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呪いの矢

 マスタ、セキ、ユサの三人は、街の外にある草原に来ていた。

 今日の依頼は、ダンジョンから外に出てきてしまった魔物の討伐である。

 ダンジョン自体は中にある核を取り出せば中にいる魔物ごと消滅するのだが、一度外に出てしまった魔物はそうはいかない。こうしていちいち討伐する必要があるのだ。

 危険な仕事ではあるが、マスタはあまり心配していなかった。

 マスタもある程度場数は踏んでいるし、何より少々の相手ならマスタが気がつく前にユサが殴り倒す。

 今回の標的は何やら大柄な魔物で、山菜採りに来た老人が襲われたらしい。老人は自慢の脚力を駆使して無傷で帰還した挙げ句、逃げる途中でちゃっかりと山菜も採ってきたらしいので、むしろ魔物よりもその老人についてどこの誰なのか詳しく聞きたいのだが、残念ながらギルドはそこまで教えてくれなかった。

 と、マスタが今回の依頼について思考を巡らせていると、セキがふと草むらの向こうに目をやり、

「あれ?キリイ」

 見ると、籠を背負ったキリイがしゃがみこんでいた。籠の中には薬草や木の枝。更に猪や鹿まで詰め込まれている。

「なにしてんの?」

「店で扱う素材を採りに来た」

 キリイが立ち上がりながら言う。

「力持ちだね」

 ユサがのほほんと言うが、

「私は、これしか役に立てないからな」

 キリイは自嘲気味に言う。

 その様子にマスタは首を傾げる。

 マスタから見て、キリイとタカナシは理想の夫婦に思える。

 美しい妻に朗らかな夫に可愛い息子。

 マスタからすれば羨ましい限りだが、それでもやはり悩みというのはあるのだろうか。

 気にはなるが、興味本位で他人の家庭に口を出すのはどうかと思い、マスタは言葉を飲み込む。

 そのときがさがさがさっと木々が揺れた。

 そこから大柄な影が飛び出してくる。

「出た!」

 セキがさっと身構えた。

 現れたのは二足歩行の獅子のような魔物だった。体長はマスタよりもでかく、爪は長い刃物のようだ。

 魔物が一番近くにいたユサに襲いかかる。

火球(ファイアボール)!」

 横からセキの放った火球が獅子を直撃した。

 が、全く効いた様子がない。なかなか魔法耐性があるようだ。

 獅子の気が逸れた隙にユサが蹴りをいれる。

 が、獅子はその足を掴むと、そのままユサを放り投げた。

「わっ」

 飛ばされたユサをマスタは咄嗟に受け止める。

「ありがと、マスタ」

 しかし、マスタがユサを支えている間に、獅子は目標をセキに移す。

 近づいてくる獅子に、セキは呪文を唱えながらじりじりと後退りした。

「セキ!」

 マスタが止める間もなく、ユサがマスタの腕から飛び起きて走り出す。

 その傍らを、何かが風を切って通りすぎた。

 獅子の腕に一本の矢が突き刺さる。

 怯んだ隙にセキは獅子から走って距離をとった。

 マスタは矢の飛んできた方向を見る。

 そこには、背中に籠を背負ったままのキリイが佇んでいた。ちなみに、猪と鹿も入ったままである。

 その手にあるのは、使い込まれたボウガン。

「護身用に持ち歩いていたが、まさか、本当に使うことになるとはな···」

 結構でかいそのボウガン、どこに持ってたんだ、という無粋な質問をマスタはしないことにした。

 それよりも今は目の前の獅子に集中していなければならない。

 今の矢だけではとても倒すまでは―。

 と、思っていたら、獅子の動きががくんと止まる。

「当たると麻痺するように矢に呪いをかけておいた」

 ボウガンを構えたままキリイが言う。さすが呪術士。

「今のうちにたたみかけろ!」

「わかった!」

「はーい」

 マスタが言うと、呪文詠唱の声が重なる。

魔法上昇(マジックアップ)!」

大地槍(アーススピア)!!」

大爆発ビッグエクスプロージョン!!!」

 ユサの増幅魔法を合図に、大地が槍状に噴き出し、獅子の周囲が爆発する。

 それらを一気に食らった獅子は力尽きて倒れ伏した。

「やったね」

「ああ、あとは、倒したという証拠を持ち帰らないとな」

「このまま街まで担いでいくんだね!」

「さすがにそこまではしない」

 笑顔で言うユサの言葉をマスタは却下する。

 マスタならなんとかこいつの死体を持ち帰るのは可能かもしれないが、冒険者が全員そんなことをしていたらギルドが魔物の死体だらけになって大変迷惑だろう。

 せいぜい毛皮か牙を持ち帰るくらいで良い。

「魔法素材になる部分はもらって良い?」

「構わん」

 マスタが許可すると、セキは早速倒れた獅子に近づきながら、

「キリイも、店で売る用に少しもらったら?」

 キリイの方を振り向いて言う。

 しかしキリイはそれには答えないまま、じっとボウガンを見つめていた。

 セキが更に声をかけるが、聴こえていないようだ。

 ただじっと何かを考えている。

 その表情は、初めて会ったときよりも輝いて見えた。


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