素直な気持ちで
「おかえりー」
「かーたん」
キリイが家に帰ると、店の片付けをしていたタカナシが声をかけてきて、カナマルが足元に飛び付いてくる。
キリイはカナマルを抱き上げると、
「タカナシ、頼みがある!」
いきなりタカナシに頭を下げる。
「私は、また冒険に出たい」
いきなりの宣言に、タカナシは面食らったような顔をする。
「こんなこと、言うべきでないのはわかっている
でも私はやはり、家にいるよりも、野山を駆け回ってダンジョンに潜り、魔物と戦うのが性に合っているんだ」
キリイはそこで一度息を吐く。
「勿論、家事も、店の手伝いも努力を続ける
だから頼む。冒険に行かせてくれ!」
しばらく、沈黙が降りる。
キリイは不安そうに眉を下げるが、
「漸く、自分のしたいこと言ってくれたな」
顔を上げたタカナシは笑っていた。
「俺は、やりたいことやって、輝いてるお前を愛してる
だから、お前からそう言ってくれるのを待ってた」
そこでタカナシはにやっと笑って、
「知ってるだろ?俺は狡い奴だ」
待つことも、愛情ゆえの余裕なのだろう。やはりタカナシが羨ましい。
「っていうか、なんであたしたちはついてきてるわけ?」
「んー、なりゆき?」
セキとユサが言う。
ギルドに寄ってから、マスタたちは先程からなんとなくキリイの後ろで成り行きをただ見守っていた。
しかし、正直今のキリイとタカナシの言葉にマスタは感銘を受けた。
マスタも、素直になることにする。
話が一段落した家族に、マスタはずんずん近づいていく。皆何事かとマスタに注目した。
マスタは一言、
「カナマルくんの頭を撫でさせてくれ」
マスタは公園のベンチでぼーっとしていた。別に甲羅干しをしているわけではなく、待ち合わせである。
セキとユサがやってくる。後ろからキリイもついてきた。
キリイはあれから何度かマスタたちのパーティで一緒に仕事をしている。彼女もなかなかのベテランなので、冒険が更に楽になった。
しかし、セキは深刻な顔で近づいてくると、
「あんた、最近また噂されてるわよ」
「今更だな」
マスタは余裕で応える。
「俺の評判なんて最初から悪いからな
なんの噂が増えたか知らないが···」
「『色惚け拷問士が遂に人妻にも手を出したらしい』って」
「不名誉だ」
折角なので、11/22(良い夫婦の日)に投稿すれば良かった。(11/23現在)