5-2.反撃!漆紀の猛攻
副長は歪んだ笑みを浮かべつつも罵声を上げながら漆紀の腹へとストレートをぶち当てた。
流石に理不尽な暴力にキレたのか、漆紀は向かい合って副長に殴り掛かった。
反撃するとは思っておらず、副長は拳を鼻っ面に受けて身を少し後ろにのけ反って怯む。
「っ痛ぇなぁ……なんだこの野郎、やる気か? 死ぬぞコラァァアアーッ!!」
「うるせぇよ。いきなり難癖付けて、話が無事に終わったと思ったらいきなり殴って来やがって……いい加減にしろ! 二度とバイクに乗れねえようにするぞ!!」
お互い睨み合っている。周りの舎弟達は抑えようと一歩出るが、副長が制止させる。
「こんなゴミクズにオレが負けるわけねぇだろお前ら。オレが地べたに倒れたら、お前ら全員でコイツ抑え込んで車いす生活にしてやれ。良いな?」
サラッとえげつない事を言う副長だが、このまま理不尽に殴られるのは漆紀としても許せない所で、途轍もない怒りに満ち溢れていた。
「俺がゴミクズかよ。じゃあお前らゾクはノミだなノミ! 皆に迷惑かけてる害虫がよ!」
その啖呵を皮切りに、漆紀の方から動いた。
「うぉああああああああああああああああああああああああああ!」
そのまま拳を構えて副長に突っ込む、と思わせて、途中で瞬時に漆紀は背を低く屈む。そのまま怒りに任せて顔面を粉砕しにくると読んでいた副長は困惑するも、すでに反応が間に合わず、その奇を衒った戦術に反応出来なかった。
漆紀は怒りに任せると同時にある種の覚悟がキマってしまい、容赦がなかった。そのまま足を横に伸ばして、初歩的ながら副長の足に引っ掻ける事で前のめりに転ばした。
顔面を地べたに打ち付けぬようにと反射神経によって地面に両手を突き出していたが、その瞬間に漆紀は立ち上がりざまにジャンプして、転んだ副長の背を両足で踏みつける。
「うぐッ!」
副長の背には漆紀の全体重がぶつけられ、そのまま地面に叩き付けられる。
「くたばれ! くたばれ! 散々殴りやがってゴミクズが!」
何度も何度も、トランポリンの上で跳ねるかのように全体重を乗せて副長の背中を踏みつける。止めれば立ち上がり、反撃されてしまうため、致し方ない。
流石に副長の命が危ういと思ったのか、周囲の舎弟が一斉に漆紀に駆け寄って拳を振るおうとするが。
「近寄って来るな、今度は頭を踏みつけるぞ! マジで死ぬぞ! 良いのか!?」
漆紀の全体重を乗せて副長の頭を、より正確に言えば後頭部を両足で踏みつけると言っている。地面はマットではなく、コンクリートなのだ。ただでさえ背中から何度も踏みつけられているのに、頭など踏みつけられれば間違いなく重傷。下手をすれば死ぬ。
「言いがかりで憂さ晴らしに殴ったのはお前ら暴走族だぞ! 人に迷惑しか掛けないゴミクズの癖にさっき俺になんって言った? ゴミクズだぁ? 車いす生活だぁ? てめぇらのリーダーを車いす生活にさせるぞクズ共がッ!」
この暴走族に負けず劣らない外道な台詞を吐いているという自覚はあるものの、もはや自分の赴くままにやり切るしかないと漆紀は両足で踏まずに、左脚を副長の背に乗せたまま、右足を副長の首根っこに乗せた。
「片足でもコイツの頭を踏みまくれば殺れんだぞ!」
ブチ切れた漆紀は普段絶対にしないであろう言動と行動をしてみせる。これは決して漆紀がサイコパスだからとかではない。
誰も助けが無く、警察に通報出来ない状態で大人数の暴走族に取り囲まれている。こんな状態ではやる事は一つ。
ふっ切れて、どこまでも容赦のない事をやって相手を封殺する他ない。
「とっとと道開けて俺を自由にしろ! もう付き纏ってくんじゃねぇ! わかったなゴミ共!」
そう言ったあと、漆紀はしゃがみ込んで副長の耳元でも大声で「わかったなゴミクズ」と叫ぶと、副長の顔面を右足で強く蹴り飛ばした。
「じゃあ、二度と俺に関わるなよゴミども! 道開けろって言ってんだよとっとと囲いを止めろよリーダー殺るぞ!」
そう捨て台詞を吐いて、漆紀は全力で走り去った。未だに後方から暴走族どもの怒りや悲痛な声が響いて来るが、そんなものなど聞き流せる程の興奮と緊張が未だに漆紀から離れなかった。
「どうしよう……やっちまった、やっちゃった……」
そうは言っているが、漆紀の口元は僅かに緩んでいた。