でる『戦神の両手』というギフトを持つジェフとレイ。

 しかし双子はまだ、ルネッタには勝てないようだ。

 一旦領地に戻ってきたルネッタ。しかし、春には再び王都に向かう予定だ。

 そうなればまた、辺境伯一家が王都に出向く機会も増えることだろう。


 だから、秋が深まり冬が訪れるまで、この穏やかな日々は束の間の休息に違いない。


「のどかですねぇ……」

「王都に比べれば何もないが、そこが良いところでもあるな」

「そうですね。私はこの地が王都よりずっと好きです」

「それは良かった」

「不思議とこの場所にいると精霊の息づかいみたいなものを感じるのですよね」

「――精霊は自然を愛するという。王都は少々人の手が入りすぎたのかもしれないな」


 二人は再び子どもたちの様子を眺める。

 ミッシェルは蝶を追いかけ回している。

 こうしていると、ただの可愛い二歳児だ。彼女も春になれば三歳になる。

 成長と共に語彙が増えれば予言の精度も上がるだろう……。


 しかし『彼方の目』という名のギフトは、思った通りの未来を視ることができるわけではない。

 先日のお茶会……そこで何が起こるはずだったのか。

 幼い彼女は、視たもの全てを語ることはまだ出来ない。


「精霊は……どうしてギフトを与えるのでしょうか」

「さて……どうしてだろうな」


 ギフトは精霊が人に与えた大いなる力だとされている。

 そして、神殿と王家はその力を管理してきた。

 ディルもジェフとレイと同じギフトを持つばかりに、幼いころから剣を持ち戦いに身を置いてきたという。


「私になぜ聖女の印が与えられたのか、今ならわかる気がします」

「……聖女の印を持つばかりに、苦労してきただろう」

「そうですね。でも今は、家族を守りこの地を守ることができるこの力が誇らしいです」

「そうか……」


 ウェンディはディルのことを見つめて微笑んだ。

 ディルもにっこり笑って口を開く。


「実は俺も、このギフトさえなければと何度も考えたことがある……」

「――そうですね。ギフトさえなければ戦わずに済んだかもしれませんね」

「だが、戦場で君の姿を見かけてから考えが変わった。それに、ギフトがあろうとなかろうと大切なもののために戦うことに変わりない。そうであれば、力を得たことが今は喜ばしい」

「……私も、ですよ」


 ディルとウェンディは、同じ戦場にいたことはあるが直接会話をしたことはない。

 しかし、ウェンディも仲間を守ることに重きを置く彼の姿に力づけられていた。

 だから、二人がこうしていつしか肩を並べるのは必然だったのかもしれない。


「ウェンディ、君がこの家に来たとき、幸せ家族を作ろうと言ったな……」

「ええ」

「君と幸せな家族を作る。その気持ちは変わらないが、言い直しても良いか?」

「……はい」

「君を幸せにしたい、そして俺のことを幸せに出来るのも君だけだ。だから……年老いて別れの日が来るまで幸せな日々を送ろう――夫婦として」

「嬉しいです、ディル様」


 そのとき、二人の上に色とりどりの花びらが降り注いだ――しかしそれは、精霊が与えたものではない。


「おめでとぉ!!」


 振り返るとミッシェルが籠いっぱいの花びらを懸命に撒いていた。

 ルネッタとジェフとレイも、ディルとウェンディを祝福するように花びらを撒いている。


「ルネッタ、ジェフ、レイ……ミッシェル」


 子どもたちが二人を祝福して撒いた花びらは、ひらひらと空高く舞い上がっていく。

 涙にぼやけた視界で、ウェンディはその美しい光景を見上げる。


「ママ、ずっと……いっしょ!」

「ミッシェル……!」

「「僕たちも一緒だよ……ウェンディさん!」」

「ジェフ……レイ!」


 初めにミッシェルが、次いでジェフとレイがウェンディに勢いよく抱きついてきた。


「私もよ……離れたって、私たちはずっと家族よね?」

「もちろんです……ルネッタ」


 少し照れながらルネッタもウェンディの隣に座り、腕を組んできた。


 涙ぐみながらも幸せそうに笑うウェンディの肩をディルが抱き寄せる。

 それは幸せな家族の思い出の一場面……。

 花びらは白銀の光を帯びて、天高く舞い上がっていく。幸せな家族を祝福するように。

第一部完結です。

ここまでご覧いただきありがとうございます。

子どもたちの成長と幸せ家族の物語、二部開始までしばらくお待ちください。

ブクマ、☆を押しての評価がまだの皆さま、ブクマや評価は執筆の大きな励みになります。

この機会にぜひ応援お願いいたします。


また、こちらの作品は電子書籍、コミカライズが決定しております。

コミカライズで可愛らしい子どもたちが動き回る様子をどうぞお楽しみに!!

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