出会いと薔薇とお城のお茶会 1
あれから、ルネッタの様子がおかしい。
時折空を見上げてはため息をつき、優雅に飲んでいた紅茶をふいにこぼしてしまう。
いつでも完璧な所作のルネッタにしては珍しいことだ。
「どうしたのかしら……」
ウェンディはチラチラと彼女の様子を眺めた。
泥だらけになって戻ってきたルネッタは、終始無言だった。
そして、様子がおかしい。
「お花~王子さま~」
「王子……様?」
「うん!」
着飾ったことが嬉しかったのだろう。淡い水色の妖精のように可愛らしいミッシェルはご機嫌で去って行く。
よほど楽しいことがあったのだろう……それとも、楽しい未来を視たのか。
しかし、二歳児の語彙力では全てを語るには至らないようだ。
「それにしても……困ったわね、今日はとうとうお茶会当日だというのに」
「……準備できた?」
ルネッタが現れる。聖女の薔薇は髪に飾られている。いつもはハーフアップにしている髪は、サイドだけを残してアップにされている。
デコルテには美しい金色のチェーンと雪の結晶。
キラキラと輝くドレスの色は、雪をイメージした淡い水色だ。
全体的に大人っぽいが、スカートの裾がフンワリと広がり、さらに年齢的に足首が出たデザインのため可憐な印象でもある。
「ええ……どこかおかしいところはありませんか?」
振り返ったウェンディは、ルネッタとお揃いの雪をイメージした淡い水色のドレスを着ている。
薄い布地を幾重にも重ねたドレスは清楚な印象で、聖女を連想するような神聖さも感じさせる。
髪の毛をまとめて、夫人らしい色気もほんの少しだけ感じられる……かもしれない。
「とても素敵よ」
「良かった。ドレスは着慣れていないので」
「聖女なのに……?」
ルネッタは王太子の婚約者候補として、神殿を訪れることもある。
神殿にいる聖女たちは、誰もが豪華なドレスを着て美しさを競い合っていた。
「そうね、荷物もほとんどなかったわね」
聖女として生きてきたはずのウェンディが持ってきたのは、大きなトランクただ一つ。
その中に入っていたのは作業着と戦闘着と聖女としての白い祭事服だけだった。
「戦闘着は二着あるのに祭事服は一着だったわね」
「式典の時に乾いていれば問題ありませんからね」
「……変わった聖女」
「よく言われました」
ウェンディは困ったように笑った。
しかし、基本的に聖女が好きではなかったルネッタは思うのだ。
ウェンディのような聖女ばかりであれば、自分はさぞ憧れただろうと。
「ふふ……今日は神殿の聖女たちも参加するわね」
「そうですね。聖女は王族と結婚することも多い――婚約者候補の中にも二人ほど聖女がいましたか」
「――そうね」
今までのルネッタであれば、「そんな人たちに私が負けると思う?」と言っただろう。
しかし、今日は俯いてため息をついている。
中央神殿に行ってから、ルネッタはすっかり様子がおかしい。
「本当に……何があったのですか」
「なんでもないわ」
もう少し聞いてみようか、とウェンディは思ったが、そのときディルとジェフ、レイが準備を終えてエントランスホールに入ってきたため、二人の会話は中断した。
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