王都への家族旅行 1
その日は晴天だった。
ミッシェルは「おしろ~おうじさま……るねったかわいい!」とご機嫌だ。
家族たちは思った――ミッシェルが可愛いと。
水色の細いストライプのワンピースにフリルいっぱいのエプロンを身に着けたミッシェルは、いち早く馬車に駆け寄った。
しかし、段差が高いため自分では登れず頬を膨らませている。
ディルが、ヒョイッと抱き上げるとミッシェルはキャッキャとご機嫌な笑い声を上げた。
続いてルネッタがディルの手を借りて馬車に乗り込む。それだけのことなのに、見習いたいほど所作が美しい。彼女が着ているのはミッシェルと同じ水色のドレスだ。十二歳なのでまだ丈は短めだが、彼女が着ると高貴な印象だ。
もちろんウェンディからもらった白薔薇はドレスの胸元をリボンとともに彩っている。
ジェフとレイは仲良く馬車に乗り込んだ。
最後にウェンディが馬車に近づく。ディルが悪戯っぽく笑って、彼女を抱き上げて馬車に乗せる。
抱き上げられた瞬間、家族とお揃いの色合いのドレスのスカートがフワリと膨らんだ。
「もう……私もルネッタのように」
「――緊張していただろう?」
「……ディル様」
実際にウェンディはひどく緊張していた。
王都には知り合いも多い。彼女のことを悪く言う人も多いのだ。
もし自分がいることでルネッタの足を引っ張ってしまったら……と気が気ではなかった。
――そんなこと、ディルにはお見通しだったようだ。
「俺も王都に行くのは久しぶりだ」
「緊張していますか?」
ウェンディは微笑んで馬車の上から手を差し伸べた。
ディルは笑うとその手を掴み、しかしほぼ自力で軽やかに馬車に乗り込んでくる。
彼の姿は辺境伯騎士団の正装姿だ。
辺境伯騎士団の制服は普段は黒だが、正装だけは白で青いマントが着いている。
容姿端麗なディルが着ると、まるで絵本の中から抜け出てきたようだ。
「素敵です」
「はは……君こそ美しい」
「お世辞でも嬉しいです」
ウェンディの言葉に家族全員が顔を見合わせた。
彼女には自分が美しいという自覚がないようだ。
しかし、それはいつも誰かのために己のみを顧みず、おしゃれもせず、ときに血まみれになっていたせいであって、着飾れば彼女より美しい女性などそうそういないだろう。
「「お兄様ずるい。ウェンディさん、今からでも僕たちと結婚しようよ」」
ジェフとレイがウェンディに抱きつきながらそう言った。
「申し訳ないが、ウェンディだけは譲れない」
珍しいことにディルの言葉が大人げない。
しかし、ジェフとレイは厳格な当主でありながら、普段はなんでも弟妹たちに譲ってしまう兄のそんな姿が面白かったようだ。
ますますウェンディに強く抱きついた。
そんな弟たちの様子を見つめながら、ディルは小さくため息をつくとウェンディの前の席に座った。
ルネッタはすでに外を眺め、何か考え事をしているようだ。
「家族旅行ですね」
「――ああ、そういえば長らくしていなかったな」
「楽しみましょう?」
「それはいい」
微笑んだウェンディに笑いかけたディル。
もちろん王都に着いてからは、笑ってばかりもいられないだろう。
しかし家族たちは和やかな雰囲気で王都までの旅を楽しむことにしたのだった。
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