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ガンギマリズム  作者: 九空のべる(旧:ジョブfree)
第一章「便利屋のやべーやつ」
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6-2.漆紀の憂鬱と父の心配

漆紀は脇腹に一枚、腕に一枚湿布を張って、ついでにハンドソープで手を念入りに洗ってから冷蔵庫の前にまで来る。冷蔵庫を大きく開き、食える物を探す。

「父さん、鹿肉あるー? 缶詰どこー?」

「鹿缶は真紀が食べたぞ。鯵缶ならあるが」

「鯨はないの?」

「無茶言うな、鯨缶は結構高いんだぞ。買い出しに行っておきながらなんで」

「買った物は全部夜露死苦隊に取られたし……あ! 桃缶あるじゃないか! これ貰う」

「おいおい、桃缶は真紀のだし、あいつ怒るぞ? 寝起きに蹴飛ばされても知らんぞ。と言うより夕食が果物って……」

そうは言っているが、もう手は止まらない。漆紀は速やかに缶切りで缶を開けて、食器棚から皿を取り出して、そこに桃を全て乗せる。

「久しぶりだからなー、うわ美味そう」

桃の切り身の一つをフォークで突き刺し、そのまま半分齧って甘味を口に広げる漆紀。宗一は落ち着いた様子で一杯の熱い煎茶を口に含んで苦みを広げた。

「率直に言って、明日から地獄だぞ? 暴走族の連中はこの辺で活動しているし、さっき言った通り、縄張り争いで普段よりピリついてる。それにお前、どうやって逃げたんだ?」

「リーダーとのタイマンで出鼻をくじいて完封して」

「はぁ……だめだ。お前、明日から追われるぞ。仕事中だろうと容赦なく襲われるかもしれない。なんて事だ……」

「だったら新学期までは買い物と食事以外では外に出ないで顔を見せなきゃいい話だろ」

漆紀は毅然とそう言うが、宗一はどうにも案じていた。

漆紀は決して貧弱ではない。体格はそれなりの高校生であるが、別段突出して喧嘩最強といった出で立ちではない。しかしカツアゲされるような弱々しい面構えではない。喧嘩の立ち回りは素人で、多人数相手に無双出来る様な剛の者ではない。

 しかし手段は問わないタイプであり、工夫は出来る人間だ。

 万が一喧嘩に巻き込まれれば、無茶苦茶かつ吹っ切れた手段に出られると言う、世間で言う〝やべーやつ〟なのだ。

「俺は怯えないぞ。父さんは色々背負って心配になってるのかもしんないけど、俺も俺で引けない所があるからな」

「引けない……か。お前は別に何も背負う事はないぞ。陽夜見の実家の家名やらなんやら面倒なのは全部父さんに任せろ。お前の青春は自由だ。ただ一つ、死なない事。これだけは守れよ?」

 お互いに決して少なくない含みと意味を持った言葉を交わして、漆紀は桃を食べ終えるなりそそくさと食器を洗って、拭き、食器棚に収納する。

「疲れた。俺もう部屋に戻るから、父さんもあんまり夜遅くなるなよ」

 そう言って漆紀は階段を上がって自室に入る。

「ふぅ……風呂はいいや、疲れた」

たった一戦かつ短時間であったが、夜露死苦隊に絡まれた時の疲弊が自室で一気に流れ出して、全身の筋肉が緩む。

(自分の人生楽しくやってるあいつらゾクの方がよっぽど人間味があるってのに、今日の俺と来たら……あんな絡まれただけで焚きつけられた気分になってやり返すとか……俺らしくないな。もっとペーペーの屑みたいな、俗物的になれりゃ良いのに)

 疲れた上に気分が曇ったままの漆紀は、それを忘れるべくベッドに身を投げ、そのまま脳内で楽しい事を想像する。

(ウチの便利屋が売れて大手便利屋とかならなぁ……全国チェーンでシェア率1位とかだったら父さんももっと胸張って生きれるってのに。事業拡大なんて更に多忙だしな……真紀ももうちょっと可愛げがあればモテるんじゃないか? 高校生活の目的ってか目標なんてないしな……好きな子とかいねーし……あー……平和になんねぇかなぁー)

 全国各所で人々を困らせて犯罪件数を伸ばし続ける反社会勢力と、様々な企業・機関とも繋がりを持ち学生運動を行う組織・学徒会、この二つの勢力を抑え込むべく警察と共に戦う日本政府、この三大勢力が日本でひしめき合い時には目立った戦闘や事件がある中で、人々はどうにか生き抜いている。

(ストレス社会過ぎるだろ。ただのブラック企業だけじゃなく、実はフロント企業でしたとか、実は会社に見せかけた詐欺グループでしたとか、もう俺が就職する歳には警察の格好したヤクザとか出て来るんじゃないか?)

 楽しい想像の筈が、危険な未来予想図になって行った為、もう考える事をやめた。

(歯磨きしてないな……いいや。もう寝よう、疲れた)

 そのまま漆紀は沈むように眠った。

その日は珍しく、爆音で走る暴走族がいなかった様で、快眠出来たと言う。

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