王都への家族旅行 3
――今夜の宿泊地は、観光で名高いペールの街だった。
ミッシェルやジェフ、レイはまだ小さいので早めに宿に入ることになった。
宿では部屋は二つ取られていた。
「申し訳ありません……。実は全員で泊まれる大きな部屋が手違いで……」
「そうか、まあ仕方ないな」
宿屋の受付を済ませたディルが、鍵を二つ持って戻ってきた。
「本当は家族全員で同じ部屋に泊まるつもりだったのだが……手違いがあったようだ」
「それは仕方ないですね」
「俺がジェフとレイ、ウェンディとルネッタ、ミッシェルでわかれる――」
「待ってください!」
ディルがそう言いながらウェンディに鍵を渡そうとしたそのとき、ルネッタが立ち上がった。
「実はジェフとレイと私で一緒の部屋に泊まろうと約束していて……」
「「そんな約束――してました」」
ジェフとレイは何か言おうとしたが、ルネッタの顔を見た途端、ニヤリと笑った。
「や、みっしぇる、ママといっしょ!」
「……ミッシェルは、仕方ないわね」
ミッシェルは絶対に離れない、とばかりにウェンディにしがみついた。
「――しかし、子どもだけでは」
「あら、お義姉様が来るまで、お兄様が遠征に行っている間、屋敷には料理長と私たちだけでしたわ」
「それは……すまなかった」
「謝ることではありません。でも、部屋割りは譲れないわ。それに隣の部屋ですし――私がそうそう敵に後れを取らないことは、お兄様も知っておられるはず」
「そこは心配していないが……」
ルネッタは魔法が使えない普通の少女のはずだ。
しかし、ディルがそんな彼女を心配していない様子にウェンディは首をかしげる。
そうこうしている間に、ルネッタはディルの手から鍵をスイッと奪い取った。
「まあ、隣の部屋だから異常があれば壁をぶち抜いて助けに行けば良いか……」
「あまり良くないですが非常事態であれば仕方ありませんね」
「二人とも――宿屋の壁をぶち抜いてはいけないわ。ベランダ伝いに来て」
戦場慣れしているウェンディとディルの考え方は少々物騒だ。
しかし、ルネッタの考え方も貴族令嬢のそれとは違うようだ。
――こうして部屋割りは決まった。
「ママ~おにいさま~なっかよし!!」
「ふふ、ミッシェル、任せたわ」
「うん!」
ルネッタが腹黒いような表情を浮かべて微笑むと、ミッシェルがご機嫌で両手を挙げた。
姉妹の仲の良さに微笑むウェンディ……。しかしこのあと、部屋を見たウェンディは唖然とする。
――そう、ウェンディたちの部屋には大きなベッドが一つしかなかったのだ。
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