王都への家族旅行 4
――だが、二人は夫婦なのだ。だから、これは当たり前のことであり……。
「お先にシャワー浴びさせていただきました」
「ああ……」
二人の間には何とも言えない空気が流れる。
見つめ合う二人――シャワーから出てきてすぐにベッドの上で跳びはねるミッシェル。
「ぽよんぽよん!」
「あっ、ミッシェル! 危ないわ!?」
「あぶなくな~わわ!?」
危うくベッドから落ちかけたミッシェルをディルがすんでの所で受け止めた。
「ふう……行儀が悪いぞ、ミッシェル」
「ごめんなしゃい」
シュンッとして謝るネグリジェ姿のミッシェルの可愛らしいこと……しかし、ミッシェルは悪戯盛り。
反省したかと思ったら、すでに鏡台の引き出しを見つけて開け始める。
「「……」」
ウェンディとディルは顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。
先ほどまでの微妙な空気はミッシェルのおかげで完全に霧散してしまった。
「夜も遅い……寝るか」
「ええ……って、どこで寝る気なのですか?」
「もちろん、ソファーで」
「疲れがとれません!」
ディルは予想外のことを言われたとでもいうように首をかしげた。
ウェンディはため息をつく――ディルはそういう人であることを忘れていた、と。
「一緒に寝ましょう」
「しかし……」
「私たちは王家と神殿にも認められた夫婦なのでしょう?」
「結婚式も挙げていない」
「そうですね。でも、問題ありません」
ウェンディの目線が再びベッドへと向く。
「ママ、兄さま、なかよし~みっしぇるもなかよし~」
すでにミッシェルはベッドの真ん中に座り準備万端だ。
「ママ、こっち」
ミッシェルは自分の左側をポンポンッと小さな手で叩いた。
「ふふ、わかったわ」
「兄さま、こっち」
ミッシェルは今度は自分の右側をポンポンッと叩く。
「そうか……たまにはミッシェルと一緒に寝るか」
「わーい!!」
ウェンディとディルはミッシェルを挟んでベッドに横になった。
はしゃぎ疲れたのだろう、ほどなくミッシェルは眠りウェンディとディルはベッドの上で見つめ合った。
「……ディル様、先にお詫びしておきますね」
「君が詫びることなど……いや、話の続きを」
「ええ、ご存じの通り私は聖女ではありましたが、野蛮で相応しくないと周囲に馬鹿にされておりました」
「ああ、神殿長から聞いている」
「王都では……ご迷惑を掛けると思います」
ディルの青い瞳がウェンディを真っ直ぐに見つめた。
しかし、その瞳はすぐに弧を描く。
「君は俺の妻になった……つまりもう俺の家族だ」
「……ディル様」
「我がバルミール辺境伯家は、家族を貶める者を許さない」
そこまで言って、ディルは上体を起こした。
ウェンディも倣って起き上がる。
「――それだけではない。俺は騎士としても腹を立てている」
「何に怒るというのです?」
「君は俺にとってただ一人、完璧な聖女だ。辺境伯騎士団の騎士たちにとっても同じこと……何人もの仲間を救われた我らは聖女である君に永久の忠誠を捧げるだろう」
「私は忠誠など捧げられるような者では……」
「それだけじゃない」
ディルの大きな手が、ウェンディの頬を包むように触れた。
真っ直ぐに見つめ合う……二人の瞳には互いの姿が映っている。
「君を全てから守る――君が誰かに悪く言われることを許しはしない」
「ディル様……」
コツンと互いの額が合わさった。
「――愛している……君を」
目の前の人を救うのだと、人を癒やし生きてきたウェンディ。
家族と領民たちを優先し、戦いの中で生きてきたディル。
――二人の生き方は違うようでとてもよく似ている。
この日ウェンディは、口づけとは柔らかくて温かいものだと知った。
そしてとてもドキドキするものなのだとも……。
「ううん、ママと兄さま……なかよし」
その口づけはミッシェルの寝言で、ほんの一瞬触れあうだけで終わる。
慌てて離れたウェンディとディルは頬を赤らめ見つめ合い、そして笑った。
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