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【8月6日電子書籍配信】辺境伯一家の幸せ家族計画【コミカライズ準備中】  作者: 氷雨そら


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ルネッタのドレスとミッシェルの歌


「まあ……少々格式にこだわりすぎているようですね」


 ミランダ夫人はドレスの見本を確認しながらため息をついた。


「――ドレスは格式が大切だと以前仰っていたので」

「ええ、言いました。けれど、聖女としてのドレスと辺境伯夫人としてのドレスでは意味合いが違います」

「そういうものなのですね」

「――ドレスとはなんだと思いますか?」

「……」


 ウェンディはしばらく黙り込み、聖女だったときにミランダ夫人から習ったことを思い出した。


「ドレスとはその人そのものであると」

「そうですね。よく覚えていらっしゃる……では、それはなぜですか?」

「……第一印象でしょうか」


 第一印象を覆すのは難しい。

 どんなに行いが良いといっても、たいていの場合は人は第一印象に左右される。


「よろしい……では、ルネッタ様」

「は、はい!」

「あなたは王太子殿下の婚約者の座を目指していると聞き及んでいます。どのドレスを選びますか?」

「……これです」


 ルネッタが選んだのは、少し大人びた薔薇色のドレスだった。

 金色の髪に青い瞳、そして人形のように整った顔をしたルネッタによく似合うことだろう。


「百点満点中五十点ですわね」

「理由を教えていただけますか?」

「相手を知らなければ――王太子殿下は自由を好むお方ですから」

「自由を好む……?」


 王太子ほど窮屈な立ち位置もないだろう。

 ミランダ夫人の言葉にウェンディとルネッタは首をかしげた。


「――自分が持てないものを求めるものなのですよ。ですから正解はこちらです」


 ミランダ夫人が差し出したのは、足首が出る長さの最新のドレスだった。

 淡い水色のドレスは、装飾品がなく、だからこそ波打つような美しいラインが際立つ。


「これは古代聖女の着ていた祭事服をイメージしたものですか?」

「そうです。ですからあなたもこれを着なさい」

「……聖女ではないのに?」

「聖女であったことは、あなたの地位を確固たるものとする武器です。使わなくてどうします」


 ドレスは一ヶ月後に完成する。

 もちろんそのときはお茶会直前なのだが……。

 突如始まった二人の特訓の日々は、まだまだ続くのだ。


「おいち!」

「あ、ミッシェルずるい!」

「僕たちも食べたい!」

「あい!」


 お菓子を食べていたミッシェルは、双子にも機嫌良く差し出した。

 ジェフとレイが一緒にテーブルを囲み、お菓子をバクバク食べ始めた。


「あい、どーじょ!」

「これは美味しいな!!」

「あい!!」

「止まらない!!」


 ミッシェルはどんどん双子にお菓子を差し出し、双子もバクバクそれを食べる。

 このままでは、王都から届いたお菓子はすぐになくなってしまうことだろう。


「ほら、背中が曲がっておりますよ!」

「は、はい!」

「ルネッタ様は膝を曲げすぎですわ!」

「はい!」


 ウェンディとルネッタの特訓は続く。

 ミッシェルはルネッタを見つめながら鼻歌を歌い始めた。


「おうじさま、どろどろ~。ルネッタなかよし~」

「「ん? ミッシェル、泥遊びしたいの?」」

「どろどろ好き!! あそぶ!!」


 三人は手を繋いで庭へと駆け出した。

 ミッシェルの歌は美しい礼を特訓されるウェンディとルネッタ、そしてミランダ夫人に聞こえることはなかったし、まだ二歳のミッシェルはもちろんすぐに忘れてしまう。


 だからミッシェルの歌の内容は、実際に起こるまで誰も知ることはない……起きてからのお楽しみの未来なのだ。

最後までご覧いただきありがとうございます。『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。

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