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【8月6日電子書籍配信】辺境伯一家の幸せ家族計画【コミカライズ準備中】  作者: 氷雨そら


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出会いと薔薇とお城のお茶会 4


 お茶会は和やかな雰囲気で進んでいる――一見そのように見える。


「――ルネッタ様に付き添っておられるバルミール夫人は、聖女だったんですよね? ああ、失礼『元』……でしたわね。お噂はかねがね聞いておりますわ」


 意地悪げな表情を浮かべてルネッタに話しかけてきたのは、リオン侯爵家の令嬢だ。

 家格だけみれば、彼女の家はバルミール辺境伯家よりも上、だが……。


 ルネッタはにっこりと微笑んで口を開いた。


「まあ、リオン侯爵令嬢……。お久しぶりですこと」

「え、ええ」


 ルネッタは怒っているようだ。

 上手く間に入れそうもないと思ったウェンディは、神殿で培った慈愛ある笑みを浮かべて乗り切ることにした。


「そういえば、噂にはなっておりませんが、リオン侯爵令嬢の姉上様は、元……」

「――っ、家族のことは関係ないでしょう?」

「まあまあ……本当に、本当にそうですわねぇ。私も家族のことと自分は関係ないと思っておりますわ」

「っ……失礼致します」

「ええ、ごきげんよう」


 扇を広げて口元を隠すルネッタ。

 微笑んでいるように見えるルネッタと怒りを露わに去って行くリオン侯爵令嬢。

 どちらに軍配が上がったかは明らかだった。


 ――リオン侯爵家の長女は恋多き女性で、とうとう婚約解消されてしまったという。そのことについては、ウェンディも礼儀作法を教えてくれているミランダ夫人から聞いていた。


 噂になっていないのは、リオン侯爵家が必死になって揉み消しているかららしい。


「……いくら情報を持っていたって良い気分じゃないわね」

「ルネッタ……」

「そんな顔しないで、ほら!」


 ルネッタは広げた扇をウェンディに掲げ、その口元を隠した。

 この場所では、正直で優しいだけでは生き残れないのだ。

 ウェンディは、どんなに悪し様に言われても信じた道を進むのが信条であったが、それだけではルネッタを、家族を守ることは出来ないのだと思い知らされるようだった。


「守られてしまいましたね……」

「家族なのだから、庇うのは当然でしょう?」

「――そうですね」


 家族を守るためなら、時には信条を曲げることも必要なのだろう。

 しかも、家族たちはウェンディを大切に思い、守ろうとしてくれている。


 今まで誰に対しても平等に生きてきたウェンディにとって、初めて最優先にすべきと決めた対象――それが、バルミール一家なのだ。

 大切なものを守るためには、ときに戦うことも必要なのだろう。


「お久しぶりですね、ウェンディ様」


 次に二人の前に現れたのは、婚約者候補である聖女たちだった。

 この二人は中央神殿で散々ウェンディを馬鹿にしてきた。

 ウェンディはこれまで彼女たちの言葉に対して言い返すことをしていなかったが……。


「――ルルア様、シーラ様ごきげんよう」

「あなたのような方が、この場にいらっしゃるなんて」


 意地悪げな表情と言葉に、ルネッタが眉をひそめて前に出かけた。

 しかし、ウェンディはそれを制して、先ほどルネッタに借りた扇で口元を隠してにっこりと微笑んだ。


 白銀の髪に淡い紫色の瞳……いつも汚れていて美しく着飾ることがなかった元聖女の渾身の微笑……それは神殿に飾られる絵画のように神聖で美しかった。


 会場中がウェンディの笑みに見惚れる。


「……精霊が素晴らしい縁を結んでくださいましたのよ?」

「精霊が? いったい何を……」

「ところで、聖女様方に私を名前で呼ぶことを許した覚えがないのですが?」

「……は?」

「親しい方々以外には、バルミール辺境伯夫人と呼んでいただきたいものです」


 ウェンディは渾身の演技で、辺境伯夫人っぽく首を傾げてため息をついてみた。

 ルネッタの日頃の振る舞いを参考に……。


 隣にいたルネッタが、ゴクリと喉を鳴らすのが聞こえた。

 いつも余裕な振る舞いを崩さないよう気をつけている彼女にしては珍しいな、と思いつつウェンディは「では、良いお時間を」ともう一度微笑んでルネッタの手を引いてその場を離れる。


「やればできるじゃない……」

「バルミール家の者らしい振る舞い、できてましたか?」

「素晴らしいわ」


 ――ルネッタの言葉の直後、王族が訪れたことを現す荘厳な音楽が会場に流れ始める。


 王太子とはどんな人物なのか……。

 ウェンディはそちらに視線を向けようとして、ルネッタの手がひどく震えていることに気がつく。


「ルネッタ……?」

「どうして……」


 先ほどまでの威勢は消え、ルネッタは青ざめている。

 

「どうしたのです? ルネッタ」

「私が王太子殿下の婚約者になることはもうないわ……きっと」

「なぜ……?」


 ここまで大きな問題はなかったはずだ。

 けれど、ルネッタはなぜかそのことを確信しているようだった。


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