王都への家族旅行 5
ルネッタ、そしてジェフとレイが宿屋の階段を降りると、食堂ではすでにウェンディとディル、ミッシェルが身支度を終えて待っていた。
「「おはよう!!」」
双子は元気に階段を駆け下りた。
しかし、二人とも着替えてはいるが寝癖がひどい。
「おはようございます、お兄様、お義姉様」
「ああ、おはようルネッタ」
「ルネッタ、おはようございます」
ウェンディとディルがにこやかに返事をしてくる。
その姿は昨日と変わりがないように見えた。
「さあ、食事を終えたら出発するぞ……」
「ええ、お兄様」
「でもその前に、二人の髪の毛を直しましょうね」
ウェンディは立ち上がると、二人に「こちらに来て」と声を掛けた。
「「はーい」」
元気よく返事をしたけれど、ジェフとレイはまだ眠そうだ。それもそのはず、興奮してしまった双子は、ルネッタに怒られながらも夜遅くまで起きていたのだ。
ウェンディが二人を連れて去って行く。
「……」
ルネッタはミッシェルを膝に乗せ、食事をさせているディルの斜め向かいに座った。
じっと見つめていると、視線に気がついたのかディルが顔を上げる。
「――どうした? 何か気になることでも」
「――いいえ、お気になさらず」
ルネッタはもちろん、あのあとウェンディとディルに何か進展があるのか気になっているのだ。
気になってはいるけれど、聞くことはできずソワソワとしている姿は年頃の少女らしく可愛らしい。
「気を遣ってくれていることは感謝するが……」
「え? なに!? 私は何も……!!」
「ママと兄さま、なかよくちゅう~」
「「……」」
ミッシェルは確かにあのときぐっすり眠っていたはずだ。
であれば、これは昨日のうちにミッシェルが視た未来の出来事なのだろうか……。
ディルの顔が赤い。
ルネッタは普段家族に甘いが厳格な兄の見てはいけない表情を見てしまった気がして慌てて視線を逸らした。
「なかよし、ちゅう……?」
ミッシェルは二人を見て何を思ったのか、ディルの膝の上で立ち上がり、トマトソースで汚れた口元でディルの頬にチュウをした。
ディルの頬には、ミッシェルの小さな唇の跡。
ミッシェルは掴んでいたスプーンを置いてディルの膝から降りると、今度はルネッタに走り寄りその膝によじ登った。
そして立ち上がるとルネッタの頬にチュウをする。
「なかよし!!」
「まあ、ミッシェルったら……。可愛いけれど、家族以外の人にはしないようにね」
「……みっしぇる、しない」
ご機嫌なミッシェル。帰ってきたウェンディが、ディルとルネッタの頬にトマトソースがついている姿を見て微笑んだ。
「あらあら……」
ナプキンで頬を拭かれたルネッタ、さらにウェンディはディルのそばにも近づいてその頬を拭う。
それから、ミッシェルの汚れたままの口元も……。
「ママ!」
「なあに?」
「だいすき!!」
ウェンディに抱き上げられてご機嫌のミッシェルは、今度は彼女の頬に口づけした。
今度はキッチリ拭き取られているので、ウェンディの頬にソースがつくことはない。
「ふふ……私もミッシェルが大好きよ?」
そう言ってウェンディもミッシェルの頬に口づけして微笑んだ。
「「僕たちも……!!」」
そう言って、ウェンディにしがみついたジェフとレイ。
しかし二人はディルに抱き上げられて、頬への口づけは阻止される。
「「兄さま!! 僕たちもウェンディさんと仲良くしたい!!」」
「――お前たちはダメだ」
「大人げないわ……お兄様」
「だいじょーぶ!! ジェフ、レイ!! みっしぇるとちゅう!!」
「「なんだ……ミッシェルは甘えんぼだな……」」
仲のよい家族は大騒ぎだ。
ウェンディは、ずっとこんなふうに家族で笑い合う日々に憧れていた。
こんな時間がずっと続けばいい――ウェンディはそう思うのだった。




