王都への家族旅行 2
辺境伯領は王国の外れにあるため、王都までの距離は遠い。
聖女として遠征について行く機会が多く旅慣れしていたウェンディは七日で来たが、今回は子連れだから……十日はかかるだろう。
「ミッシェル、おトイレは大丈夫?」
「まだへいき~」
食事を食べ終わったウェンディはミッシェルに確認した。
しかし、長距離移動中の排泄において子どもの『まだ大丈夫』ほど信用できないものはない。
聞き方を間違った、と思いながらウェンディは立ち上がった。
「……ジェフとレイも出発前にトイレに行くわよ」
「「へいきだよ~」
「このあと、お手洗いがあるかわからないわ」
「「わかった……行っておく」」
「みっしぇるもいく!!」
ジェフとレイが行くとなれば話が違うらしい。
みんなと一緒にできるなら、ミッシェルにとってはなんだって遊びになってしまうようだ。
ウェンディは三人を連れてトイレへと行った。
* * *
食事場所にはディルとルネッタが残される。
兄妹が二人きりになるのは、実は久しぶりのことだ。
「……ルネッタ、胸元の薔薇はもしかすると、聖女の薔薇か?」
「そうよ、お義姉様にいただいたの」
「――まだ精霊は彼女を聖女と見なしている、ということか」
「そのようね……精霊は気まぐれだから」
ディルはため息をついた。
長い間、神殿は虚構と金で動いていた。
フェルディナント・ルードティアが神殿長に就任してからはそれも変わりつつあるが……。
「お義姉様より強い力を持つ聖女っているの?」
ルネッタの言葉は当然のものだっただろう。
ウェンディは何気なく魔法を使う。
洗濯、掃除、料理……しかし普通の人はそこまで魔法を使いこなすのは困難だ。
それに、いとも簡単に聖女の薔薇を生み出した。
聖女の薔薇は、一人の聖女が一生のうちにほんの数個だけ生み出すものだ。
しかし、話を聞く限りウェンディはかなりの数を生み出している。
「いない、それどころか歴代の聖女の中でもウェンディは類い希なる力を持つだろう――だから、神殿長はウェンディの嫁ぎ先に彼女を守る力を持つ我がバルミール家を選ばれたのか」
「……それもあるかもしれないわ。でも、私の知っている神殿長なら」
ルネッタは王太子の婚約者候補としてお茶会に出掛けたとき、神殿長に会ったことがある。
もちろん彼は水面下で物事を操るタイプではある。
しかし、それはあくまで神殿の威光を取り戻すため、そして人々の幸せのためなのだ。
「お兄様とお義姉様は運命の恋人――だから、結びつけた。そんな気もするのよね」
「ルネッタ……何をぼそぼそと」
「なんでもないわ!」
騒がしくジェフとレイが戻ってくる。
ウェンディもミッシェルを連れて戻ってきた。
だからこの話はここでもう終わりなのだろう。
ルネッタは今度機会があれば、ディルとウェンディの縁結びをした理由を神殿長に聞いてみようと思った。
「ママとにいさま、いっしょ!」
一つ目の街で食事を終えて、辺境伯一家は再び王都へと向かう。
楽しい旅はまだもう少し続くのだ。
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