白い薔薇の花とお茶会
「これは……?」
ルネッタは虚空から突如現れた白い薔薇の花を手にして首をかしげた。
白い薔薇は白銀の光を帯びて、キラキラと輝いている。
「――聖女からの祝福の証である、白い薔薇の花」
「聖女の証?」
「聖女の祈りが精霊に届く度、聖女の元には白い薔薇の花が現れるのです……でも、私はもう聖女ではなくなったはずなのに、不思議なこともあるものですね」
「聞いたことはあったけれど……これがそうなのね。とても貴重なものじゃないの」
白い薔薇の花は枯れることがない。そして聖女の髪を美しく彩る。
ウェンディが生み出した薔薇の花の数は、歴代の聖女の中で大聖女に次いで多い。
しかし彼女がそれを身につけることはほとんどなかった。
戦場に向かう中、頭に白い薔薇などつけていたら邪魔な上に目立ちすぎて格好の餌食になってしまう。ウェンディには不要なものだった。
「……全部売ってしまったので、久しぶりに手に入れました」
「は……聖女の薔薇を売った!?」
聖女の生み出す白い薔薇は価値が高い。
枯れることがない美しい薔薇であるということ以外に、聖女からの祝福を受けたという証明にもなるのだ。だが、普通売りに出されることはない。
「孤児院に寄付するためにお金が欲しかったので――だって、お金ってどこから出たかではなくて、どう使うかが大事なものでしょう?」
ウェンディだけでなく、聖女にとってお金とは汚れたものである。
しかし、そのお金で誰かを救えるのならウェンディがためらうことなどない。
「だから、聖女らしくないって言われてしまうのですよね」
「そんなこと……ないと思うわ」
ウェンディ自身が贅沢をする性格ではないことを、ルネッタはもう知っている。
与えられれば素直に喜ぶが、彼女自身が進んで何かを買うことはない。
「ありがとうございます。この薔薇はルネッタに差し上げます――あなたなら私が持っているよりも上手く使ってくれそうですから」
「……ええ、必ず役立ててみせるわ。そして」
ルネッタは思う――聖女たちは美しく着飾って、祭りや儀式で祈りを捧げる……そして現実を見ることはない。しかしウェンディは現実を見据え、自分ができることを探し続けてきた。
歴代の王妃たちはそのほとんどが美しく着飾って、国王の隣で微笑んできた……だが民の苦しみを顧みることはなかった。だからルネッタは……。
「私はそうはならないわ」
「……ルネッタ?」
白い薔薇の花を手にしたルネッタは、その年に見合わない大人びた笑みを浮かべた。
ウェンディは思う――彼女は王妃になるために生まれてきたのだと。
それは単なるウェンディの想像なのか……それとも聖女として受けた啓示なのか。
この段階では誰にもそのことを判断することはできない。
「ふふ、この薔薇を飾ってみんなでお揃いの服を着る……お茶会が楽しみになってきたわ」
その言葉の直後、ルネッタは十二歳の少女らしく笑う。
「それでこそルネッタです」
強い決意はルネッタのものだが、家族とお揃いの服を着て王城に行くという少女らしい喜びもまた彼女自身のものなのだ。
ウェンディもいつもの彼女らしく、朗らかに笑った。
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