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47.激戦のその後

萩原組屋敷で出来る事を全て終えて、漆紀は屋敷を出るなり霧を起こしたまま元来た道を歩いて戻る。

屋敷内で斬り殺したヤクザ達全員の体に村雨を突き刺し、血を十分に吸い尽くした。ヤクザ達の死体は血を失ってミイラの様に無様な死体に変わった。

吸収した血液量は漆紀の体重を越える量であり、夜露死苦隊と萩原組の残党が漆紀に報復してきても問題なく体を治せるようになった。

瞬時に傷を治し、その傷ついたまま襲撃者を斬り殺す事も可能なほどの血液量を得たのだ。もう漆紀に不安な要素はなくなった。

(もし屋敷の異常に気付いて出払ってるヤクザが駆け付けても、ヤクザが警察に泣きつく事はないはずだ。全てなかった事にして、平然と組を続けるか……人が足らなくて崩壊するかだ)

漆紀は頭の中でそう予想を付けた。反社会勢力は存在そのものが警察に対し後ろめたいし敵対勢力なので、それが警察に泣きついたところで有る罪・無い罪全部バレて強制逮捕一直線である。

いくら死人が出ようが、反社会勢力が警察に泣きつき事件化するのは組織としては自殺行為なのだ。

そうこう考えて歩いていると、車が見えた。漆紀には慣れ親しんだ車である。

便利屋タツガミ、車体にそう書かれている自家用車であった。

宗一は息子の姿が見えるとフロントガラス越しに少しだけ頬を緩めて見せた。漆紀が後部座席のドアを開けて車内に入ると、漆紀がすかさず言った。

「ただいま。全員斬った」

「ああ、わかってる。殺したよな……わかってる、悪いな」

「俺がやったんだから、良いんだ。帰ろう……疲れた」

「疲れたよな、そうだよな。帰ろう」

宗一はそれ以上息子にかける言葉がなかった。エンジンをかけ、早々に車を発進した。

____________________


3月31日。この日、萩原組の事務所及び屋敷が漆紀によって襲撃された。各事務所と屋敷での死者は合計で320人近くに及び、萩原組組長の萩原蛇之助と萩原組若頭・木場も死亡した。

しかし漆紀に警察の捜査の手が伸びる事はなかった。それは警察が無能なのではなく、萩原組自体が警察に一切一報を入れていないからである。

表立った抗争ではなく静かに起こった襲撃なのも理由であるが、そもそも萩原組のような暴力団が警察に泣きつくわけがないのだ。

それゆえ事件化しないままであった。なにより、反社会勢力の自分達が警察に泣きついても一層不利になる上、組織そのものが警察によって完全に潰され復活の目途すら失うためである。



4月上旬、夜露死苦隊の溜まり場にて。

「どうすんだよ、リーダー! 高月総長も、小沢副長も死んだんだぞ! もう無理だって!」

「こんだけやられて負けられるかよ! この前は惨敗だが、もう一回全員で行けば」

「萩原組のおっさん達が死んだってよ! クソジジイどもがくたばったぜ、ようやく俺達の時代だ!!」

「喜んでる場合じゃねえだろ! 後ろ盾がボロボロになってんじゃねえか!!」

「どうすんだよぉぉおおおおおおッ!」

 夜露死苦隊は今後の行動について話し合っていたが、話は平行線で一向に決着が着かず、下手すれば内部で喧嘩が起こる可能性さえある。

 今や夜露死苦隊の構成員は抑えが一切効かなくなり、苛立ちやストレスから気弱そうな通行人に、敵対している暴走族まで、なりふり構わず喧嘩を吹っ掛け始めていた。もはやまとまりはなく、空中分解は近かった。


 一方、同じく4月上旬。萩原組の仮事務所にて。

「親父が殺られて、木場の叔父貴も殺られちまったんだ。もう組張れねぇよ。他にも大勢死にまくりだ……黒沢組に下るしか」

「オイてめぇ……今なんつった?」

「だってそうだろ! こんなんじゃシマの管理も出来ねぇ! 完全に崩壊してる!」

「クソが! 夜露死苦隊のクソガキどもが仕事しやがらねぇから……」

「どうすんだよ、もうどうにもなんねぇだろうが!」

萩原組も人員が多く死んだことで回らなくなっており、組織としては崩壊しつつあった。


4月上旬。漆紀は、夜露死苦隊と出会わなくなった。夜露死苦隊はめっきり姿を見なくなり、噂では崩壊したとの事。

夜露死苦隊崩壊の直接的原因は、後ろ盾であった萩原組の崩壊による連鎖崩壊であった。

漆紀が夜露死苦隊に与えていた損害もあったが、萩原組の崩壊が決定打となり夜露死苦隊も崩壊。

武蔵村山市周辺は今後数か月の間、暴走族と暴力団の居ない穏やかな時が続くだろう。しかし、他の勢力がこれに目をつけてシマを占領しに来るのは有り得るため、完全に平和になったとは言い難い。


話変わって、太田介助の事。

介助は萩原組若頭・木場に撃たれ搬送先の病院で死亡が確認された。当然、介助の両親はこの死を受けて酷く悲しみ嘆き、事件の真相を知りたがった。介助の両親はそもそも介助が誰に撃たれたかすら知らないのだ。

死亡したとなれば病院が警察に報告をするため、介助の件から警察は「何らかの反社が関わっているため、一気に波及させて逮捕か射殺してやろう」と意気込んだ。

介助が撃たれた場所付近の防犯カメラは夜露死苦隊によって破壊されていたものの、介助の近くで死亡していた女性に警察は目を付けた。

情報を確認すると、女性の配偶者を名乗る者が既に情報提供をしていた。車に搭載していたドライブレコーダーに介助が撃たれる様子と、助手席から出た女性が萩原組若頭・木場に頭部を撃たれる場面が確かに録画されていた。

この事から、警察は犯人が萩原組若頭・木場であると断定し、萩原組事務所へ捜査に入るが、既に事務所はもぬけの殻であった。

つまり、萩原組は警察に証拠を掴まれ一斉逮捕と射殺に踏み切られる前に仲間の死体を処理して逃げたのだ。処理した死体の中には、頭を斬り割られた木場も含まれていた。

そうして警察は木場の身柄に辿り着く事はなかった。

しかし、萩原組屋敷については違った。

警察が萩原組屋敷へ捜査に入ると、ただ死体だけが現場に残されていた。普通の死体ではなく、血が全部抜かれた死体である。死後時間が経って自然に血が抜けた死体ではなく、血が全部抜かれてから時間を経た死体である。

この変死体に警察は頭を悩ませるばかりであり、この変死体を生んだのが何者なのか掴む事はできなかった。

真相は、警察に知られなかった。けれど介助の両親は木場という恨むべき存在を得ることが出来た。何も知らないよりは、幾分かマシであろう。


介助のみならず七海など、漆紀が巻き込んでしまった人物については当人達のみでは語れない部分がある。

介助の家族については先述通りであるし、七海の両親については七海の呆れるほどの自由奔放さを認めているし、その結果がどうなろうとも自己責任と割り切っている。

介助と七海の家庭事情とは別に、漆紀の父・宗一はどうなのだろうか?

漆紀が自分の友達を巻き込んでまで夜露死苦隊にやり返すと聞いても、なぜ宗一は止めなかったのか。

宗一の意図は―――

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