14.反撃開始、漆紀と七海
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「ざけんなコラぁぁあああ!」
新浅堀橋から離れてものの数分、漆紀と七海は他の夜露死苦隊に発見され逃げ始めていた。恐らく先程七海が野球ボール一個で引き起こした事故の直後、構成員の一人が他の仲間に連絡をしたのだろう。
「ウチの仲間何人トばしてくれんだコラぁあああ!」
狭い路地や曲がり角を利用して逃げ続ける漆紀と七海だが、追手はバイクに乗っている。どう足掻いても速度の差があるため、追い付かれるのは時間の問題である。
「ヤバいヤバい、来てるっての!」
漆紀は後方から殺意剥き出しで追って来る夜露死苦隊を見て冷や汗が止まらない。
対して七海はそこまで焦った様子はなく、むしろ現状の非日常に興奮している様子だった。
「作戦思い付いた。どっか建物入ってやり過そう」
走りながらも七海がそう提案するが、漆紀は首を横に振って代案を出す。
「いーや、もっとシンプルなの思い付いたぜ! あのコインパーキングの車の陰に隠れんだよ!」
七海を引っ張ると、漆紀はコインパーキングに入るなり無数に並んだ車の陰に隠れる。
「これでしばらくやり過す。あいつらがどっか行ったら出よう」
「辰上はさ、戦う気はないの?」
「流石に数が多いとボコボコにされるし最悪死ぬ。せめて十人以下じゃねえと俺は勝てない」
「人数差を埋めるために同行してるんだけどなー。あのさ、アイツらがアタシら見失ったらさ、どんどん不意打ちしない?」
「不意打ち?」
「家出みたいな状態だって言うなら、どーせ暇でしょ? アタシも暇してたし、今日は夜通しアイツらを不意打ちし続けて懲らしめるってのはどうかな」
「それ……すごく良いな! すげぇワクワクして来た。なんだかなんでも出来る気がする」
夜通しでひたすら夜露死苦隊に対して奇襲を仕掛ける。まだ夜は長く、無限にも思える時間の余裕を感じた二人は、たった二人で夜露死苦隊をボロボロにしてやると本気で考え始めた。
すると、途端に思考がクリアになってなんでも出来るような気がしてくる。
「よっしゃ、じゃあまた巡回してくる部隊を襲ってやろうぜ! あと十分くらいすりゃ追手も一旦諦めて巡回に戻るだろうよ。そこを突く」
「だね。やっとやる気になってくれたね辰上」
「いーや下田。お前が居るから覚悟か決まった、やってやるぜ……今夜だけで夜露死苦隊ボロボロに出来るかやってみるか」