38.病院騒然、渦巻くもの
「面会中止ってどういう事?」
吉祥寺東病院1階の受付で七海が女性の受付員の言葉に首を傾げる。
本来ならば介助も連れて来るつもりであったが、介助は「ヤクザはやばい」と外出を拒否するばかりであった。
そのため単身七海は漆紀の見舞いに来たのだが、病院内では予想外の出来事が起こったのか慌ただしくなっている。
「今、本当になんと言えばいいか……事件ですよ! 警察がこれから来ますし、いや警察より先生方による手術が……あーもう! こんな対応初めてなんですよ! 病院内で襲撃なんて!」
「しゅ、襲撃!?」
「あっ、黙っててください! え、いや……とにかく面会は出来ないです! 早く帰ってください!」
受付員は初めての出来事で動揺するばかりである。
(まさか昨日のヤクザが辰上を……まあ、今日はとにかくダメみたいだし仕方ないかなー。帰ろ)
現状七海に出来る事はない。決して良いとは言えない状況だが自分に出来る事が無い虚無感からため息を吐くと、七海は吉祥寺東病院を出た。
帰り道、七海は深く考え込む。
(辰上、面白そうだなーって思ったけど、想像以上に危険かも。アタシも死ぬかもしれないし)
昨日のヤクザの襲撃を思い返すと、確かに命の危険からくる恐怖が最初に起こるものの、生来のものから来る好奇心と遊び心が勝ってしまう。
(アタシはただ、楽しい事して生きてたいだけ。暴走族との追いかけっこも凄いゾクゾクするし、昨日のヤクザなんて過去一の刺激で最高だったし)
下田七海。この女、享楽主義者であった。野次馬根性は当たり前、気になることにはひたすら首突っ込み参加する、悪い方に明るく前向きなある種の問題児であった。
楽しそうな集会があれば割り入って、乱痴気乱闘騒ぎがあれば駆け付け、死体が見つかったと聞けばそこへ行く。
(そもそもICCに入ったのだって、陰キャ連中がふざけ100%でやり始めてたから入っただけだし。なんならICC連中おちょくってやろう思ってたけど……途中で飽きたしなぁ。辰上の件もそろそろ引き時なのかな……)
とはいえ、享楽主義者とて自身の死のリスクを一切考えないというワケではない。いくつかリスクの高さを鑑みて、そのリスクが高すぎれば七海は手を引く。
今まで暴走族相手に逃げたりした経験があったため、七海にとって暴走族と喧嘩を何戦か交えるのはそこまで高すぎるリスクではなかった。しかし、ここに来てヤクザを相手にするには遊びではなくなる。
(でもなー、リスクは高いけどヤクザとやり合うなんて楽しそうだよなぁー。アタシなら行けんじゃない? やっちゃおっかな、どうしよっかなー……)
楽しむか、リスク回避をするか、眉間に皺を寄せて七海は考え込む。
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顔色を一切変えず、萩原組若頭・木場は病院から立ち去る。消音器を取り付けた拳銃で漆紀の病室を襲撃し、病院から100mほど離れた辺りでようやく爽快な表情を見せた。
(ぶっ殺してやったぜクソガキがよ! 病院なら見舞いに家族が来るだろうしな、あのクソガキの妹もぶっ殺してやった! ダブルスコア!! 親が殺せなかったのが悔いだぜ。クソったれ、あのクソガキ……親の顔を撃ってみたいぜ)
木場は吉祥寺で漆紀に対し殺意を持ってナイフで背を刺した。しかし、そのまま蹴ってナイフを引き抜くのではなく、力任せにヘッドロックでも決めつつ漆紀を何度も刺し続ければ殺せただろう。
しかしそれをしなかったのは、木場の趣向ゆえだった。
散々頭を悩ませ手こずらせる便利屋のガキを、その家族も出来る限り巻き込んで殺してやりたい。木場個人の私怨が大いに混じった計画だった。
(あのガキ本人殺しただけじゃ気が済まねぇなぁ。イマイチすっとしねぇ……そのうちツレのガキも殺しに行かねぇとなぁ)
木場は今までも、気に入らない人間や腹立たしい人間をその手で殺し、萩原組に貢献して来た。そうして若頭になったっわけだが、木場の殺人癖は未だに抑えが効かない。
およそ自分以外の人間を人間と見なしていない。それは部下に対してもそうであるし、自身の上司である萩原組組長に対してもそうだ。それゆえか、目に映る人間全てが殺人可能対象として、活きの良い鮮魚の様にも見えていた。
(殺さなきゃなぁ。ちゃんと殺ってスッキリしないとなぁ。夜露死苦隊のゴミガキどもも何人か殺せば少しはスッキリするか? いやー、微妙だな。元々味方ってせいであんまりスカッとしねぇな)
誰を殺せば一番爽快感があるか、そんな事ばかりが頭で渦巻いていた。




