出会いと薔薇とお城のお茶会 5
王太子セノア・ラペルトは銀色の髪に深紅の瞳をした神秘的な少年だった。
彼は何にも興味を持っていないような、それでいて深く何かを考えているような表情のまま周囲の様子を観察していた。
王族らしい王族――その言葉が彼のことを端的に表している。
しかし、深紅の目はこちらに向いた途端、見開かれた。
少し慌てたように近づいてくるその姿は、年頃の少年のようだ――少なくともウェンディにはそう見えた。
「――見つけた」
「……あ、あの……その節は失礼致しました」
ルネッタは慌てたように礼をした。
完璧すぎる美しい礼だったが、ルネッタの頬は赤く染まっている。
けれどそれは美しい王太子に対して照れたと言うよりも、何か失敗をして恥ずかしがっているようだった。
「君の名は」
「ルネッタ・バルミールと申します」
「やはり、バルミール辺境伯家の令嬢だったか。こちらこそ名乗れず失礼した。セノア・ラペルトだ」
「――まさか、王太子殿下だったとは存じ上げず」
「はは、君は面白いな……家族思いで、威勢が良く、かと思えばこのような場では誰より美しく凜としている」
「……はい?」
「私は君を婚約者にする。そう決めた」
「え?」
ルネッタは青い宝石のように美しい瞳を見開いた。
ルネッタはさきほど、婚約者に選ばれる道が閉ざされたようなことを言っていた。しかし、なぜか婚約者に選ばれている。ウェンディはあまりの急展開に思考が追いつかなかった。
そういえば――とウェンディは思う。
先日、ルネッタはミッシェルと共に泥だらけになって帰ってきた。それからずっと様子がおかしかった。つまり、あのとき王太子とルネッタは出会っていた可能性が高い。
会場は登場するやいなや、王太子が婚約者を決めてしまったことで混乱し最高潮にざわめいている。
けれど、一番混乱しているのはどこをどう見てもルネッタだ。
一方、周囲のことなど気にすることもなくルネッタを見つめる王太子は、感情が読めない笑みを浮かべている。
ルネッタは深呼吸をすると、おずおずと口を開いた。
「王太子殿下……恐れながら、あのような出会いでしたのに、なぜ私を選ばれるのですか」
「――そうだな。まさか休憩中に聖女の薔薇を身につけた女性が上から落ちてくるとは思わなかった」
「あんなところに寝転がっているから……いいえ、御身を汚してしまったこと、深くお詫び申し上げます」
「はは、よそ行きの君ではなく本来の君を知るには婚約者になる以外にないだろう?」
「……本来の、私?」
「さて、皆に挨拶をしてこなければ」
王太子はルネッタのそばから離れて、十三歳のお披露目の挨拶をし始めた。
その姿は年齢を感じさせない堂々としたものだ。
会場の視線はチラチラと盗み見るようにルネッタに向いている。
それらの視線のほとんどは、嫉妬と憎悪に満ちている。
――お茶会はこうして幕を閉じる。そして、王太子の言葉通り、ルネッタは王太子の婚約者として選ばれ、この事実は国中に公布されるのだった――多くの想像と空想と虚構にまみれた噂と共に。
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