キリイの事情
魔道士の資質というのは、幼い頃に占い師によって鑑定される。
だからキリイは、小さい頃から呪術士と呼ばれていた。
呪術士というだけで他人は怖がるが、キリイはあまり気にしてはいなかった。
少なくとも、夫と息子はキリイを怖がったりしない。友人であるセキの父親もそうだった。
キリイは周囲の人間に恵まれていたと思う。
若い頃、キリイはタカナシとセキの父親とでパーティを組んでいた。
セキの父親がセキの母親と結婚して冒険者を引退し、タカナシが店を開いてからも、キリイは一人でも冒険に出掛けた。
でも三年前、タカナシと結婚して、冒険はきっぱりやめた。ギルドからの仕事をしなくても、魔法道具屋で親子三人十分暮らしていける。
今はよき妻、よき母親でいたかった。いや、いなければならないと思っていた。
しかしそれは、キリイには難しかった。
料理は出来ない。洗濯はやり方が覚えられない。掃除は壊滅的。
ならばと店を手伝おうにも、不器用なキリイはあまり役に立てなかった。
家事も駄目。店の手伝いも駄目。
たまに店で扱う薬草を取りに行くくらいしか役に立てない。
それでも生活がなんとかなっているのは、器用で立ち回りの上手いタカナシが夫だからだ。
タカナシはすごい。家事全般こなすし、店を切り盛りしながらもカナマルに寂しい思いはけしてさせない。無論キリイにもだ。
こんな完璧な夫を見ていると、時々、いや、頻繁に思う。
自分は必要ないのではないか。世の中全ての事象はタカナシさえ存在していれば賄える(言い過ぎ)。
果たして、キリイの存在意義とは何だろう。
何度も考えてはいるのだが、未だに答えは出ないのだ。