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ガンギマリズム  作者: 九空のべる(旧:ジョブfree)
第三章「やべーやつ、暴走」
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43.萩原組事務所襲撃、急報と溢れる怒り

「おい、この道で合ってるんだな?」

「ああ。俺の友達を信じてくれ父さん。この手の情報については無駄に詳しいんだ」

『随分と信頼してくれてるんでござるなぁ』

宗一が車を運転し、漆紀は案内役となって萩原組の事務所へと向かっていた。

しかし実際に漆紀に萩原組の事務所の場所とその道順を教えているのは漆紀のクラスメイトの一人で、ICC(陰キャコミュニティー)のメンバーでもある人物だった。

「この手の物騒で中二病っぽい情報はお前が詳しいんだろ、平野」

漆紀が通話している相手の名は平野小太郎(ひらの こたろう)と言う。彼は自他ともに認める特定厨という存在であり、尚且つ自他ともに「キモオタ」であるとも認めている人物である。

『萩原組の事務所までの住所はナビで設定したのならもう大丈夫とは思うけど、拙者はそれよりも辰上氏自身に聞きたい事があるんでござる』

「なんだ」

『この前、夜露死苦隊のアジトの情報を求めてたけど……辰上氏、一体なにをしているでござるか?』

「奴らに因縁つけられてて、その解決をしてる。それ以上詳しく何か言う事は出来ない」

『ま、拙者からしたら情報だけあげるだけの簡単なお仕事ですしおすし。物騒に関わらず人助けできるのは嬉しいでござるな』

「ありがとな。助かるぜ」

「漆紀、もうすぐ奴らの事務所に着く。準備しろ」

父に準備を急かされ、漆紀は通話を終了した。

____________________


東京都東大和市、暴力団萩原組事務所にて。

この時、どういう巡りあわせか事務所内には萩原組若頭の木場だけが居た。他の手下達は外での仕事で出払っており、静かな事務所内で一人静かに心地よく過ごしていた。

というのも、木場はつい三十分前に事務所に戻って来たばかりであり、一仕事終えてきたのである。

(あの便利屋のガキ殺しただけじゃ足らねぇ。さっきもう一人逃がしちまったが、連れのメスガキも次で殺さねぇとなぁ。ま、責任はチンピラどもにおっ被せりゃ良いだけだ。殺し放題ってのは本当に最高だぜ)

一仕事とは、便利屋タツガミへの報復行動である。

木場は辰上漆紀の存在に業を煮やしていた。青臭く粋がるガキの一人や二人簡単に殺せるはずが、夜露死苦隊を使っての処理が上手くいかなかった。

漆紀は簡単に死なず、あろうことか夜露死苦隊は便利屋の息子一人に執着したせいで滅亡不可避の状況に追い込まれている。

木場としては腹立たしい事この上なく、夜露死苦隊の無能さだけでなく漆紀とその連れに対しても並々ならぬ殺意を抱いていた。

ゆえに木場は漆紀の頭を撃っても飽き足らず、その連れであった太田介助と下田七海の殺害も試みたのだ。結果を言えば、木場は介助を撃てたが七海までは仕留められなかった。

介助の死亡確認までは出来ておらず、木場としては不完全燃焼といった心境である。

そんな時。間の抜けたインターホンの音が唐突に事務所内に響いた。

「宅配でーす」

「あ?」

(注文なんてあったか?)

配達物が来たようだが、配達物の注文に身に覚えのない木場は疑問に思いながらも事務所玄関の扉を開けて出迎えるが。

「オラァッ!」

 木場は不意打ちかつ唐突な蹴りを腹に受けてそのまま後ろに一度倒れ込んでしまう。

「くたばれぇぇぇぇええええええッ!」

急襲してきた男は黒ずくめのレインコート姿であり、刀を持っていて倒れた木場に空かさず近寄って刀で木場を何度も殴打する。

「てめ、何しやがっ!?」

ついに反撃の余地のないほどに滅多打ちにされた木場は、最後に顔面を強く踏まれる。

「ったく、他の組員がいなくてラッキーだったぜ。おっと、扉の鍵を掛けとかないとな」

男はすぐさま背後の扉の鍵を閉めるなり、もう一度木場の顔面を踏んでから木場に刀を突き付ける。

よく見るとその男は、前髪をヘアゴムとワックスで真っ直ぐ束ねており、それを上へ六十六度の角度ぐらいに向けた特徴的なヘアスタイルだった。木場は変にかっこつけたヘアスタイルの男を知っている。

「テメぇ、便利屋のガキ!? オレが病院で頭ハじいたはずだぞ、なんで生きてやがる!!」

男改め、漆紀は睨むわけでもなく、平然とした表情で木場に問い詰めた。

「あんたがこの組の組長か?」

「ち、違う! オレは若頭だ! それよりお前、こんなことして……ただで」

ただですまない、と言おうとする木場の顔面を再度踏みつけてから漆紀は言い放つ。

「すまさねえよ、お前らをな」

漆紀は木場の顔面を軽く蹴って、再び刀を突き付ける。

「カタギなりにケジメと落とし前つけに来た。お前らの組の屋敷はどこにある? ヤクザなら事務所だけじゃなくてお屋敷ってのもあるハズだ。組長の居場所を教えろ、他の事務所も全部教えろ」

「クソガキが! テメエのオトモダチを撃ってやったぜ、どうだよクソガキ? この前吉祥寺で連れてたテメエのダチだ。えぇ?」

「は? 何を、言ってんだお前?」

言いたい事を全部ぶちまけて嘲笑ってやろうと、木場はにやけながら語る。

「ガキごときがゾクやヤクザに楯突きやがって。テメぇらカタギは大人しく頭下げてりゃいいんだよゴミどもが……太田とかいうガキ、撃ってやったぜ。あのメスガキも撃ちたかったがよぉ……テメエらは養分だ、どこまでもオレ達にすっからかんになるまで奪われ死ねば良いんだよゴミクズどもがよ。家畜が逆らいやがって……」

「お前が……太田を撃ったのか?」

漆紀が一言そう聞いた瞬間、木場は激昂した。

「テメぇは黙れぇぇぇえええええ!! 今喋って良いのはオレだ!! てめぇは黙って捌け口になれってんだ!! 誰がてめぇみてーな半端モンに口を」

 そこまで言う間もなく、漆紀は木場の口元まで刀を近づける。

「口を物理的に割くぞ。とっとと組長の場所を教えろ、すべての話をつけたい」

「組長と会ってどうすんだ……てめぇ何考えてやがる!」

「いいから教えろ。教えねぇとまず足を斬り付ける」

漆紀が木場の脛へと刀を押し当てながら睨みつける。

「知らねぇよ……言ったらオレの立場も終わりだからなァ……へへへ」

「は?」

迷いなく漆紀は刀をそのまま横に薙いで脛を斬り付けた。

「ああァぁああぁぁああッ!! ってぇええぇぇえっ!!!」

「カタギだから人を殺さねぇと思ってんのか?」

脛を斬って血濡れた刃を木場の首筋に当てがってそう問うと、木場は一気に冷や汗が噴き出す。

(このクソガキ、一丁前に覚悟キメてやがる……面倒臭ぇ、組長のために体張るとか馬鹿みてえだ。むしろコイツに教えて組長殺らせりゃオレが上がれるじゃねえか)

そう打算を付けると、木場は脛を押さえつつ話し始める。

「組長は普段屋敷に居る……昭島市の住宅街から離れた丘のところにひっそりとある。基本的に誰も近寄らないし目立たないところにある」

「昭島市か……」

漆紀は右手の村雨を木場に突き付けたまま、左手でスマートフォンを操作して平野小太郎に電話をかける。

『おっ、また辰上氏でござるな』

「なあ、昭島市にある丘に暴力団の屋敷って建ってるかどうか調べられるか?」

『いいですぞ。例に漏れず、情報を求む意図は問いませぬ』

数十秒待つと、小太郎から返事が返って来る。

『ありましたな。ネットで見れる航空写真に、見えづらいですが確かに屋根のある大きめの建築物が確認できましたな。詳しい住所は後程メールで送りましょうぞ』

「ありがとう、小太郎」

『引き続き〝無料情報局かざま〟を御贔屓に』

そう言うと小太郎は通話を終了しようとするが漆紀は「待った」と一声かける。

「通話はまだ止めるな。まだ確認したい事がある」

小太郎にそう伝えてから木場を見下ろす。

「どうやら嘘言ったワケじゃないな。じゃあ次は他の事務所も教えて貰おう。なにもヤクザの事務所は一か所だけじゃあるまいよ」

漆紀が更に情報を絞り出すべく木場の首筋に村雨を宛がうと、木場は先程と変らず脛の痛みゆえの苦悶の表情のまま答えた。

「他の事務所は、東村山市の秋ビルって雑居ビルと……瑞穂町の斎藤ビルってところだ。嘘じゃねえ……行きゃあ分かる」

「そうか……小太郎、更に情報の確認なんだが東村山市に秋ビルっていう名前の雑居ビルはあるか? あと、瑞穂町の斎藤ビルも」

『ちょっと待ってくだされ……ああ、ありますな。地名とビル名さえわかれば検索かけてすぐ出てくるレベルですな。確かにそのビルは存在しますぞ』

漆紀はなるほどと思うが、続けて小太郎が言う。

『どのビルもビル全体がヤクザのものというわけではありませんが、確かに事務所はあるようですな』

「よし。ありがとうな小太郎。とりあえずはコレで充分だ。今の情報も詳しい内容をメールで送ってくれ、また今度頼む」

そう言って漆紀は通話を終了すると再び木場に目を向ける。

「嘘じゃないのはわかった。テメぇの言う通り、事務所と屋敷はそこにあるんだろうな……」

そう口に出したのも束の間、漆紀のスマートフォンから着信音が流れる。電話であろうが、送信者は先程の小太郎ではない。

「下田!? あー、もしもし下田! 太田はどうなった、なあ!?」

漆紀は問い質すものの、七海は動揺しているのか震えつつもはっきりした強い声色でただ事実を述べた。


『あっあぁ、クソ……辰上、太田が……太田が、死んじゃった…っ!!』


それは、この状況で漆紀が一番聞きたくなかった知らせであった。

「へ、へへ……クソガキ、今の聞こえたぞ。太田とかいう無駄にイケメンのクソガキ死んだみてぇだなぁ! オイ! カタギが調子乗りやがって、テメぇらは万年オレら反社の養分で上等なんだよグズどもが!! えぇ!?」

太田介助が死んだ。恐らくは病院に運ばれたが助からなかったのだろう。地獄耳なのか、木場も漆紀のスマホから漏れるその声を聞き取り、歓喜の感情が沸き上がった。

「ざまぁねぇ!! ヤクザがカタギに手ぇ出さないワケがねぇだろ!! お前らカタギはサンドバッグだ、財布だ、食い物だ、当たり前だろクソガキが? そんぐれぇ自覚して少しはつつましく惨めに生きろよ、ホラ下向いて生きろよクソ」

「うるせえ」

静かに一言出すと同時に、漆紀は村雨の棟を木場の顔面に振るってぶち当てる。

「ぶぐッ!? もう良いだろ、どっか行けよ! テメぇからすりゃオレに用はねえだろうが! 出て行け家畜が! 大人しくしろ!!」

聞くに堪えぬ木場の言葉は聞いておらず、漆紀は以前介助が言っていた言葉を思い出していた。

『殺されたとかでなくてもさ、事故で死んじゃったとか、病気で死んじゃった。そういう死因でも……顔も合わせた事ある知り合いや友達が全員その人の事を話さなくなったり、最初から居なかったみたいにするの……スゲー嫌なんだ』

介助は確かにそう言っていた。そして、その思いは確かに漆紀に対しても向けていた。

『お前が死んだら、新学期早々またあの気持ち悪い空気を味わうからな』

介助は、そう言っていた。

(ふざけんなよ……お前が死んでも、その気持ち悪い空気味わうじゃねえかよ……馬鹿野郎!)

死ぬな、そう警告した介助が死んだ。少なくともこの場で介助を思う程度には、漆紀の中で友情感情はあったのだろう。

「用がねえなら出てけよ! もうテメエと金輪際ゴメンだクソガキが!」

「ああ、そうだな……」

漆紀は村雨を突き付けたまま、木場の背後に回る。真後ろに立つと、すぐさま刀を頭上に持ち上げて。

「用はねえから死ね」

木場の頭頂部へと村雨を振り下ろし、その脳天を斬り割った。ぷしゅ、と噴き出した返り血が漆紀のレインコートに付着して、人を斬っているという事実を漆紀に自覚させる。

「ケッ!?」

村雨の刀身は意図も容易く木場の頭皮から頭蓋骨、果ては脳までも切断し、たったの一振りで下顎近くまで斬り割った。

瞬時に絶命するわけではなく、木場は脳が状況を理解しようにも、脳を物理的に壊され思考出来ない思考を繰り返しつつも、突如電池が切れた様に思考が停まった。意識は停滞に閉じ込められ「なぜ自分が殺されるのか」心底理解出来ないという気持ちだけが固定されてから命が止まり、消えた。

木場の下顎にまで沈み脳や肉が絡んだ刀を力づくで振り上げて、更に返り血が漆紀の顔とレインコートに付着する。

漆紀は真っ直ぐ下向きに村雨を構えて持ち上げ、木場の割れた頭から腹に向けて一気に振り下ろして串刺しにする。

「ムラサメ、コイツの血を吸え。出来るだけの量全部だ」

『ええ』

ムラサメの答えが返って来るなり、急激に血液が村雨の刀身を中心として吸収されていく。

「ムラサメ。血を蓄えたとして、治すのに血液型とか関係あるのか?」

『関係ない』

「そうか。ムラサメ、今日は斬りまくるぞ。準備良いか」

『いつだっていい』

「萩原組を斬る。他の事務所に行こう」

漆紀は村雨を木場の体から引き抜くと。

「ムラサメ、一度収まれ」

 そう言うと村雨は刀身から霧が溢れたかと思うと、そのまま霧に飲まれて消えた。

そして漆紀は木場の亡骸に向かって両手を合わせた。

(敵とは言え、俺は遂に人殺しをしてしまった。もう後戻りは出来ない。でも……これで良いんだ。血を頂いた、ごめんなさい)

自分なりの決別をしてから、漆紀は他の組員が来る前に事務所を去った。

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