お揃いの服
あれから二週間が経過した。
ウェンディはクローゼットルームでため息をついた。
辺境伯領は穀倉地帯であり、さらには魔鉱石が産出されること、魔獣から採れる素材はとても高価なことなどから裕福だ。
大自然に囲まれて王都のようなおしゃれなお店こそないが、人々は助け合い、幸せそうに暮らしている。
自給自足に近いこの領では、お金がたくさんあっても武器くらいにしか使うことがないのかもしれない。
ディルはお金を持て余しているに違いない。
「だからって……」
広いクローゼットルームは四人の弟妹とウェンディの服で埋め尽くされていた。
それらはお揃いであったり、色違いであったり、まったく違うイメージだが飾りがお揃いであったりこだわりを感じる。
「買い過ぎよ」
それらは全てとても質が良く、急遽作ったとは思えない。
以前から準備していたのだろうか――そんなはずないと思いつつ、ディルの家族愛を知るにつけ、彼ならあり得るとウェンディは思ってしまうのだった。
「それにしても、どうしてディル様の分はないの……?」
ディルは自分の服装には無頓着なのかもしれない。
そもそも、制服というのは便利でしかも騎士服には普段用と正装がある。
どこに行くにも騎士服を着ていけば良いから、ディルの分は不要だというのもわからないではない。
いや、それより自分自身のことはすぐに後回しにしてしまうのだ。
お肉もお菓子も何もかも、いつだって家族を優先する――それがディルという人なのだ。
「――やっぱり、お義姉様もそう思う?」
「ルネッタ……」
正式に結婚が決まったため、ルネッタはウェンディのことを堂々とお義姉様と呼び始めた。
双子は気恥ずかしいのかあいかわらず「ウェンディさん」と呼んでくるのだが……照れて葛藤している姿は何とも可愛らしい。
ミッシェルはもちろん今もウェンディのことを「ママ!」と呼ぶ。
「ミッシェルとお揃いの服を着たお兄様が見たいの」
「――っ!?」
ウェンディは淡い紫色の瞳を見開いた。
「どう思う……?」
「見たい……それは見てみたいです!」
お揃いの服を着たミッシェルを抱き上げるディルはきっと幸せそうに笑うことだろう。
想像するだけで幸せな気分になる。
「――それに、お義姉様とのお揃いも実現したいわ」
「何か言った……?」
「いいえ、こちらの計画よ」
ルネッタはぼそっと呟いたあと、にっこりと笑った。
もちろん、ここまでお揃いの服が揃っているのだから、ディルの服だけ作ればルネッタともお揃いになるのだ。そこまで彼女の計画なのである。
「予算を使う許可をいただける?」
「ええ、もちろん構わないわ」
この家に来てからウェンディには潤沢な予算が与えられている。
孤児院か神殿に寄付しようかと思ったが、辺境伯であるディルがしっかりと寄付や援助をしていたので追加でする必要がなかった。
このため、お菓子を少し買っただけで、ウェンディはまだ予算をほとんど使っていない。
「私に任せてくださるかしら?」
「ええ、私は紳士服には疎いから助かるわ」
「さっそく、ミランダ夫人と相談してくるわ!」
ルネッタはご機嫌で去って行った。
ウェンディは珍しく浮かれているルネッタを見送り、ジェフとレイ、そしてミッシェルが今日も泥だらけにした服を洗うことにしたのだった。
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