出会いと薔薇とお城のお茶会 2
馬車の中で、ミッシェルは今日もご機嫌だった。
窓の外を眺めては「あれ、なあに?」を繰り返している。
ジェフとレイは、ミッシェルに教えるのが楽しいのか、嬉しそうに付き合っている。
仲のよい兄妹の様子を微笑ましい気持ちで眺めてから、ウェンディはディルに向き合った。
「あの……ミッシェルを王城に連れていくのは危険なのでは?」
「ああ、だが俺と君が王城に出た中、屋敷に置いておくのも心配だ。もちろん、警備の上では執事長がいれば問題ないだろうが……」
「執事長が?」
「……言っていなかったか。彼は俺の剣の師匠だ」
小さく可愛らしい印象の老齢の執事長。彼の姿を見ることはあまりないが、本当に困ったときや重要な局面ではスッと現れる。
彼が多くのことを任されていることは察していたが、まさか英雄、ディルの師だったとは……。
驚きながらも、ディルが今まで遠征に行っても安心できた理由の一つを垣間見てウェンディは納得した。
「でも、もしもミッシェルが未来を視てしまったら……」
「だからといって、これから先何年もミッシェルを屋敷の中だけに置いておくことは出来ないだろう。いつかは我が家から巣立っていくんだ」
「……そう、ですね」
「みっしぇる、いいこにできる」
「ミッシェル?」
ミッシェルはそう言ってにっこりと笑った。
その笑顔は控えめに言って天使。ウェンディは思わず彼女のことを抱きしめた。
「みっしぇる、がんばる!」
「私も頑張るわ!」
「うん! あと、お花……お花! ありがとう」
「……花?」
バルミール辺境伯家は総力を挙げ、ミッシェルを守るだろう。
しかし、ミッシェルが自分で判断できる日まで、迂闊に知られないに越したことはない。
「君たちが茶会に行くのをエスコートしたあと、幼い子どもたちがいるからと陛下に別室をお借りしている。問題は起こらないだろう」
「そうですね……そうだといいのですが」
「――だが、その分、君とルネッタからは離れねばならない」
心配なのは、ミッシェルのことだけではない。
今日は王太子の十三歳の誕生日を祝うお茶会……初めて王太子が公に姿を現す日なのだ。
「……どんなお姿なのかしら」
「見目麗しくはあるな」
「お会いしたことが?」
「王太子殿下の顔も知らずに護衛は出来まい……。公に紹介されるのが今日というだけで、騎士団上層部の者は殿下にご挨拶したことがある」
「良いお方ですか……」
「王族として完璧なお方ではある……な」
ディルの言い方には少々含みがあった。
王族として完璧、という言葉から想像できることは多い。
しかし、人間性という意味ではどうなのだろうか……。
「誤解ないように言うが、誰にでも平等で慈悲深いお方だよ」
「……そうですか」
ルネッタの婚約相手として考えるなら、平等という言葉には引っかかりを覚える。
けれど、現状でそれを口に出すことは出来ないだろう。
ルネッタは黙ったまま外の景色を眺めている。
そうこうしているうちに、馬車は王城にたどり着くのだった。




